━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 14
【白露は……、朝廷に裏切られ……、殺されたという訳か……。虚しい事よのぅ……】
黒露大蛇は、光房の記憶から情報を引き出したのだろう。その言葉──いや、頭に直接テレパシーのように響いてくる声に、どことなく哀愁と怒りを感じた。
「白露様を殺したのは、てめぇが取り憑いてる人間の企てじゃねぇかよ!」
勇気を振り絞って言い返した双七を、嵐のような威圧感が襲いかかる。彼は、踏ん張るのが精一杯だった。
【ハクロ? あぁ……、吾輩を封印して、破黒露と呼ばれていたのだったな……】
朝日を仰ぎ見た黒露大蛇は、首の骨をコキリと鳴らした。隙だらけにも関わらず、誰も攻撃を仕掛けようとは思わなかった。生存本能が、近づく事さえ拒否するのだ。
【だからこそ……、人間は救いようがないのだ。神が手綱を握ってやらねば何もできん、哀れなムシケラなのだよ……】
「それで……、アナタ様が天下を牛耳れば、全てが丸く治まるのですかぁ?」
小馬鹿にした口ぶりで問いかけた厳時は、辺りに渦巻いた威圧感を──柳のように飄々《ひょうひょう》と受け流している。あらゆる意味で、さすがとしか言い様がなかった。
【その通り……、この世は吾輩が作り直すのだ……】
「残念ながらアナタ様の思い通りにはいきません。白露様はその為に、我ら三ツ鱗の<もののふ>を遺されたのですから!」
【では……、その力で吾輩を倒して見せよ……】
会話はそこで終わりだった。
ついに、天下の命運を賭けたラストバトルが始まる。
先に動いたのは、黒露大蛇。
おもむろに鎌槍を掴んだ刹那、その姿がかき消えた。
「どこ行きやがった……?」
背後から膨れあがる重圧感──振り向く暇など無い。何も考えず、右斜めへ転がり込んだ。
縮地を使った黒露大蛇が、血に濡れた女刺鎌槍が、双七の立っていた空間を貫く。
「ちっき……しょ」
引き続き、敵の追い打ちが迫って来ている。殺気と気配でそれを感じ取ってはいたが、彼にはどうしようもなかった。
「簡単には、ヤラせませんよぉ!」
厳時が、甲羅割大薙刀を遮断機のように倒す事で、双七への追撃を中断させる。




