18 踊っていれば会話が尽きる心配はない
仮面舞踏会も舞踏パートが終わったようで、皆おしゃべりをしている。赤みがかった松明が灯されて、室内は黒とオレンジのまだら模様になっていた。
俺が何をしにきたのかすっかり忘れていたけど、気がついたらカプレーティ家のセシリア様、リヴィア、ロザリナ様とも交流できているし、アンセルメ伯爵も好意的だった。アルベルト伯父様も満足の出来じゃないだろうか。ちなみにリヴィアに様をつける気になれない。
「パウロ様、8月1日にジュリエッタの社交デビューを兼ねた茶会がありますが、いらっしゃるのですか。」
ロザリナ様が期待に満ちた表情をしている気がする。この人は仮面の上からでもなんとなくご機嫌が分かる。
「ええ、招待をお受けしようと思っています。」
ジュリエッタはセシリア様の娘、つまり俺が将来嫁ぐ政略結婚相手だ。と言っても年齢的にだいぶ先の話になりそうだけど。初対面で嫌われないように気をつけないと。
そうか、この茶会を理由にセシリア様と話せるかもしれない。
「それについて、セシリア様にご挨拶に行こうと思っているのですが。」
「伯母ですか?伯父ではなく?」
ロザリナ様は不思議そうに俺を見つめる。そういえばセシリア様の旦那もここにいるんだった。なんとなく会いたくない。
「伯父様に先にご挨拶をするのが礼儀でしょうか。」
そこらへんのマナーはよくわからない。最低限のマナー指導で、俺を社交界に3度も送り込むスカラ一族って、こう見ると横暴だ。
「いいえ、伯父と違って、伯母はパウロ様とあまり接点がなかったように思いましたから。」
どうやらセシリア様と話せそうだし、ロザリナ様は俺が伯母様に気があるとは思ってないみたいだ。少しホッとする。セシリア様とそんなに接点がなかったのは残念だが、以前のパウロの記憶があまりないなら違和感なく仲良くなれるかもしれない。
「パウロ様、伯母さん怒ると怖いのよ。伯父さんもそうだけど。私と踊った方が楽しいわ。」
リヴィアは諦めが悪い子だ。ふくれっ面も可愛いけどね。できればセシリア様をおばさんと呼ばないでほしいけど、怒ると怖いというのは有益な情報だ。
「リヴィア、もう誰も踊っていないでしょう。パウロ様、セシリア様のところへ案内しましょうか。」
一方のロザリナ様は常識人を地で行く感じだ。
「いえ、大丈夫です。一人で行けます。それでは、ロザリナ様、リヴィア、また来週に会いましょう。」
パウロ様の武器であるはずの営業スマイルを振りまいて、席をたつ。
「やはり仮面が合わなかったのですか。」
そうだった、仮面をしていた。ロザリナ様の2度目の指摘は結構辛い。
「そんなパウロさまあ!リヴィアと踊らないなんて約束が違うわ。」
約束してない。やっぱりリヴィアは油断できない。しかし、パウロが「誓い」とやらを立てた相手がリヴィアだったら誤魔化せただろうに。
「今日もご婦人方に人気ですな、パリス伯爵。」
隣のチョビ髭おじさんが声をかけてきたので会釈をする。いつから会話を聞いていたんだろう。結局このひとの名前はわからなかったけど。
そんなことよりセシリア様だ。お近づきになる大義名分は得た。パウロに声をかけたそうな人を避けるようにして、奥で誰かと話している彼女を目指して歩く。
やっぱり後ろ姿もいい。堂々としているのに、どこか儚い感じのする後ろ姿。髪をひっつめているゲストが多い中でさらっとした仕上げの髪型も、柔らかい雰囲気を強調していてしっくりくる。
話し相手は何やらメタボ気味の中高年の男性だ。アンセルメ伯爵達と比べて気品がない感じで、たぶん侍従か誰かだろうけど、せっかくの綺麗な景色が台無しだ。
話に割り込むのも難しそうなので、少し待つしかないようだった。




