6.黄色いアヒルと錬金術師
ドランに手伝ってもらい、染料の材料と錬金道具を運び込む。たーちゃんから説明を受けていたビビアンとフェリックスは材料に驚くことなく、すんなりと受け入れてくれた。
「色を作ったら、それでガラス小物を作ってみよう。先にガラスを作ってから小物を作る流れで、折角だから今回は瓶以外のものにしようか。何か作りたいものはあるかな?」
「なら黄色いアヒルの貯金箱がいい! 僕もアヒルを太らせるんだ~」
少し考える時間が必要かと思っていたが、意外にも即答だった。
「僕も、ってことは誰か持ってたのか?」
「アヒルの貯金箱は『黄色いアヒルと錬金術師』の主人公の相棒なんだよ。僕の名前はこのアヒルと一緒なんだ~」
『黄色いアヒルと錬金術師』とは、ビビアン達が住む国で有名なお伽話だそうだ。錬金術師が出てくると聞き、ジゼルは興味津々だ。フェリックスはにこりと笑ってお伽話を聞かせてくれた。
主人公はとある貧乏な少年。彼は病気の母と幼い弟妹を養うため、錬金術を学び始める。真面目な少年の仕事は皆から好評で、すぐに食うに困ることはなくなった。母の病も快方に向かい、弟妹も大きくなった。するとお金に余裕が出てきた。今までは家族のためだけに頑張ってきた主人公だが、母の勧めもあり、自分のためにお金を使うことにした。
少年が自分のために何かをしようと思ったのは初めてで、目標を立てるにも悩んだ。じっくりと考え、自分で作った貯金箱がいっぱいになったら店を開こうと決めた。本当はひよこの貯金箱を作るつもりだったが、なぜかアヒルになってしまった。けれど少し間抜けな顔が気に入った。それから少年はコツコツとお金を貯めていった。
だが少ししたくらいで違和感を覚える。いつの間にか貯金箱が太るようになっていたのである。初めは気のせいかと思ったが、何度確認してみても作ったばかりの時よりふっくらとしている。それも入れれば入れるほど太るもので、貯金箱はいつまで経ってもいっぱいにならない。
普通の貯金箱を作ったはずの少年は、他の貯金箱を使おうとお金を取り出した。するとアヒルがみるみる痩せ細っていくではないか。まるで生きているかのよう。そうなると中身を抜くのが可哀想になってしまった。
主人公は今まで入れたお金は諦め、これからは餌やり感覚でお金を入れることにした。ビビアンという名前も付けて、毎日身体を拭いてあげる。開店資金は買ってきた貯金箱に貯めることにした。
すると少年の元には今まで以上に仕事が舞い込むようになった。丁寧な仕事をする少年の評判はよく、ますますよい評判が流れていく。少年はきっとビビアンが人を呼んでくれたのだ。そう考えた少年は、自分の店を構える際、店名にビビアンの名前を付けた。レジ横にはクッションを置き、その上にビビアンを座らせる。
開店準備が整い、少年がオープンの文字が刻まれた看板を下げて戻ってくると、ビビアンから神々しい光を発し、命が宿ったのであった。
こうして少年はビビアンと共に錬金アイテム店を経営し、一生仕事に困らず楽しく暮らしましたとさ。
「『黄色いアヒルと錬金術師』はうちの国では大人も子供も必ず知ってる話で、ビビアンって名前も縁起がいいとされていて老若男女問わず多いんですよ。この名前をつけると誠実な人間になる・大成するとも言われていて。まぁあくまでもお伽話で、名前は験担ぎみたいなものなんですが」
フェリックスはそう締めくくる。彼らの国にはビビアンだけでなく、ヴィヴィやヴィーアンなど、ビビアンに近い名前も多いらしい。それほど浸透しているのだと。
「たーちゃんはすきだよぉ。ジゼルとたーちゃんみたい」
「たーちゃんはジゼルのところに来た時からその姿だったけどな。でも精霊ってこうやって生まれるんだな」
「本当かどうかは分かりませんけどね。それに俺、動物の姿をした精霊が実在するなんて初めて知りました。話の中だけだとばかり……」
精霊はどこから生まれるのか――その謎は未だ解明されていない。精霊には謎が多く、分かっている情報自体が圧倒的に少ないのである。
といっても生まれ方なんて知らなくとも、目の前にいるたーちゃんが精霊であるという事実には変わらないのだが。
「僕もたーちゃんが初めて。たーちゃんと会ったらアヒルの貯金箱がもっと欲しくなったんだ。ふっくふくにしないと!」
フンフンと鼻息を荒くするビビアンに、たーちゃんはとある質問を投げかけた。




