6.搾りたてオレンジジュース
「おはよ~、じぜるぅ」
「おはよう、たーちゃん」
朝起きると、視界いっぱいにたーちゃんの顔があった。
抱き上げて身体の上から避ける。ついでに横を確認したが、そこにドランの姿はなかった。綺麗に毛布が畳まれている。
「ドランは?」
「おじちゃんのところにおそうじにいったぁ。かえりにごはんかってくるからきがえておいてって」
「そっか」
起こしてくれればよかったのに……。
ドランらしいと言えばドランらしいが。今のうちに着替えて荷物をまとめてしまおう。
「ごはんなんだろぉね」
「屋台によっては朝だけ出してるものもあるって書いてあったよね」
「ね~」
話しながらバッグから着替えを取り出す。ささっと着替えて、顔を洗い、髪を梳かす。
机の上に置いたままにしていた抱っこバッグから荷物を取り出し、お土産類を避ける。
クッキーは開けて、たーちゃんにあげる。たーちゃんが両手で大事そうに抱えて食べる姿を見てから、財布に手を伸ばす。
「ちょっと飲み物買ってくるね」
「たーちゃんまってるぅ」
「何か飲みたいものある?」
「きのうのんだの」
「レモネードでいい?」
「うん」
ドランがいつも飲んでいるのは紅茶だが、何がいいか分からない。
一つはレモネード、もう一つは違うものを買って好きな方を選んでもらえばいいか。
じっくりと漬け込まれた自家製シロップで作られたレモネードも美味しかったが、昨日は通り過ぎてしまった搾りたてオレンジジュースも気になる。
カップの横に積まれたオレンジがそれはもう美味しそうで……。
思い出したら飲みたくなってきた。
たーちゃんにお見送りされて、軽快に階段を降りる。
朝限定メニュー目当てなのか、屋台の方は思ったよりも人が多い。宿を出て少し歩いたあたりでドランを見つけた。
いつもよりもドランが輝いて見えるのは恋を自覚したからか。
声をかけようと手を上げると目があった。
「ジゼル! なんか食べたいものでもあったのか?」
「ううん。飲み物買いに来たの」
言いながら、ドランの手元を確認する。すでにたくさん買ってくれたようだ。だがまだ飲み物はない。タイミングがよかった。
「ちょうど一回戻って飲み物だけ買いに行こうと思ってたとこだったんだ」
「よかった。何か飲みたいのある?」
「搾りたてオレンジジュース。昨日から目をつけてて。ジゼル、オレンジ好きだろ?」
「私も美味しそうだなって思ってた!」
「やっぱり。どうせなら一番大きいの買って帰ろう」
「うん。たーちゃんはレモネードがいいって」
「昨日美味そうに飲んでたもんな」
「あ、半分持つよ」
「悪いな」
ドランから半分受け取り、オレンジジュースとレモネードを購入する。
一番大きいジュースは思ったより大きくて、飲み切れるか心配だが、これも祭りの醍醐味である。
朝食を食べ終わり、部屋の中をぐるぐると回る。帰る前の最終確認だ。
「忘れ物はないですか〜」
「ないで〜す」
「お土産も全部バッグに入ったし、大丈夫だ。帰ろう」
「うん」
受付で鍵を返し、配達ギルドへと向かう。
すでにかなりの数の人達が出かけたようで、昨晩のような焦りはなかった。
職員達の顔色も思ったよりずっといい。時折「昨日は助かりました」と声をかけてくる人も。
唯一疲れた顔をしていたのは、龍舎で寝泊まりした飛鳥族の相棒だろう。欠伸をしながら仮眠室へと向かっていった。
「ジゼル、そこで待っててくれ。あいつを出してくる」
「分かった。荷物見てるね」
「頼んだ」
ジゼルとたーちゃんは龍舎付近の椅子で待機。
中からなんだか言い争うような声が聞こえたが、出てきた時には二人ともいつも通り。ちょっとドラゴンがニヤニヤしているくらいだった。
「娘よ、帰りは少し寄り道をするぞ」
「どこか行くんですか?」
「この辺りに花畑があるらしい。掃除に来た時におしえてもらったんだ。といってもこいつが降りたら花が散るから、空を旋回するだけだけどな」
「坊なりの詫びらしいぞ」
「余計なこと言うな」
職員からのお詫びの間違いではないか。
といっても謝られるようなことをした覚えはないが。
それよりどんな花が咲いているのだろうか。ジゼルの意識は完全にそちらへシフトする。
雪解け祭りでいくつもの『芽吹き』をテーマにしたアイテムを見てきた。どれも素敵だったが、瓶との交換品に繋がりそうなアイディアが浮かぶことはなかった。
あれらは何かと何かを組み合わせた後の、商品として完成したもの。錬金術で似たものを調合するのは違う。
サービスとはいえ、錬金術、いやジゼルならではのものが作りたい。
「ジゼル、荷物入れるから貸してくれ」
「あ、うん」
ドランの一言で意識を引き戻され、急いで荷物を渡す。
準備が終わったドラゴンに乗せてもらい、行きよりも高く飛び上がった。




