━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 7
「あーっ、二回もアホって言ったな、このバカアニキ! だいたいあたしをいぢめてたのって、アニキだけじゃんか。そーよ、あたしは双ちゃんの事が好きだよ。大っ好きだよ。そりゃもう、子ギツネの時から好きだったよ。バカアニキと違って、双ちゃんは優しかったんだ。尻尾を筆代わりに使われた時だって、ちゃんと洗ってくれたしね。どう、これで満足っ?」
キサは、ヤケクソ大爆発でまくし立てるが、
「あん? よく聞こえなかったなぁ……、誰の事が好きだって?」
耳の裏に手の平をくっつけ、鼻をほじりながらアンコールを求めるバサラ。
「よっく……耳の穴をかっぽじって……、聞きなさいよ、こらあーっ!」
さすがに短い堪忍袋の緒がブチブチブチッと切れたキサは、すぅっと息を吸い込んだ。
「あたしは双ちゃんが好きなのよーっ! 何か文句あるのーっ!」
顔から火が出るという言葉がある。
空前の大告白タイムを終えて我に返ったキサに異変が起きた。あまりの恥ずかしさに、顔どころか身体中から炎が吹き出たのだ。
慌てふためいた彼女は膝上の双七郎を弾き出し、ゴロゴロと地面を転がる。
「うっわ……、本当に言っちまった。しかも大声で……、こっちまで恥ずかしいぜ」
「バカアニキが言わせたんじゃないのよぉ! もういやっ! 死にたいっ!」
しかし、いくら転がっても火は消えない。別の意味で悶え苦しんでいたキサは、少しも身体が熱くない事に、なかなか気付けなかった。
「まぁ……、これでやっとキサも……、<もののふ>の仲間入りか。長かったなぁ……」
キサはその言葉でピタリと回転を止め、感慨深げにうなずくバサラを見た。
「それって……、どういう……こと?」
「コイツに知られたく無かった事を、さっき思い切って告白したろ?」
仰向けに倒れている双七郎を指さしながら、バサラは簡略な説明を始める。
要するに、<もののふ>になれば二人の全ては筒抜けになってしまうので、彼に対する恋心をひた隠しにしたかったキサが、無意識の内に拒んでいたというのだ。
「うそ……、あたしのせいだったんだ……」
「んでよ。キツネが<もののふ>になる時は、今のお前のように全身が燃えるんだ。そう見えるだけで火傷はしないけどな。あとは、コイツに向かって飛び込めば、めでたく出来上がりさ」
キサの喉がこくりと鳴った。夢にまで見た<もののふ>に、双七郎とついに結ばれる。




