↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第一章 六幕

 大門から大男が出てくる。


 男は律と眼を合わせ、片手を上げる。


 律も片手を上げ、笑顔を向けた。

「朧の傘持ちありがとねぃ。」


「こちらこそだ、何か要る物あるか?」

 首を振る律。


 男を見送ると、ぼんやりと青空を見上げた。


 人々が行き交い、話声が通り過ぎていく。


 このまま瞳を閉じてしまえば、すうと寝息を立てそうな矢先。



 

 爆音。


 振動。




 喧騒。




 律はうっすらとした視界の中、耳を向ける。


 焦げ付く硝煙の匂い。


 少し離れて金属音。


 花魁たちの話声。


 白粉の香りが動くのを感じ、律は腰を上げた。


 朧の客間に目を向ける。


 雛鶴が下を覗いていた。


 律は拳を軽く頬に当てると、両手を眼の前で大きく交差させ、雛鶴へと頷く。


 雛鶴も頷く。


 槍を片手に、律は走り出した。




 まず目に付いたのは、金砕棒をぶんぶんと振り回す全剃毛の大男。


 その大男の周囲を飛び回り、火筒を投げ付ける小太刀の朱手拭。


 向かいの屋根では、三人揃って黒づくめの鴉面が周囲を見渡している。


 その下。


 仁王立ちする紅孔雀。


 胸の前で拳を合わせているが、何より異様なのは、その背に担いだ刀の束。


 外に向けられ右に五刀、左に五刀。


 手指の様に飛び出す刃は、まるで広げた翼の様だった。


 そして、律に向かって歩いて来る剣客。


 水面のような白と水色がはっきりとした柄の羽織。


 表情こそ小さくも明らかな笑みを向ける白髪交じりの男。


「あんたが水蓮だねぃ。」

 律は微笑みを向ける。


 水蓮の手が、柄に向けて動きかけた刹那。


 穂先が先刻まで心の臓があった位置を通過した。


「聞いていたよりせっかちな男だ。」

 半身になりながら水蓮は口角を上げる。


 律は口を広げ、手を当てる。

「あーやっちまったねぃ。」


 両手で槍を持ち直すと、空を見上げた。

「まあ、これはしょうがないねぃ。」


 水蓮が踏み込み、振り下ろす。


 二の太刀、三の太刀とこれを捌くと、漸く律は顔を水蓮へと向けた。


 向こうで紅孔雀がちらりとこちらに眼をやる。


 水蓮の全身に寒気が走る。


 それは槍衾のように水蓮を押し返した。


「やっべえ。」

 水蓮の頬を汗が伝う。


 と同時に律も目を細める。


 屋根に居た筈の鴉面がいない。


 咄嗟に律は身の回りで槍を振り回した。


 鎖鎌に鎖付き分銅。


 鎖付き鉤爪。


 その他よくわからない刃物を捌き、鴉面の一人を穿つ。


 手を休めずに二手、三手、水蓮の足に穂先が沈んだ頃、律は動きを止め、振り返った。


 聴こえたのは拍手。


 火筒の炸裂音が未だに響く中、その男は優雅さすら漂わせ、ひたひたと歩いて来た。


 振り返らずに振った槍の穂先が、水蓮の喉元に浅い筋を残した。


 鴉面が鴉面に肩を貸し、後ずさる。


 仰け反って躱した水蓮も腰元に刃を納める。


「凄いね。」

 拍手する手を止め、男は口を開いた。


 結われていない髪がゆらゆらと風にそよぐ。


 白の着流しに無刀の男。


 耳には穴を穿ち、異国の耳飾りを付けている。


 律は微笑む。

「誰か知らないけど、そんな殺気向けられたらまた手が出ちゃうでねぃ。」


 律は視線を動かす。


 いつの間にか、野次馬が集まりつつあった。


 その間を抜けて、岡っ引きと三人の同心。


 榊と宗玄、もう一人は頭一つ大柄だった。


 耳飾りの男が呟く。

「虎殺しまで来たか。」


 男が指を差すと、水蓮と鴉面達は去って行った。


 追う岡っ引き。


「今日はここまでかな。」

 にこり、と男の頬が上がる。


 その顔を穂先が抜ける。


「本当に?」

 律も微笑みを返す。


 地を蹴り空中で一回転し、地面に降り立った男は頷く。

「本当に。」


 ぱんぱんと手を叩くと、金棒の大男も動きを止め、背を向けた。


 紅孔雀は律と朱手拭に視線を向ける。


「遊び足りない?」

 耳飾りの男が声を掛ける。


「白凰、あんたは?」

 紅孔雀も応える。


 一瞬。


 耳飾りの男の笑みが、変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。