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26 ラケットが登場するのは16世紀から

ようやくたどり着いた井戸水は、夏でも冷たくて喉が気持ちよかった。


「いかがですか。パウロ様。」


「うん、冷たくて美味しい。汗もかいたしちょっと水を被ろうかな」


「パウロ様、おうちに帰るまでお着替えができないのに、風邪を引いちゃいます。」


リヴィアにしては正論を言ってきたし、ここは遠慮しておこう。さすがに女の子の家でシャワーを借りるわけには行かないだろう。と言ってもシャワーなんて当然ないので桶でぬるま湯をかぶるだけなんだけどね。


井戸の近くにはテーブルが用意されていて、使用人が館から果物とお湯を運んできた。何やら葉っぱが入った茶こしにお湯が注がれて、薄く色のついたお湯が差し出される。


「そうか、ハーブティーか!」


「ティーってなに?リヴィアにも教えてください、ね!」


ティータイムという概念はなかったみたいだけど、久しぶりのハーブティーは悪くなかった。若干葉っぱっぽい味がしたけど。


休憩の後に案内された室内コートは赤いレンガの壁で覆われていて、屋根を作っている途中のようだった。床は赤いタイルで覆われている。


「白いボールが目立つように、牛の血で色をつけましたの。」


あまり知りたくなかった由来はともかくとして、赤いタイルはボールが見やすいのは確かで、さっきよりも弾むからゲームもしやすいかもしれない。リヴィア曰く壁から跳ね返ったボールも相手のコートに入れば打ち合いは続くらしい。つまりテニスというよりスカッシュってやつに近いみたいだ。


そんなこんなで、花園でのテニスの後にレンガでのスカッシュというなかなか粋な午後が過ぎていって、日が暮れる前にお暇することになった。


「また遊びましょうね、パウロ様。約束よ、ね!」


「うん、今日はほんと楽しかった!また遊ぼう!」


久しぶりに色々忘れてリフレッシュできた1日だった。ジュ・ド・ポームのコート、伯爵家でも作ろうかな。帰りはリヴィアの家の馬車に送ってもらえることになった。


家に着くと、何やらそわそわした様子のピエトロとフォスカリが出迎えた。


「どうした、何かあった?」


「いえ、パウロ様、いかがでしたか。」


ピエトロは俺がジュ・ド・ポームをプレイできたか怪しんでいるようだ。今日の調子ならピエトロくらい倒せる自信はある。


「すごく楽しかった。記憶がなくなって以降じゃ、最高の1日だったよ。」


満面の笑顔で報告する。


「いえ、ロザリナ様との誓約の件の方は」


フォスカリさんが心配そうに聞いてくる。そういえばそういう目的もあった気がする。


「もちろん、その件も検討したのだけど、聞いてみる時間的余裕がなかったというか・・・」


話し終わらないうちに、フォスカリがピエトロに銀貨を渡しているのが見えた。ピエトロは俺が目的を忘れる方に賭けていたようだ。


主人を信頼しない従者なんてとんでもない。マリーノさんに頼んで賭け金の分給料をカットしてもらえないだろうか。

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