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【真の救済】悪に染まりて、世界を救う

「魔王アレンが、ついに王都の結界を破ったぞ!」


「逃げろ! あの悪魔は、俺たち人間を根絶やしにする気だ!!」


空が赤く染まったあの日から、世界は絶望に包まれていた。


かつての勇者アレンは、人類に厄災をもたらす最悪の『魔王』として、世界中から恐怖し、忌み嫌われる存在となっていた。


だが、恐怖に逃げ惑う人々は誰も知らない。


アレンが王都の最深部、王族だけが立ち入りを許された地下の『聖域』で、たった一人で何と対峙しているのかを。


「……これが、王国を裏で操っていた『禁呪の源』か。反吐が出るほど醜いな」


アレンの視線の先には、脈打つ巨大な肉塊のような魔力炉があった。


王族や一部の貴族たちが己の権力と寿命を延ばすため、大地から生命力を、そして貧しい民から魔力を強制的に吸い上げるシステム。


それこそが、この国が「聖なる結界」と呼んで崇めてきたモノの正体だった。


このままでは数年後、大地は完全に枯れ果て、世界は崩壊する。


邪神ノアと契約した際、彼女の記憶を通じてその真実を知ったアレンは、この腐ったシステムそのものを「破壊」するために魔王となったのだ。


『ククッ。人間たちはお前を「世界を滅ぼす悪魔」と呼んで泣き喚いているぞ。本当は、お前が彼らの世界を救おうとしているとも知らずにな』


脳内で響くノアの嘲笑うような声に対し、アレンは冷たく鼻で笑った。


「勘違いするな、ノア。俺はただ、俺を裏切ったこの腐った世界が気に食わないから、俺のやり方でぶっ壊すだけだ。誰かを救うつもりなんて、毛頭ない」


アレンは右手に漆黒の炎を宿し、巨大な肉塊へとゆっくり歩み寄る。


「貴様ァッ! 魔王アレン!! それは我ら王族の、ひいては人類の光だ! それを壊せば世界が終わるぞ!!」


背後から駆けつけた王都の近衛騎士たちが、絶望の叫び声を上げる。


彼らは本気で、この肉塊が世界を守るものだと信じ込まされているのだ。


なんて滑稽で、哀れな連中だろうか。


「光、だと? こんな寄生虫にしがみついて生き延びるくらいなら、一度すべて灰になった方がマシだ」


アレンは一切の躊躇なく、右手の黒い炎を肉塊の中心へと叩き込んだ。


「――消し飛べ」


轟音と共に、邪神の炎が巨大な魔力炉を包み込む。


断末魔のような不気味な悲鳴を上げて、肉塊はドロドロと崩れ落ち、跡形もなく消滅した。


その瞬間、縛られていた莫大な生命力が解放され、光の粒子となって王都中の空へと舞い上がっていく。


枯れかけていた大地に潤いが戻り、どんよりと濁っていた空気に清らかな風が吹き抜けた。


「あ、ああ……! 聖なる魔力炉が……! 魔王が、我々の世界を終わらせたぞぉぉっ!」


しかし、真実を知らない騎士たちはその場に崩れ落ち、アレンに向かってありったけの呪詛の言葉を吐き捨てた。


「悪魔め! 貴様は絶対に許されない! 未来永劫、歴史に大罪人として刻まれるぞ!!」


彼らからの痛烈な憎悪と殺意を一身に浴びながら、アレンはゆっくりと振り返り、冷徹で、圧倒的な王者の風格を漂わせて宣告した。


「ああ、許されなくて結構だ。俺は魔王だからな」


かつて、人々に感謝され、愛される勇者でありたかった少年はもういない。


誰も理解しなくていい。誰の感謝もいらない。


王国が隠蔽した真実を背負い、全人類から忌み嫌われる絶対的な『悪』として君臨し続けること。


それが、彼が見つけた真の救済の形だった。


「泣き喚け、人間。そしてせいぜい俺に怯えて生きろ。お前たちの絶望が続く限り……俺が、この世界を管理してやる」


翻る漆黒の外套。


赤く染まった双眸には、もう一滴の迷いもなかった。


かくして、仲間に裏切られ、奈落へと落とされた青年は、悪に染まりながらも世界を陰から救う『最強の魔王(ダークヒーロー)』として、新たな歴史の幕を開けたのであった。


【序章:反逆の咎人勇者編・完】

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