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22話

 


 ショウタは震えていた。


 クラスメイトのエイトに誘われてここまでやって来たのは、一度魔王城というものを近くで見たいと前から思っていたから。


 思っていても実行するつもりは無かった。だけど彼と一緒だと外に出ることがあまり好きでは無い自分が行動的になってしまうから不思議だ。


 しかし今回はそれが裏目に出た。遠くから魔王城を見て帰るつもりだったのだけど、エイトはいつも以上に張り切っていて止めることが出来なかった。


 後悔している。


 いま目の前に魔王がいる。紫色の肌をしていて今までに見たどんな大人よりも背が高くがっしりとした体つき。


 そして威圧感。


 深い深い水の中に沈んでいるように感じる。動けば動くだけ死が近づいてくるだけ。


 きっと魔王虎丸はそんなつもりは無いのだろう、ただそこにいるだけで、こっちが勝手にそう思ってしまうだけの力を持っているのだろう。


 魔王は古きものほど力を増す。魔王虎丸は生まれてから十年も経っていない新しい魔王のはず。それなのにこれだけの力を持っているなんて、やはり魔王というのは存在としての桁が違う。


 嗚呼、それなのにーーー。


「おい魔王!俺の名前はエイトだ、お前をぶっ倒しに来たぞ」


 いつも一緒にいるクラスメイトが、まさかここまで頭のネジが飛んでいるやつだとは思いもしなかった。殺される、なんだか笑えた。


「お前にそんなことが出来るとは到底思えないんだけどな」


 まるで兄のような口調だった。


「まあな、それは冗談だ」


 あっけらかんと言う。


「本当は魔王っていうのがどういうやつなのか一回見て見たかったんだ。魔王虎丸は人間を怖がってるって聞いたから、殺されることは無いと思ったんだ」


「なるほど、人間達はそう思ってるのか」


 魔王虎丸はどうでも良さそうに答えた。


 大体にして人間みんながそう思っているわけではない。むしろ学がある人ほど、安易に戦いを仕掛けない魔王の方が賢い魔王だと思っている。


 その点、魔王虎丸はいままでに他の魔王と大規模な戦争を一度もしていないはずだ。だから何も知らない人たちは、この魔王は臆病な魔王で、人間のことも恐れているなんていう話で盛り上がるんだ。


「それはそうと、お前の特殊魔法を見せてくれないか」


「そんな言葉に俺が騙されると思ったら大間違いだ。自分の能力を敵に見せるなんてこれほど馬鹿なことは無いんだ、それくらい分かってんだよ!」


 得意げに胸を張る。


「いいじゃないか、さっきはクレイマンに見せたんだろ?」


「そりゃあ、あのときはなんていうか勢いっていうかで………」


 今まで威勢の良かったオレンジ色の髪をした若者がもごもご言っている。


「見せてくれたらいいものをやろう」


「いいもの?なんだよいいものって」


「それはその時のお楽しみ」


「ちぇっ、ケチだな」


「ほら、早く見せてくれ。かなりいい特殊魔法なんだろう?」


「わかったよ、そんなに見たいなら見せてやるよ」


 エイトは困ったような顔をしながらも鼻を膨らませ、ポケットからカードを取り出した。


「このカードの中には分厚い本が100冊も封じ込められている。これを持ったまま俺が心の中で「解放」って思えば、あっという間に中のものが出て来るんだ」


「それはすごいな、実際にやってみせてくれないか?」


「いいぜ、ほら」


 カードを放りなげると、頭くらいの大きさの白い煙と一緒に大量の本が現れて、重そうな音と共にカーペットの上に次々と落下していった。


「どうだ見たか魔王!これが俺の力だ!」


「なるほどな………」


 本を拾い上げぺらぺらと捲る。


「ところで………本は出てきたが、カードは消えたな。どこにいったんだ?」


「そんなもん無くなったに決まってるだろ。カード化を解除したらそのカードは消えるんだよ」


 言いすぎだ。


 この二人のやり取りには一切口を挟まないようにしてやり過ごそうとしていたショウタだったがさすがに焦った。


 自分の特殊スキルの内容を敵に教えてやるなんて正気の沙汰とは思えない。まさかエイトがここまで馬鹿だとは思ってなかった。


 袖を引っ張る。


「なんだよふたりとも、男のくせに袖なんか引っ張るなよ気持ち悪いなー。そういうのはかわいい女子がやるもんなんだよ!」


 見ればモートンも袖を引っ張っていた。自分と同じく、魔王は怖いがさすがに止めないとマズいと思ったようだ。


「いい特殊スキルだな」


「そうだろ!もっと褒めてくれ、めちゃくちゃいいんだよこれ」


「カードの中に人間を入れることも出来るのか?」


「それは無理。入れれるのは物だけ」


「なるほどな。けどいいスキルなのは確かだ。欲しいくらいだよ」


 これだけはっきり止めているにもかかわらず、上機嫌で喋りつづけるエイト。


「そうだろ?思ったよりお前って頭いいんだな、俺の特殊魔法「室内遊戯具」の良さが分かるなんてよ」


「そりゃどうも」


 嬉しくもなさそうに虎丸は答えた。


「っていうか早くいいものをくれよ」


「ああそうだったな」


「まさか騙すつもりじゃないよな。特殊魔法を見せたらいいものをくれるって約束だったろ?!」


「嘘はつかないよ。ただエイトの「室内遊具」が思ったよりもいい魔法だったから夢中になっていたんだ。いいものはこれから準備する、たぶんお前たちが今まで見たことのないものだろう」


「なにそれ!めっちゃ面白いじゃん!」


 魔王を目の前にして、誕生日プレゼントを買ってもらう子供のようにはしゃいでいるエイト。


 こいつはバカだ。


 ショウタは思った。


 友達だし良い奴だけどバカだ。


 少し笑った。





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