【蹂躙のパレード】魔王軍、進軍
漆黒の魔王城、最上階の玉座の間。
頬杖をついて微睡んでいたアレンの脳内に、邪神ノアの愉快そうな嘲笑が響き渡った。
『ククッ……アレンよ、人間の滑稽な足掻きというものは、いつ見ても極上のエンターテインメントだな』
「なんだ、ノア。不気味に笑い上がって」
『お前が王都のシステムをぶっ壊したせいで、あの偽勇者と教団の連中がパニックになっているのだ。
奴ら、お前を倒すためにスラムの貧民数万人の命を生贄にして、「天使」とやらを召喚する儀式を始めたぞ』
その報告を聞いたアレンは、ピクリと眉を動かした。
かつて人間を守るために命を懸けた自分を「悪魔」と呼び、自分たちが助かるためなら数万人の自国民を平気で生贄にする。
それが、あいつらの言う「光」であり「正義」の正体だ。
「……反吐が出るな」
アレンは玉座からゆっくりと立ち上がり、漆黒の外套を翻した。
その瞳には、氷のように冷たく、深い怒りの炎が宿っている。
「貧民を助けに行くつもりか? 随分とお優しい魔王様だな」
「勘違いするな、ノア。俺は助け合いなんていう反吐が出る遊びはとっくに辞めた。ただ……俺の世界で『神』や『正義』を名乗ってデカい顔をしているゴミが気に食わないだけだ」
アレンが指を鳴らすと、玉座の間の巨大な扉が重々しい音を立てて開いた。
そこには、銀髪を揺らす吸血鬼の真祖イリスが、美しい所作で片膝をついて待機していた。
「イリス。手足共の準備はできているか」
「はい、我が王。外の荒野にて、貴方様の命を今か今かと待ちわびております」
アレンは魔王城の巨大なバルコニーへと歩みを進め、眼下を見下ろした。
そこには、地平線の彼方までを埋め尽くすほどの、おぞましくも強大な魔物の大軍勢――オーク、狂戦士、巨大な魔獣、そして吸血鬼の精鋭たちが、一糸乱れぬ隊列を組んで整列していた。
アレンがバルコニーに姿を現した瞬間、数万の魔物たちが一斉に地面に跪き、圧倒的な沈黙が荒野を支配する。
「――聞け、有象無象の化け物共」
アレンの底冷えする声が、魔力に乗って軍勢の隅々にまで響き渡った。
「王国と聖教団のクズ共が、俺を殺すために『神の使い』とやらを喚び出すそうだ。俺たちを悪魔だと宣い、自分たちの薄汚い行いを光だと信じて疑わない狂人どもにな」
アレンの右手から、莫大な**『漆黒の炎』**が立ち昇る。
その魔力に呼応するように、魔王城の上空に渦巻いていた雲がドス黒く染まり、太陽の光を完全に遮断した。
真昼だったはずの世界が、夜よりも深い闇に包み込まれていく。
「神だろうが天使だろうが関係ない。俺の視界に入る目障りなものは、一つ残らずその『黒炎』で灰にする。……お前ら、絶望を撒き散らす準備はできているな?」
アレンの言葉に、数万の魔物たちが一斉に立ち上がり、大地を揺るがすほどの狂熱的な雄叫びを上げた。
『オオオオォォォォォッ!! 魔王様万歳! 我らが王に、圧倒的な勝利と蹂躙を!!』
「アレン様」
背後に控えていたイリスが、うっとりとした表情で微笑む。
「どちらへ向かいましょうか?」
「決まっている」
アレンは赤く光る双眸を、はるか彼方――聖教団の総本山がある方角へと向けた。
「聖教団を物理的にすり潰す。全軍、進め」
かくして、一人の堕ちた勇者を先頭に、漆黒の魔王軍が進軍を開始した。
空を覆い尽くす暗雲。大地を割るほどの重低音を響かせる魔物たちの足音。
それはまさに、世界を終わらせる**『蹂躙のパレード』**だった。
沿道の街や砦にいた人間の兵士たちは、遠くから迫り来るその圧倒的な「絶望の群れ」を見ただけで戦意を喪失し、武器を捨てて泣き叫ぶことしかできなかった。
光を狂信した愚か者たちの元へ、本物の闇が、今まさに牙を剥こうとしていた。




