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ロクデナシ神父のアポスタシー 〜勇者パーティ加入拒否!最初の村で勇者の活躍を見守ります〜  作者: 山野 水海
第一章 新しい日常と勇者の旅立ち

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どこの世界でも偉い人の話は長い

 村長宅に入ると、年老いた下男が応接間の前まで案内してくれた。


「カイン神父様、お客様はこの部屋で待ってます」

「ありがとうございます。あとは大丈夫ですよ」

「助かります……偉い人の前はどうも苦手で……」


 下男は「ヘヘッ……」と苦笑いすると、そそくさとどこかへ行ってしまった。


(逃げたな……)


 俺は内心でため息を吐き、応接間のドアをノックした。

 すると、中から聞いたことのない男性の声で「入りたまえ」と返事があった。


「失礼します」


 一言告げてからドアを開け、中に入った所でノエルと共に丁寧なお辞儀をした。


 頭を下げる前に目に入った室内の様子は想像通りのものだった。応接間には備え付けのソファーが4脚置かれているが、それぞれに一人ずつ人が座っていた。

 チラリと見た限り、ソファーに座っている面々は、貴族様がお二人と北方教区長のスモーク司教様、そしてテッド君だ。

 彼らの周りには護衛と思わしき騎士様が控えている。イヤリングの色は見逃したが、おそらく赤とか白だろう。

 床にはメルド村長一家とアルトさんが平伏していた。メルド村長以外はチラ見でもわかるくらいビッショリと汗をかいていて、可哀想になるほど緊張しているようだった。

 

「お待たせして申し訳ございません。私はこの村の教会を管理しております、司祭のカインと申します」

「修道女を勤めております、ノエルと申します」


 名乗った後も頭を下げ続けていると、浮かれ気味な男性の声が返ってきた。


「よいよい、先触れも出さずに押しかけたのは我々だ。むしろ急に呼び出して申し訳なく思っているくらいだ。まあ、頭を上げて楽にしたまえ。今日は我が国にとって記念すべき日なのだ、つまらない事で咎めたりなどしないさ」

「ははっ」


 許しが出たので頭を上げる。ノエルはソロソロと俺の後ろに控えた。

 どうやら声を掛けてきたのはソファーに腰掛けているやせぎすの壮年男性のようだ。

 豊かな髪と髭は整髪料でツヤツヤに撫でつけられていて、耳には貴族の証とも言える銀のイヤリングが輝いていた。国王陛下の使者として、格式に則った上品な衣装を身に纏っている。


(このお貴族様が陛下の御使者様か。歴史的場面の登場人物になれて随分と機嫌が良さそうだな)


「ワシは国王陛下の御下命により勇者テッド様をお迎えに上がった、コスト伯爵家当主、トルネルである。今後、我が国の歴史書に記されるこの名をよく覚えておくがよい」

「ははっ」


 そう言って伯爵様は「ハッハッハ」と大笑いした。

 高位貴族なのに俺の様な平民にまで自己紹介するあたり、そうとう自分に酔っているみたいだ。

 

(まあ、機嫌が良いならそれに越したことはないな)


 テッド君は大丈夫かと思い、そちらの方に目を向けると、彼は知らない大人に囲まれているためか、やや緊張していた。


「あっ……!」


 目が合い、テッド君の顔が少し緩んだ。顔に「兄貴が来てくれて良かった」とわかりやすく書いてある。

 ……しかし、村長や父親があの有り様なのに、ちょっと顔が強張る程度しか緊張していない。大物なのか、鈍いのか……。

 

「久しぶりじゃな、カイン君。赴任の挨拶以来だったかな? そうそう、なんでも勇者様の聖別の儀を取り仕切ったそうではないか。いやはや、何とも羨ましい。僧侶としてあるまじきことじゃが、カイン君に嫉妬してしまうのぉ」


 冗談めかした口ぶりで北方教区長のスモーク司教様が話し掛けてきた。

 教区長としての正装に身を包み、耳には青いイヤリングを付けている。好々爺然とした初老の男性に見えるが、彼とてエアリス教会の高僧である。正体は俺たちと同じロクデナシだろう。顔ではニコニコ笑っているが、腹の中で何を考えているか分かったものではない。


(頼むから逆恨みなどしてくれるなよ……)


「ご無沙汰しております、スモーク司教様。勝手をしてしまい申し訳ございませんでした。儀式の前に司教様へご相談に上がりたかったのですが、『【祝福ギフト】獲得後、3日以内に聖別の儀をすべし』という国法がありますので、時間の都合上、ノール村の教会で儀式を執り行わざるを得なかったのです……」


 スモーク司教様は満足そうに大きく頷いた。


「うむうむ、それで結構。歴代の勇者様方も最初は最寄りの教会にて聖別の儀を受け、後ほど王都の中央大聖堂にて再度儀式をなされたそうじゃ。カイン司祭の判断は全くもって正しいぞ」

「ありがとうございます」


『……兄さん。スモーク司教様なんですけど、心の中で兄さんとアルシエ様を口汚なく罵ってます。どうもテッド君を出世の足掛かりにしようと考えていたみたいですね。チャンスをくれなかったアルシエ様と、チャンスを横取り? した兄さんを逆恨みしてます』

『うへぇ……』

『……気分が悪くなるので、これ以上は聞けません。ごめんなさい……』

『いや、無理をしないでくれ。逆恨みされていることが分かっただけでもお手柄だよ』

『はい、ありがとうございます……』

 

