この世界ではよくある黒歴史
「出でよっ、キングシルバリオンソード!」
「「「おおーっ!」」」
現在、村長宅にてテッド君による聖剣のお披露目が行われている。
俺やメルド村長がここ数日の事情を説明し終えた後、コスト伯爵様がテッド君に「ぜひ聖剣を拝見させていただきたい」と請うたのだ。
「これが……伝説の……」
「輝く白銀の剣身……昔話で聞いた通りだ!」
「幼い頃に憧れた聖剣が、今、目の前に……。女神様、感謝いたします……」
「ああ、勇者様……! 同じ時代にご一緒できて光栄でございます!」
虚空より現れた、白銀の輝きに一同は心を奪われている。
神器を目の当たりにし、伯爵様や子爵様は元より、歴戦の強者であろう護衛の騎士様たちも子供のように目を輝かせていた。中には感涙に咽ぶ者までいるほどだ。
女神様により選ばれる「勇者」とは、それほどの存在なのである。……肝心の勇者様が、「ふふんっ」と得意げに鼻を鳴らしているテッド君なので、イマイチ実感が湧かないが……。
「……」
……もし、予定通りにサリィちゃんが勇者に選ばれたら伯爵様たちはどのような反応をしただろうか?
平民出身の勇者様は珍しいことではない。だが、女性の勇者様は前例が無いのだ。
戦闘向きの【祝福】を得た強い女性ならゴマンといるが、はたして「勇者」という特別な存在として彼らがここまで手放しで歓迎したかは疑問である。
(アルシエ様はそれに意義があるとか言ってたけど……まっ、今更だし、考えても仕方ないか)
「スモーク司教殿、これでこのお方が女神様が夢でお告げになられた勇者テッド様であることが証明されましたな!」
「うむっ! 聖剣も『祝福事典』に記載されている特徴と一致しておる。コスト伯爵殿の言う通り、テッド様に間違いないじゃろう! ただ……」
「ただ?」
スモーク司教様は「はて?」と首を傾げた。
「テッド様? 聖剣は“エルシアン”という銘だったと記憶しているのですが、今おっしゃられた“キングシルバリオンソード”とは何でしょう? その言葉を唱えることが《聖剣》の発動条件なのですか?」
さっぱり分からないといった顔をしたスモーク司教様が、テッド君に叫んだ理由を尋ねた。
……どうやらテッド君を揶揄する意図は無く、純粋に疑問に思っているようだ。
「司教殿、それを聞くのは……」
「勇者様には勇者様のお考えがあるのでしょうし……」
思い当たるふしがあるのであろう。
コスト伯爵様とカラード子爵様がやんわりと口を挟んだ。
周りでは騎士様たちが「うんうん」と首を縦に振っている。
「?」
分かっていないのは司教様一人だ。
メルド村長は目を逸らしているし、アルトさんは耳まで真っ赤になっている。
……なんだか俺まで気恥ずかしくなってきた。
この場で平然としているのは、ハナから他人事と思っているノエルと、もう一人――
「いや? 俺が考えたこの剣の名前だぞ? エル何とかってダサいじゃん? 絶対こっちの方がカッケーって!」
全く恥ずかしいとも思っていない当のテッド君だ。彼は臆面もなく自身の考えを口にし、周りの気遣いをあっさりと無に帰したのであった。
「「「――うぐぅ!!」」」
……何名かが胸を押さえて苦しみ出した。かつての記憶が蘇ったのかもしれない。
「どうなされた!?」
突然周囲の人間が苦しみ出したことに仰天した司教様は、泡を食って後ろを振り向き、護衛に指示を飛ばした。
「おいっ、コスト伯爵殿とカラード子爵殿が苦しみ出された、早く医者を……何と、お前もか! カイン君、村の医者を――」
「ま、待ってくだされ! 私もカラード子爵殿も大事ありません。どうかご心配なく!」
こんな馬鹿な理由で医者に診られたと知られたら末代までの恥だ。伯爵様は大慌てで司教様を止めていた。
「はぁ……ならば良いのですが……?」
司教様は周りを見渡し、釈然としない表情をしていた。
発端となったテッド君は、キョトンとした顔で目をパチクリさせている。自分が原因だと理解していないようだ。
『兄さん、子爵様の【祝福】は《加速》のようです。子供の頃は発動時に心の中で俺の時間と言っていたそうですよ! 伯爵様は10代の時に妄想していた最強【祝福】を思い浮かべていました! あと、伯爵様の後ろにいる壮年の騎士様は現役です。《腕甲》の加護者みたいですが、自分の武器をバーニングカイザーナックルと密かに名付けてます!』
「――ッ!」
『ノエル、止めろ! 今笑ったら不敬罪になる!』
『あっ……そうですよね、ごめんなさい』
危なく吹き出すところだった。こんな事で死刑にはなりたくないぞ。
『カインには無かったのですか、そういう時期は?』
アルシエ様が話に加わってきた。先程、司教様に神罰を下して貰えないかと、ノエルが相談してた時から念話が繋がりっぱなしになっているのだ。なお、神罰は却下されている。
『俺たちは割と幼い頃に【祝福】を授かりましたからね。ノエルにバレると思ったら、恥ずかしくてそんな痛い妄想はできませんよ』
『成る程、それでは無理ですね』
(まあ、念話中にふと妄想した事がノエルに筒抜けになったケースは多々あるけどな。……ノエルにシて欲しいことがバレた時もあったっけ……)
あれも充分恥ずかしい出来事だが、ノエルもアルシエ様にその事は言わないだろう。
『確かに兄さんはその手の妄想は無かったですね。――でも、ちょっと痛い口説き文句を考えていた事がありました』
『ほほう、詳しく聞いても?』
『ノエル!?』
アルシエ様が興味ありげに返事をしている。
ヤバい、止めなければ!
【補足】
・聖職者と貴族の力関係について
本作の舞台、リマーサ大陸においてエアリス教会は大きな権力を持っています。特に総本山がある、主人公たちが住むレルト王国では、教皇は国王に匹敵する権力者です。
僧侶と貴族では一概にどちらが偉いとは言えませんが、レルト王国内では、
教皇≧国王>枢機卿(大司教位)≧公爵>侯爵≧大聖堂管理責任者(司教位)≧伯爵>都市部の教会管理責任者(司祭位)≧子爵>男爵>農村部の教会管理責任者(司祭位)>騎士
およそこんな感じであると考えて下さい。
なお他国の場合、頂点には大司教がおり、国王並みの地位を得ています。
・僧侶のイヤリングについて
かつて僧侶は一律で銅のイヤリングでした。
エアリス教会には貴族出身の僧侶も多数おり、都市部の教会管理者は大体がそうです。(逆に平民出身者は殆どが農村部の教会に送られます)
なので、教会組織に入ることでイヤリングの色が銀ではなくなり、平民と同じに扱いに不快感を感じる者が多かったため、『僧侶は銅のイヤリング』という制度が定められました。
当初、平民との差別化に僧侶は自尊心を満たしていました。ですが、貴族たちの間で「銅落ち」、「安イヤリング」、「服は金色、耳は銅」などの僧侶への悪口が広まり、銅のイヤリングを格下に見出した事で話は一変します。
反発を覚えた教会は直ぐに制度を撤廃。イヤリングを平民と同じ基準に戻しました。
今ではほとぼりが冷めたので、「銀メッキ」、「貴族は見栄っ張り」と貴族を逆に陰口を叩いております。




