第一章 七幕
鳶色に細かな格子柄の着物も。
仕立てられたばかりのしだれ桜柄の着物も。
じんわりと疎らに赤く染まっていた。
二人は声も無く、虚ろに見上げる。
がくりと膝を付く。
そして二人は抱きしめ合い、小さく震える。
娘がそっと呟いた。
「あり……がと……う。」
母親は眼を見開き涙を流した。
同心は声を掛けられない。
だからそっと微笑んだ。
榊が叫ぶ。
「宗玄!」
一瞬、眼だけを向け、滝のように打根をばら撒く。
白凰は飛び跳ねてこれを躱す。
が、全ては捌けなかった。
肩に、足に、打根が刺さっている。
「……一人目。」
屋根に飛び乗った白凰が見下ろしていた。
起き上がった虎殺しは宗玄へと駆け寄る。
微笑んだまま固まる宗玄を抱えるように支えた。
「洒落ならんで自分。」
榊はぎらりと白凰を見据える。
立ち止まり、一息付く朱手拭。
その様をちらりと横目で見た律は一瞬、首を傾げ、瞳を閉じ、頷くと眼を開いた。
朱手拭は咄嗟に構えようとするも。
槍の柄が後ろ首を殴打し、朱手拭は膝から崩れた。
律は宗玄へと眼を向ける。
虎殺しに抱えられ二人が退いた先には、無事だった母娘。
母娘。
血に染まった、母娘。
立ち上がる紅孔雀。
振り返り、背筋を凍らせた。
笑みを浮かべ走ってくる律。
その眼が。
笑っていない。
はっと振り返ると黄麒麟の表情も凍り付いている。
紅孔雀は奥歯を噛み締めると迫り来る律に向き直った。
「退いて頂戴。」
呟き迫る、串刺しの律へと。
「ふざけんなワレ!どこ行くねん!」
榊が叫び走る。
白凰は表情を強張らせ律へと走る。
紅孔雀の手に持つ刀と両肩から突き出す刃それぞれに亀裂が入る。
黄麒麟の鉄製の手甲が次々と欠ける。
二人の体に赤い筋が増えていく。
その三者の頭上から降ってきたのは白凰。
槍の間合いのその内で、拳を、足を、肘を、膝を繰り出す。
律はこれをどうにか柄で捌くと距離を取る。
だが、白凰は詰める。
「投げろ!」
攻撃を繰り出しながら白凰が叫ぶ。
律は眼を細めた。
紅孔雀が投げたそれは、律と白凰の間で爆ぜ、周囲を煙で覆った。
律は眼を伏せ、槍を放る。
「覚えて置いて頂戴。」
今だ晴れない煙の中で、呟く。
「絶対、殺す。」