 やっぱりスモーク司教様もロクデナシだ。毎年毎年、少なくない上納金を納めているのだから、少し勝手をするくらい大目に見てほしいものだ。

 はぁ、面倒になる前にご機嫌取りをしないといけないな……。


(定番は賄賂だが、確かスモーク司教は大のワイン好きだったはず。とすれば実家に頼んで……ととっ、それは後で考えよう。先にやる事があった)


 俺は、ソファーに座る最後の一人――この領を治める御領主様であるオルター・カラード子爵様の方を向いて頭を下げた。

 子爵様は金髪を短く刈り上げた若々しい容姿の三十代男性だ。顔つきは厳つく、髭はキレイに剃ってある。

 さらにはカラード子爵家は代々軍部に所属しているからか、鍛え上げられた体つきをしていて、腕の太さなど俺の倍くらいある。ぶっちゃけ、夜道でばったり会ったら腰を抜かしてしまうくらい怖い外見だ。

 耳に輝くのはもちろん銀のイヤリングである。

 子爵様とお会いするのは、ノール村へ赴任する際に一度面会した以来だ。


「御領主様、ご機嫌麗しゅう存じます」


 子爵様は鷹揚に頷いた。


「うむ、カイン司祭も健勝のようだな。この度、女神様が我が領地から勇者様をお選びになられたのも、ひとえにノール村の村民らの篤き信仰心故であろう。日頃のカイン司祭の教導に感謝する」


 体格に見合った、大きくハキハキとした声だ。


「ありがとう存じます。――ですが、私は村の皆様の信仰のお手伝いをほんの少しさせていただいたに過ぎません」


 一旦顔を上げ、村長たちの方に視線を向ける。


「ノール村の皆様は、毎日を慎ましく誠実に生き、朝に、昼に、夕にと熱心に祈りを捧げております。その敬虔な暮らしぶりには私も常日頃から尊敬の念を抱いているくらいであります。女神様はその姿をご覧になり、この村から勇者様をお選びになられたのではないでしょうか? 私にはそう思えて仕方ないのであります」

「ほほぅ、カイン司祭はその様にお思いかっ! 領主として誇らしいな!」


 子爵様が歯をむき出しにして笑う。顔が顔だけに、笑顔であってもちょっとビビってしまう。


「でしたら、御領主様から村の皆様に向けて何か一言、お褒めの言葉を頂戴できませんでしょうか? もし賜れましたら、それが何よりの栄誉となります」


 メルド村長の背中がピクリと揺れた。


「うむっ、あいわかった! ――村長よ、おもてを上げよ」

「ハハッ」


 頬を紅潮させたメルド村長が顔を上げ、子爵様の膝のあたりに目線を合わせた。


「後ほど村人を招集せよ。その時に私自らそなたらの篤き信仰心を讃えようと思う」

「おぉ……有り難き幸せに存じます。村人一同、生涯の誉れとなりましょう」


 ボロボロと涙を流し、震える声でメルド村長はそう言った。

 彼の隣ではダン君が感極まって嗚咽している。

 

「実に素晴らしい! オルター殿、せっかくの機会だ、私にも村人たちに一言声を掛けさせてくれ」

「ならば儂も参加させていただきたいのぉ。敬虔な村人たちに賛辞を送りたいのじゃ」

「おお、トルネル殿、スモーク殿! もちろんですとも。ぜひご一緒にお願いしたい!」


 にこやかな笑顔で二人が話に加わってきた。

 子爵様は無邪気に喜んでいるようだが、彼らには彼らの思惑あってのことだろう。


『伯爵様はエピソード作り、司教様は貴族様への対抗心だろうな』

『でしょうね。盗み聞きをするまでもありません』


 やいのやいのと盛り上がる3人から目を逸らし、チラッと村長の様子を伺う。

 村長は急に人数が増えたことで心の許容量をオーバーしたのか、ボーっと子爵様の膝を見たまま放心していた。

 なお、アルトさんは最初からずっと変わらず緊張しっぱなしだ。今では微かに震え始めている。


『結局はお偉いさんが1人から3人に増えただけなんだし、メルド村長もそんな真剣に受け止めなくても良いのに……』

『ですよね。むしろ話が長くなった分、損をしています』

『一言つったのに、絶対長くなるよな』

『対抗心バリバリですから、司教様の話は子爵様や伯爵様より長くなりますね。今夜……いえ、明日の晩のオカズを賭けてもいいです』

『嫌だなぁ。みんな草臥れるぞ。アルシエ様、敬虔な村人を苦しめた罪で司教様に神罰を下してくれないかな?』

『一応、《念話》で聞いてみます』


(あっ……!)


 そういえば、この場には堅苦しい長話が大っ嫌いな子供がいたんだった。

 俺はさりげなくテッド君の様子を確認した。


「……ふぅ」


 案の定、彼はあからさまにつまらなそうな顔で、こっそりとため息をついていた。

 早く話が終わらないかな、そう顔に書いてある。

 テッド君は今回の主役だ。逃げ出されなどしたら3人のメンツが丸潰れになる。遺恨など生じたら、最悪、後々になって俺や村長に咎が降りかかる羽目になるかもしれない。


(……演説中、逃げないように見張ってないとな)

 

 この後やるべきことが決まった瞬間だった。

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