19 イベントが誕生した頃はみんな試行錯誤
セシリア様を相手に豪快に笑っていたおじさんは、使用人か誰かに耳打ちされたあと部屋を出て行った。セシリア様は一人。今がチャンスだ。
いきなり茶会の話をするのも変だし、何を話せばいいのかな。ストルネロ夫人は話しかけられたときの対応は教えてくれたけど、話しかける秘訣は伝授されてないし。
「その仮面、お似合いですね。」
とりあえず思いついた言葉を言ってしまった。考えてみれば仮面を用意したのはセシリア様じゃなくて主催者側だったけど、さっき会ったのに服を褒めるのも変だし。
「そうですか。安心しました。」
仮面を被った顔がこちらを向く。近くで見ると、仮面が顔より大きいせいかあまり似合っていないかもしれない。
どうしよう、次の一手がない。
「そういえば、ジュリエッタ様のデビューが、来週の8月1日だそうですね。それで」
続けようとすると、セシリア様は仮面の口の前に人差し指を立てて制止した。
「今日は仮面舞踏会ですの、明日と昨日の私は別人ですから。」
普通の喋り方なのに、セシリア様の声とセリフが相まってすごくセクシーに響く。これは、アルベルト様の言っていた楽しみ方だよね。リヴィア達がわかっていないのは世代的なものなのか、単に経験がないのか。
そうなると話すことがない。でも見ず知らずってフリをするんだったら、口説いてもいいんだよね。
「仮面を被っても、可愛らしい姿は隠せませんね。」
ちょっとだけ砕けた話し方でもいいはずだ。実際にセシリア様は雰囲気が美人だし、間違ったことは言ってない。仮面が5度くらいずれていることなんて関係なく綺麗だ。
「可愛いなんて言葉、私にはもったいないですわ。もう26になりますのに。」
26!パウロと6歳しか違わない!いや今晩だけの設定かもしれないのか。だいたい13歳になる娘がいる26歳の母って何者なんだ。
「俺と同年代ですね。可愛らしい、という言葉では足りませんね、美しい。」
「まあ、お上手ね」
パウロ様の声が甘いから、有馬晴樹だった頃は言えないセリフを思い切って言える。
「綺麗なお顔が仮面に隠れているのは残念です。でもそのおかげでこんなに近くで素直に綺麗だと言えるのは嬉しい。」
自分で言ってみて、婿入りした後も同じようなセリフを言うんだろうなと、ふと思った。義理の親子になると言うことは、恋愛関係になることは望めないだろうけど、近くに居て親しくできるし、苦しいことがあったら力になれるかもしれない。
それは逆に辛いだろうか。
「あなたは情熱的な方ね。」
セシリア様は相変わらずあしらっているけど、まんざらでもないような言い方だ。思えば、こんな若いのに名門に嫁いで大きな娘がいるのだから、せっかくの美貌でも言い寄ってくる人は少なかっただろう。
「こんなにお綺麗なのに、恋愛をさせてもらえなかったなんて。もしよかったなら、俺が、」
何も考えずに文を初めてしまって、どもってしまう。何を言おうとしたんだ、俺。セシリア様も少したじろいだようだった。




