21話
平凡と言えば平凡な魔王虎丸の魔王城には度々人間が訪れる。
この日は春の様な、ねっとりとした日差しが降りそそぐ日の夕方。3人の若者が魔王城の前に立っていた。
「ここを開けろ!このエイト様が魔王討伐にやって来たぞ」
太い丸パイプをつかった門を揺らしながら、オレンジ色の髪の背の低い若者が声を張り上げた。
「やっぱりやめとこうよ」
丸顔の若者が顔を青くしながら言う。
「大丈夫だって。知ってるだろ?ここの魔王は人間にビビってる魔王なんだからさ」
「そうは言っても魔王は魔王だし………」
「魔王虎丸が人間を恐れているというのは根拠のない戯言ですね」
眼鏡をかけた細身の若者が言う。
「魔王虎丸というのはかなり頭のいい魔王に違いないと、有識者の中では言われているんですよ」
「け!何が有識者だよ、適当なこと言うな」
「学校でも教わりましたよ。魔王は年月を経るほどに力を増す、だから賢い魔王ほど安易に戦いを仕掛けない。若い魔王は特に、と」
細身の若者が言った。
「そんなの聞いた事ねーよ!」
「僕も聞いたよ」
丸顔の若者がのほほんと言う。
「じゃあなんで先に言わなかったんだよ、モートン。お前のせいで俺が恥かいたじゃねーか!」
オレンジ色の髪をした背の低い若者がヘッドロックをかます。
「痛い痛い痛い、だって忘れてたんだもん」
「忘れるな!授業は真面目に聞け」
「そんなこと言ったってエイトだって忘れてたじゃないか」
「この野郎、俺に口答えか上等だよ」
ヘッドロックの力をさらに籠める。
「痛い、痛いってばやめてよエイト」
「正確に言うならばエイトは忘れていたわけでは無くて、最初から覚えていないんだと思うけどな」
甘く匂うような原色のオレンジ色の夕日にいる3人は、ここがどこだか忘れてしまったかのように大騒ぎをしている。
「遊んだのならとっとと帰れよ、お坊ちゃんたち」
一瞬にして黙り込んだ3人が見たのはいつの間にかそこにいた土人形のような魔物、クレイマンだった。
「お!ようやく魔王の手下がお出ましか。待ってたぜ」
オレンジ色の髪をした小柄な若者が、犬のように舌を一周させてから言った。
「俺たちは魔王討伐にやって来たんだ。さっさとこの門を開けろ、さもないとお前ごとぶっ壊しちまうぞ」
「俺たちじゃなくてエイトだけです、僕達は別に………」
「どうでもいいからとっとと帰れ」
「俺たちは本気だ。特殊魔法だって持ってるんだぞ」
「だから俺たちじゃなくてエイトだけで………」
「はいはい、ここに来る奴はそんな事言うやつばっかりだよ」
「俺は本当だ!」
「はいはい、わかったわかった」
「本当だって言ってんだろ」
「お前なんかどうせ魔臓すら持ってないんだろ。本当になんでこんなに人間って馬鹿なんだろうな。しょうもない喧嘩自慢なんかが勝てるような相手じゃないんだけどな」
体も顔も土なので表情は動いていないはずなのだが、馬鹿にしているという事ははっきりとわかる。
「馬鹿にするな!」
「しつこい奴だな。だったら証拠を見せてみろよ」
「証拠?」
「特殊魔法だよ。俺の目の前で今すぐやってみせろよ、お前にそんな勇気があればの話だけどな」
「あーいいぜ!今すぐ見せてやるよ」
エイトは口の端を上げて笑う。
「しょうもない手品なんかすんなよ」
「は?」
「前に来た奴は安っぽい魔道具で手品を披露して、俺は最強の魔法使いだから、殺されたくなかったら一億ゴールド用意しろとか言ってきたんだよ。お前も同じだろ?」
「誰が手品なんかするかよ。ビビらせてやるよ」
「お前が本当に特殊魔法を持ってるなら魔王虎丸様に連絡だけは取ってやるよ」
「言ったな!吐いた唾呑むなよ?」
「もちろんだ」
人間と同じくらいの大きさの土人形が、顔を変えず笑う。かたやオレンジ色の髪をしたの若者の方は、小鼻を広げ自信満々の顔をしている。
「ちょっとエイトやめときなよ、自分の能力を簡単に相手に見せちゃいけないって学校で習ったろ?」
「そうだよ。あんな見え透いた挑発に乗っちゃだめだよ」
「あそこまで言われて引き下がれるか!」
土人形のため息。
「はいはい、やっぱり嘘ね。はーしょうもない時間を過ごしたわ。さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってな僕ちゃん」
「むきー!許せん。その節穴かっぽじってよく見てろ、これが超レアな俺の特殊魔法「室内遊戯具」だ!」
ポケットから取り出した手のひらサイズのカードをクレイマンの顔の前に持って行くと、手のスナップを使ってそれを放り投げた。
すると突然、空中に大型のピアノが現れた。
「どうだ見たか、これが俺の能力だ。約束通りにさっさと魔王を呼べ!」
「ぐっ、どうやら俺の目は節穴だったらしい」
土人形が悔しそうな声と共に跪く。
「はーは!分かればいい分かればいいんだ、このエイト王子はバカガキ王子なんかではないという事が分かっただろ!」
「エイト、いや、エイトさん。あんたのその素晴らしい能力とはいったい何なんだ、気になって気になってしょうがないんだ。もしよければ教えてくれないか?」
上目遣いで尋ねる。
「いいだろう!よく耳をかっぽじってよく聞くんだぞ。俺の特殊魔法は物体をカードに閉じ込める能力、それが「室内遊戯具」なのだ!」
ノスタルジーなオレンジの夕焼けの中、エイトは最高のドヤ顔でサタデー・ナイト・フィーバーのポーズをしていた。
隣の若者二人は顔を覆っていた。
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