━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 6
「よっ!」
それは一年ぶりに見る懐かしい顔。同じ血を分けた兄──バサラだった。
「アニキ……なんで?」
バサラの身体は火柱のように炎に包まれ、透き通っている。自分の魂を、物や人に宿らせる術──すなわち狐憑きは一族の十八番だから、天才と呼ばれたアニキもそうしたのだろうと、キサは直感した。無論だが、彼女にそんな真似はできない。
「決まってんだろ? 双七郎のお迎えにきたのさ。あーあ、かわいそうにな……」
カルい口調で、とんでもない目的をしゃべるバサラ。
それを聞いたキサは、
「なに言ってんのよっ、双ちゃんはまだ生きてるよぉ!」
顔を真っ赤にして涙をぽろぽろこぼしながら、兄の言葉を必死に否定する。
「助からねぇって、お前も分かってんだろ? 無駄な事はやめときな。俺もじいさんも、あの銀世界ってヤツを食らってオダブツだったからよ。どうしようもねぇってこった」
「そんな……そんなのって…………、無いよ…………」
力無く崩れるキサの身体。
こうなってしまう事を一番恐れていた。こうなる前に、何とかしたかった。最悪の場合、自分が身代わりになるつもりだったのに──双七郎の胸に顔を埋め、あふれ出る感情のままに泣きじゃくる。
「最後に、何か言いたい事があるんじゃないのか? ずっと溜め込んでいたんだろ?」
ビクッと全身を大きく震わせて上半身を起こしたキサだったが、ぐしゃぐしゃの泣き顔を兄に見せまいと、すぐに顔を双七郎へ押しつけながら、
「でも……、双ちゃんは別の娘が好きだったから……さ。あたしの事なんて……、一度も見てくれなかったし……、言ってもしょうがないよ……ね」
ほとんど聞き取りがたい沈痛な声で答える。
「やれやれ……。ハナからあきらめてちゃ、そこで死合終了だぜ?」
「うっさいわねぇ、アニキに何が分かるのっ! あたしは頑張ったよ! あんなに頑張ったのに……、この着物の色だってあたしが選んだのに……、料理も一生懸命したのに……、それなのに……、なんで気付かないのよっ、ばかぁ!」
双七郎が着ている若竹色の直垂を力強く握ったキサは、火に油が注がれたようにヒステリックな叫び声を上げる。
それに対して、意地の悪そうな笑みを浮かべたバサラは、
「はっきり〝好き〟って言った事も無いクセに、なーにが頑張っただ。気付いてくれないだと、アホかお前は? そんなんだからイヂメられるんだよ。このアホっ!」
油どころか、ガスボンベの中に火を放り投げるかの如く、妹の怒りをさらに煽った。




