第一章 一幕
薄明るい冷たい風が肩を擦る。
大門が開き、小太りな男が身を縮めながら、外へ。
きょろきょろと辺りを伺い、首を傾げた。
そっと目線を下げると、門の横ですうすうと、男が槍を抱いて船を漕いでいる。
小太りな男は目尻を緩め、槍の男の懐にほかほかの包みを差し込んだ。
へっくしと、小太りな男は遠ざかっていく。
槍の男はうっすらとその背を見送り、頬を緩めた。
懐に手を差し込み、包みを取り出す。
すると、背後から声。
「てめえ、俺が先だったんだぞ!」
気を立てた男達が大門の前で言い争う。
「何を言ってやがる!他の女で楽しみやがったくせに!」
槍の男は包みを開いた。
「おのれぇ、これ以上侮辱するなら、たたっ斬ってやる!」
言い争う一人が柄に手を添える。
もう一人も応えるように柄を握る。
「おう、やる気かよ!受けて立ってやらあ!」
そのまま刃を滑らせた矢先。
「(もぐもぐ)……んぐ。辞めようねぃお二人さん。」
男達が声に振り返ると、槍の男が笑顔で立っていた。
笑顔を崩さずに、齧りかけのおにぎりを口に運ぶ。
二人は一瞬、目尻に力を籠めるも。
「ああ、ごめんな律さん。どうやら呑みすぎたみたいだ。」
片方はすぐさま両掌を体の前で振った。
「飲みすぎは体に毒だでねぃ。」
律はひらひらと空いている掌を振って応える。
残る一人は肩を震わせている。
笑顔のまま、向き直る律。
「旦那もさっ、楽しい夜で終わろうねぃ。」
男の眉間に皺が寄る。
「……がって。」
律は耳を寄せる。
「綿雲が舐めやがって!ぶち殺してやる!」
刃がきらりと光る。
そして振り下ろされる。
律は残ったおにぎりを口に運んだ。
指に残る米を唇に押し込み、頬についた米も指で取る。
その顔の前で、刃の先が震えている。
「もう気は済んだかぃ。旦那、冗談は程ほどにだねぃ。」
降り下ろしきれずに男は震えていた。
「ごめんな、律さん。そんなつもりじゃなかったんだ。」
律は微笑んでいる。
「いいんだって旦那。今後とも御贔屓にねぃ。」
男達は申し訳なさそうに去っていく。
その背を眺め、律はもう一つのおにぎりを手に取った。
朝の風が白粉の香りを運ぶ。
律の背後には花魁が立っていた。
「偉いじゃないのさ。」
少し振り返る、律。
「んー?」
花魁は煙管を口に運びながら呟く。
「手、出さなくなった。」
律の頬がもぐもぐと動く。
「……んぐ。平和はいいもんだねぃ。」
花魁の口から細い煙が紡がれる。
「変わったもんさね。」
灰を落とし、雁首を懐紙で拭くと、葉を詰めて差し出す。
律は手を伸ばす。
掌に煙管が触れるも、花魁は少し力を強めた。
「?」
首を傾げる律。
花魁は顔を近づけた。
「なんでお披露目見てあげないのさ。」
律は眼を細め、空を眺めた。
花魁の手から力が抜け、律は煙管を口に運ぶ。
上品な甘い香りを漂わせ、煙を吐き出す。
灰を落とすと、口を開いた。
「見てたさ。……無月がねぃ。」
花魁は少し、眉を下げ、背を向けた。
「ならいいけどさ。」
大門に向け足を向け、顔だけ振り向く。
「まだ米粒ついてるさね。」
律は眼を丸めて自分の頬をさすった。




