27話
<売り切れました>
宿を取り、クレープ屋へと戻って来たマリンとセラフィーは扉に掛けられているお洒落な看板を見て、しばらく立ち尽くした。
「うー、やっぱりじゃん!」
「行列してた人達がいなくなってるから、おかしいなとは思ったよね。すごいショックだよ」
「ねぇ、クレープってそんなに人気なの?」
「そうみたいね」
「食べれないってなったら、すんごい食べたくなってきたんだけど」
「私もそうだよ。あれだけ沢山の人が並んでいて、しかも売り切れちゃうんだからクレープってものすごくおいしいんだろうね」
「うー!」
「まあまあまあ、しょうがないから明日まで我慢しよう。その代わりにちゃんと宿は取れたから、野宿しなくてもいいんだもん」
子供二人で宿をとるという事で少し手間はかかったけれど、それでも自分達だけで出来たことはすごく達成感があった。
「明日は朝一番で並ぶよ!」
「それじゃあこれからどうしようか」
「やりたいことはたくさんあるけど、私は剣術の道場に行ってみたいな。この街には大きい道場があるんだよ」
「やっぱりマリンって剣術が好きね」
「好きっていうのかは分かんないけど、強くはなりたい」
ここ最近のマリンは剣術の稽古を前よりも一生懸命頑張っている。それというのも、他の事をしていると頭の中に「強くなりたい」という思いが湧いてきてしまう。
前は勝てなかった相手に勝てるようになっていくという嬉しさはもちろんあるのだけど、強くならないと大変な目に遭うような、そんな予感がいつもするのだ。
「わかった、それじゃあ剣術を見に行こうよ」
「いいの?セラフィーはそんなに興味ないんでしょ?」
「興味はあるよ、私も戦えるようになりたいから」
「わかった。それじゃあ行こう」
「道は分かるの?」
「大丈夫。ちゃんと地図を持ってきてるから、これを見ながら行くから。結構大きな道場だから近くまで行けばすぐに分かると思うし」
「それじゃあ地図は任せた」
「ちょっと待ってよ、なんで私だけなのよ」
「だってマリンが地図隊長だし」
「知らない間に隊長にしないでよ」
「いいからいいから。早く行こう、もしかしたらクレープ見たいに売り切れるかもしれないよ」
「道場に売り切れるとかないから」
笑いながら手を繋ぐ。
慣れない手つきで地図をひっくり返しながら、ふたりは進んで行く。この街に来てからまだ一日もたっていないのだけど、それでもその背中には少しだけ成長の跡があった。
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「ねえちょっと」
この街で一番大きな剣術道場である「フローウィング」へとやって来たマリンはげんなしした声をあげた。
「すごいたくさん人がいるね」
セラフィーが目を丸くしながら言った通り、道場の周りにはたくさんの人だかりができていた。
「ちょっとだけどんな剣術をしているのか見たかっただけなのにこれじゃあ見れないじゃん」
「すごい人気なんだね。でもなんかあんまり剣術に興味無さそうな人もいるよ」
そこにいるのは作業着姿の人たちや子供や女性の姿もあって、真剣に剣術を見ているというよりも、楽しんでみているような雰囲気がある。
「お嬢ちゃん達もトーリングを見に来たのかい?」
白い花を咲かせている大きな木の下で、ひとり酒を飲んでいるヤギ髭の老人が声を掛けてきた。
「?」
「トーリングだよ、トーリング、100名剣のトーリング」
「私たちは剣術を見に来たんだよ。ここが町で一番大きな道場だって聞いたから、どんな感じなのかなーって。トーリングさんのことは今初めて聞いたよ」
顔半分を覆うくらいの大きなマスクをしたセラフィー明るく答えた。
「おおなんだそうなのか。ワシはてっきり、そうかそうか、勘違いだったか。てっきりトーリングの稽古を見に来たのかと思ったぞ」
「有名な人なの?」
「そりゃあもちろんそうだ。100名剣だからな」
「100名剣ってなに?」
「そりゃあなんちゅうか………まあとにかく強い人間の戦士ってことだ」
「そうなんだ………あれ?見てよマリン、あそこだけ空いてるよ」
「ほんとうだ」
見てみれば大勢の人だかりの中にぽっかりと空いた場所がある。
「お爺さん、あそこって行ってもいいの?」
「もちろんいいぞ。この道場は稽古を誰にでも見られるように公開しているからな。なんでも緊張感を保つためだとかなんかと言っているが、ワシに言わせれば人気取りのためにやっているだけだな。剣術というのは己自身と真摯に向き合ってやるものであって、人からよく見られ怠惰とか門下生を増やしたいだとか、そう言った邪な心を持つべきではないと………」
もうそこにマリンとセラフィーの姿は無かった。
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