30 聖人の肌着が巡礼者を集めていた時代
日曜日はやっぱり手持ち無沙汰に過ごして、月曜日になった。「例の誓いについて、お話したいことがあります。あの方もお呼びして、一緒にお話しできればと思います。」という指示語だらけの手紙をしたためると、朝早いうちにピエトロに渡す。
昼前には返事が届いた。「私もちょうどお伺いしたことがあったので、お話ししたいと思います。ジュスティーナ 様も呼びますので、今日の午後はいかがでしょうか。」ロザリナ様のことだから一週間後くらいの指定かと思ったが、都合のいいことに明日のジュリエットの社交デビューを前にお会いできるらしい。証人の名前も事前に手に入った。準備は万端だ。
ストルネロ夫人に、「おしゃれすぎず、部屋着すぎない格好」を頼んでおいたのだが、白いシャツにこげ茶のベスト、黒いズボンと革靴という、シンプルながら割とモダンな衣装が出てきた。朝ごはんに硬いクッキーを牛乳で飲み込むと、意気揚々とロザリナ様の家に出発する。
ロザリナ様の家、すなわちリヴィアの家には来たことがあったが、ジュ・ド・ポームで遊んだだけだったので邸内には入っていなかった。石造りだが、パウロの屋敷と比べて装飾がやたらと細かくて色は薄暗く、邸内も迷路みたいな感じだった。ピエトロと別れてロザリナ様の使用人についていったが、道を覚えていられないほど入り組んだ構造だ。
ようやく案内された部屋は、長椅子の感じからいって応接間だろうか。窓は小さなものが一つあるだけで、戸棚には墨なのか木炭なのか、何やらよくわからないものが並んでいる。
「パウロ様、今日は来ていただきありがとうございました。」
ロザリナの声がした。振り返ると、いつもの静かなロザリナ様の姿があった。舞踏会の時はほんのり紅潮していた肌も、元の青白い色に戻っている。ちょっと髪の感じがやつれているかもしれないが、基本的には見覚えのある表情だ。派手さのないすっきりした水色の2ピースを着ている。
「いえ、こちらこそ急なお誘いを受けていただきまして、お礼を申し上げます。しかし、随分と複雑な構造のお宅ですね。こんなところに住んだら迷ってしまいそうです。」
「古い城を歴代の当主が増築しながら広げていったので、段差や入り組みが多い作りになってしまいまして。地下牢などもあったそうですが、私は見たことがありません。」
地下牢か、怖いな。建物の感じも古そうな部分とそうでもないところがあった。
「なるほど、歴史を感じますね。」
他に返事が思いつかない。ふと思ったけど、パウロがお宅にお邪魔するのはこれが初めてではないかもしれない。あまり不慣れな感じを出したくない。
「ところで、この戸棚ですが、前にお話したときよりも増えたりしましたか。」
訪れていなかった場合も考えて「お話」した時ということにしておく。
「ええ、新しい聖遺物が手に入りまして。これは貴重な聖カタリナ様の髪でして、アレクサンドリアからの舶来品です。」
なんだか新興宗教に引っかかった人みたいな感じにも見える。昔の人の髪の毛展示するのもなかなか変わっていると思うけど、まあミイラコレクターとかに比べれば普通なのかも。
「それは素晴らしい。」
とりあえず無難に返しておく。
しばらくは世間話が続いたが、間が空いて、ロザリナ様が切り出した。
「ところで、おとといリヴィアとジュ・ド・ポームをされたそうですね。」
「ええ、楽しかったです。ロザリナ様も今度ご一緒にいかがですか。」
「いえ、私は運動はあまり得意ではないので。」
確かにリヴィアに比べてロザリナ様は血色が良くないし華奢に見える。本当はこういう人こそ運動した方がいいと思うんだけどね。
会話が止まったが、考えてみれば急に話題がリヴィアに移ったのは何か意図があったに違いない。
「そういえば、おとといはご挨拶に伺わず申し訳ありませんでした。運動着で汗をかいていたものですから、失礼のないようにと思いまして。」
リヴィアの庭園がロザリナ様の庭園でもあること、すっかり忘れていた。だが館の近くに来る頃には汗だくだったし、これは悪い言い訳ではないはずだ。
「どうぞお気になさらず。」
淡々とした答えが返ってきた。様子が変わったようには見えない。
「ですが、パウロ様はリヴィアをどう考えておいでですか。」
さっきとは違う、探るような目でロザリナ様が見てきた。




