17 確認できなかった送信済みアイテム
「そういえばパウロ様、メイドの人たちに襲われかけたと聞いたわ。とても怖かったでしょう。リヴィアが癒してあげる。だから踊りましょう、ね!」
とりあえずリヴィアがワンパターンなのは分かってきた。そしてあの着せ替え人形事件は襲われかけたという形で噂が広まっているのか。
「リヴィア、あまり言いすぎるとパウロ様に嫌われてしまいますよ。パウロ様、妹が不躾な真似をしまして。」
「いえ、気にしないでください。ロザリナ様。」
セシリア様を見失ってしまったし、本音を言えばそろそろリヴィアを引き取って行って欲しいのだけど、直接頼むのも難しい。察しが良さそうなロザリナ様に、何度かアイコンタクトを試みる。
「パウロ様、仮面が合いませんでしたか。」
そっか、俺も仮面をしていたんだった。表情で分かってもらえないのは残念だ。
「いえ、あのとき実際は不慣れなメイドたちが一生懸命似合う服を選んでくれていたのですが、どうも間違った形で噂が広がってしまったようで。」
「まあパウロ様」
仮面越しながら、ロザリナ様は感銘を受けているように見えた。何に?
「不躾ながら、私のところにも噂は届いておりましたの。ですが、無礼を働いたメイドたちに対して、パウロ様は神父のような寛大さで対処し、その高貴な振る舞いにメイドたちが我に返ったと聞き及びました。そしてそのメイドたちをそうやって庇ってくださるなんて、なんと美しいお心遣いでしょう。」
なんだか収拾がつかなくなっているみたいだ。
「そうでしょう、『めっちゃ格好いい』パウロ様だもの、心まで格好いいのよ。だから私と踊りましょう、ね!」
リヴィアに悪気はないようだが、「パウロ様めっちゃかっこいいじゃん」と俺が自分で叫んだ噂も当然聞いていたよね。穴があったら入りたい。
「あの発言には訳があって。」
「あら、パウロ様が弁明する必要はないわ。だって事実ですもの。誰が見たってパウロ様はヴェローナで一番格好いいわ。みんなパウロ様の体は人間の美しさを超越してるって、『きっとロウで出来てる』って言っているのよ。そして私と踊りましょう、ね!」
リヴィアいい子じゃないか。一曲ぐらい踊ってあげたい。最近は鏡を見てないけど、客観的にみてパウロがかなり格好いいのは確かだ。人外の格好よさというのは大げさだけど、この時代の人たち形容詞が大げさになりがちだからな。この前『イタリアの神秘』とかいう泉を馬車で通ったけど、ただの綺麗な泉だったし。
「リヴィア、パウロ様が謙虚に反省していらっしゃるの、邪魔するべきではないわ。」
ロザリナ様はやっぱり自画自賛に批判的だったようだ。リヴィアをいさめると、こちらに目を向ける。
「パウロ様、例の夜会にて、『女性達の勉強をしていた』とおっしゃっていましたが、一体どんな勉強をしていらしたの? まさかとは思いますけど、私との誓いをお忘れになったわけではありませんよね。」
一体何を誓ってたんだパウロ様。聞いてないぞ。ロザリナ様の声のトーンは変わっていないけど、これは浮気を疑っているような言い方だ。
「いえ、ボローニャにいる間に、社交界で挨拶をしたことのあるご令嬢がたを何人か忘れてしまったので、ストルネロ夫人と復習をしていたのです。」
「その夫人というのは。」
いけない、ロザリナ様は明らかに浮気を追求してる恋人モードだ。前回あったときそんな様子は全くなかったのになぜだ。
「うちの家政婦です。40代くらいの、とても厳しい方です。とても。」
俺だってストルネロ夫人と浮気をするような物好きじゃない。
「そうですか。色々と一方的にお尋ねしてしまって礼儀にかないませんでした、どうぞお許しください。」
「いえ、お気になさらずに。」
ロザリナ様はホッとしたようだった。しかし困ったぞ。パウロはセシリア様の婿になるってさっき決まったのに、セシリア様の縁者であるロザリナ様との修羅場は避けたい。どうにかならないかな。
そう言えば、テオバルド司教様はパウロに届いていた手紙を読み込むように言っていたな。サボってたけど。肝心のパウロが出した手紙は当然残っていないので、パウロがどんな約束をしたのかわからないが、多分ロザリナ様からの手紙に手がかりがあるかもしれない。
「パウロ様、お姉さまとの禁欲的な約束なんて忘れて、若さを楽しまないといけないわ。ほら、踊りましょう、ね!」
禁欲的、なんてちょっと怪しい言葉を知っていてびっくりしたけど、慣れてくるとリヴィアの合いの手がなんだか耳に心地よくなってくる。なんというか一定のリズムで刻むBGMみたいな感じだ。
今度は踊れるようにダンスの練習をしておこう。




