7.朝光花
「た〜かぁい」
たーちゃんはキャッキャと足を動かす。ご機嫌だ。支えるジゼルも浮かれていた。
「花畑はここから西に少し飛んだところにある。なんでも朝の早い時間から昼前までしか花が開かない珍しい花らしい」
「もしかして朝光花?」
「そんな名前だった気がする。ジゼル知ってるのか?」
「図鑑で見ただけだけど。すっごい珍しいんだって」
朝光花の仲間に、昼光花と夜光花がある。
いずれも時間限定で開花する花で、花びらはうっすら光っている。
光を蓄積する花として有名で、大陸中に咲いている夜光花は錬金術でもよく用いられる。
だが朝光花は実物を見たことがない。
朝光花は三種類の中で最も光が弱く、晴れた日にしか咲かないため、採取が困難なのだ。
また群生地はその美しさから地元の人達に保全されている、と図鑑に書いてあった。
上空からとはいえ、見れるジゼルは相当運がいい。
何かいいアイディアが生まれるかもしれない。
そんな浮かれた気持ちは一瞬にして吹っ飛んだ。
悪い意味ではない。朝光花の花畑が想像以上に綺麗で、インプットのために見るのがもったいない気がしたのだ。
この時間を純粋に楽しみたい。この光景を脳裏に焼き付けたい。
淡い光は高く飛び立ったジゼル達をも優しく包んでくれる。まるで天国にでもいるよう。
「ねぇドラン、私、今、とっても幸せだよ」
「俺も」
「連れてきてくれてありがとう」
「ああ」
ゆっくりと旋回すること三周。
バッチリと堪能させてもらった。こうしてジゼル達は国へと帰っていくのだった。
配達ギルド前で下ろしてもらい、ドランとドラゴンにお礼を告げる。
たーちゃんと二人で宿に戻れば、女将さんと親父さんが迎え入れてくれた。
まだおやつの時間にも早いくらいで、お土産とお土産話は夜に持ち越し。
休んでていいと言う言葉に甘えて部屋へと戻る。
床にバッグを置き、錬金釜に魔力水を注ぐ。荷解きをする前にやることがあった。
「記憶が薄れないうちに作っちゃわないと」
「なにつくるの?」
「今回の思い出として、ガラスで作った朝光花をドランに渡そうかなって」
瓶との交換品のアイディアにはしない。
あれはジゼル達だけの思い出だ。思い出は錬金術で閉じ込めて、色褪せないように保管しておこうと思ったのだ。
普段、瓶作りに使っている材料を入れ、かき混ぜていく。
淡い光は乾燥させたオレンジの皮で再現。オレンジのデザートを作ってもらった際、何か使うかもともらって乾燥させておいたのだ。
完成型は上空から見たものをそのまま頭に思い描く。
図鑑を真似すれば細かいところまで再現できるのだろうが、今回は思い出を重視することにした。
「できた!」
完成したガラスの朝光花を割れないようにゆっくりと引き上げる。頭からゆっくりと出てきた花はイメージ通りの色をしている。
「じぜる、すっご〜い。いま、どらんにわたしにいく?」
「今日はやめておこうかな。ドランも疲れてるだろうし」
勢い重視で作ったため、まだ戻ってきてから一刻ほどしか経っていない。
早く見せてあげたいというたーちゃんの気持ちは嬉しいが、さすがに今日の今日で突撃しては迷惑だろう。
「じぜるがかえってすぐにこれつくったってしったら、どらんぜったいよろこぶとおもうな〜」
「そうかな?」
「つかれてるっていったらたーちゃんがもらう。かうんたーにかざるんだぁ」
「ドランのことだからそんなことは言わないと思うけど……」
どうするべきか迷っていると、ガラスの朝光花がふわりと浮き上がった。
「え、なんで浮き上がって」
「たーちゃんがもっていってあげるから、はやくはやく」
どうやらたーちゃんの力らしい。
ジゼルが知らないだけで、たーちゃんには様々な能力があるのかもしれない。
先に行ってしまったたーちゃんを追いかける形で部屋を出る。
なんだか今日はやけに張り切っている。歩くスピードも速い。ジゼルも早足になってようやく追いついた。
ガラスの花は自分で持ち、たーちゃんと共に配達ギルドへ続く道を歩く。
「どらんいますかぁ」
「あら、たーちゃんとジゼルちゃん。どうしたの?」
「どらんにあいにきたの〜」
「ドランなら龍舎にいるよ。長時間飛んだからブラッシングするんだってさ」
「そっか。ありがとぉ。じぜるこっちだよ〜」
どらん〜どらん〜と呼びかけながら、ズンズンと龍舎に進んでいくたーちゃん。周りはそんなたーちゃんを微笑ましく見守っているが、なぜそんなに張り切っているのだろう。
ジゼルが知る限り、一番張り切っている。
「たーちゃん? なんか忘れ物か?」
「ううん。おとどけもの〜。ねぇ、じぜる?」
「?」
「えっと、これ。ドランに渡したくて」
「これは……さっきの」
「今回の思い出に作ってみたの。ドランさえよければ受け取ってくれない、かな?」
何も恥ずかしいことなんて言ってないはずなのに、体温が急激に上がっている。
耳まで赤くなっているのは自分でも分かるほど。ドランは変に思ったのだろう。目を見開いて固まっている。
「……ごめん。困らせちゃったね。帰ろう、たーちゃん」
「もらう!」
「え?」
「ごめん。嬉しくて反応遅れた」
「無理しなくても」
「全然無理じゃない。本当に……嬉しくて」
「そ、そう?」
「大事にする。ありがとう、ジゼル」
言葉だけではなく、ドランは本当に幸せそうに笑う。
恥ずかしくて。
けれどそれ以上に温かい。
ドランのこういう表情が好きだ。ストレートに感情が伝わってきて、見ているこちらまで幸せをお裾分けしてもらえているかのよう。
友人としてではなく、それ以上の関係としてずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろうか。
好きの言葉が喉元まで出かかって、けれども飛び出る前に戻ってしまった。
何度も口にしてきた言葉。けれど意味が変わったことでドランを困らせてしまったら。
そう考えて、少しだけ臆病になってしまうのだ。




