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28話

 


 ケイソンはぶっ倒れそうだった。


 この街で一番大きな剣術道場である「フローウィング」に門下生として入ることが出来たのはとても嬉しいことだったが、稽古はきついし道場主であるトーリング師範の放つ圧力が凄すぎるから。


 これは魔力圧迫と言われるもので、自分より強い魔力を放つものが近くにいると人間の体というのは強いストレス状態となるのだ。


 外にいる野次馬達も師範の近くだけはぽっかりと空間が開いている。魔臓を持っている自分ですら脂汗が出て来るくらいなのだから、そうでないものはよく気を失ったりしている。


「ここいいよ、見えやすいよマリン」


「本当だね、なんでみんなここを開けてるんだろうね」


 少し声が聞こえた。そしたらすぐに顔半分を覆うくらいの薄いピンク色のマスクをした少女二人がやって来るのが見えた。


 危ない。


 そう思ったところで兄弟子に肩を打たれた。


「何をやっているケイソン!集中せんか!」


「申し訳ありません!」


 怒っているのはダグラスという背の小さな男だが、こいつは態度はデカいが剣の腕は大したことが無いので怖くは無い。けっこう痛かったけど。


「やっぱりすごい迫力だね」


「そうね」


 心配していた少女達のことを横目て見てみれば何事もないかのように普通にそこにいる。


 おかしい。


 もうそこは師範の距離なので、普通なら立ち眩みを起こしていたりしているはずなのに。


 何かあったら助けてあげようと思っていたので、少々肩透かしだ。大勢の野次馬達の前で格好いいところを見せたかった。まあ彼女たちが無事でよかったけど。


 その後もケイソンは横目でマリンとセラフィーの事を気にしながら稽古を続ける。実の所、道場にいる男たちは全員気になっていた。


 というのもこの道場を見学に来るのは剣術好きな男だけでは無くて、女性の姿もちらほら見える。彼女たちは剣術には一切興味が無くて、推しの男を見に来ているのだ。


 門下生たちもそれを知っているので、若い女性が見に来た時には一体誰のことが推しなのか密かに、かつ非常に気にしているのだ。


 少し背の高い方の少女が指をさした。その先を辿ってみればそこにいたのは師範のトーリングだったので、他の門下生たちは一気にガッカリした。隠すのが下手な不器用ものは、ため息をついたりしている。


「よし!100名剣であるこの私が直々に稽古をつけてやろう!」


 いつもは見ているだけの巨体で顔が長方形の男くさい男は大声を出して剣を構えた。


 鼻息が凄い。


 彼もまたマリンとセラフィーの推しが誰なのかが非常に気になっていたのだ。


 少女と言えど女である。


 彼は極度の熟女好きではあるのだけど、嬉しいものは嬉しい。何しろ彼はその男臭すぎる顔のせいでモテない。


 しかしながら剣士としての腕は人間の中で飛びぬけている。技術というよりもむしろその巨体から繰り出されるパワーに魔力を上乗せした号の剣が彼の魅力。


 気合十分で剣を振るいまくり門下生たちを打ちまくる。この「フローウィング」道場の特徴は木刀が太いことだ。


 必要以上に張り切っているトーリングに打たれなくないと、門下生たちの集中力はMAXになって非常に良い稽古になっている。


「どう?」


 姉と慕う少女に問いかける。


「………」


 答えを返さないほどマリンは集中している。



 声を張り上げ稽古に集中している彼らは知らない。


 自分達の剣が勇者によって観察されていることを。普通ならば迫力ある木刀の動きを注目するものだが、彼女たちが見ているのは違う。


 戦いで重要なのは足運び。


 虎丸から教えられた言葉を真剣に受け止めている彼女たちは、本気で動く男たちを見て学ぶ。


 見て覚える。


 それが簡単に出来てしまうのが天才なのだ。


 自分よりも弱い人間から技術を吸収することが出来る。


 それが天才なのだ。





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