【滅亡の引き金】魔王誕生
王都から数里離れた荒野。
大地を揺らすほどの地響きと共に、王国が誇る数万の大軍勢が陣を敷いていた。
その先頭に立つのは、黄金の鎧に身を包んだ「偽りの勇者」レオン。
彼の背後には、最新鋭の魔法大砲がズラリと並んでいる。
「あのゴミ屑め……! 運よく生き延びたなら、大人しく隠れていればいいものを!」
レオンは苛立ちを隠せないでいた。
辺境の街の部隊が瞬殺されたという報告を受け、王国中がパニックに陥っている。
己の地位と名声を守るため、レオンは自ら大軍を率いてアレンを完全に抹殺しに来たのだ。
「レオン様! 前方に人影が! た、たった一人です!」
斥候の叫び声に、レオンは獰猛な笑みを浮かべた。
「馬鹿が、自ら死にに来たか! 全軍、魔法大砲の照準を合わせろ! あの反逆者をチリひとつ残さず消し飛ばせ!!」
凄まじい轟音と共に、何十発もの極大魔法が放たれる。
光の奔流が荒野を焼き尽くし、巨大な爆発が土煙を巻き上げた。
「はははっ! 見たか! これが真の勇者の力だ!」
レオンが狂喜の声を上げた、その瞬間――。
「――そよ風のような魔法だな。本当にそれで俺を殺せると思ったのか?」
「なっ……!?」
土煙が晴れたそこには、無傷で立つアレンの姿があった。
彼を中心に展開された『漆黒の炎』が、すべての魔法攻撃を完全に喰らい尽くしていたのだ。
『ククッ、随分と盛大な歓迎じゃないか、アレン』
脳内で邪神ノアが楽しげに笑う。
(ああ。だから、こちらも相応の「絶望」で返してやらないとな)
アレンが一歩、前へ踏み出す。
ただそれだけで、上空の雲が吹き飛び、世界が血のような赤色に染まり始めた。
大地が悲鳴を上げて大きくひび割れ、そこから噴き出した黒い炎が、王国の魔法大砲を一瞬にしてドロドロの鉄くずへと変えていく。
「ひぃぃっ!?」
「ば、化け物だ! 空が……世界が終わるぞ!!」
数万の兵士たちが武器を放り出し、我先にと逃げ惑う。
たった一人が放つ圧倒的な「滅びのプレッシャー」の前に、大軍勢は戦う前から完全に崩壊してしまった。
「逃げるな! 戦え! 俺は真の勇者だぞ!!」
叫ぶレオンだったが、次の瞬間、彼の視界が反転した。
「ガ、はっ……!?」
いつの間にか目の前に移動していたアレンが、レオンの首を片手で掴み上げ、空中に吊るし上げていたのだ。
助けに入ろうとした側近の騎士たちは、アレンの赤く光る双眸に睨まれただけで白目を剥いて気絶していく。
「ア、アレン……! た、助け……っ」
恐怖で顔を涙と鼻水で濡らし、命乞いをするかつての親友。
その無様な姿を見下ろし、アレンは氷のように冷たい声で告げた。
「安心しろ、ここでは殺さない。お前を今殺すのは、あまりにも『簡単すぎる』からな」
「え……?」
「お前が執着した権力、名声、そしてこの腐った王国……それらが全て崩れ去り、お前自身が誰からも見捨てられる絶望。それを特等席で味わうがいい」
ボロ雑巾のように、レオンを地面へと投げ捨てる。
ゲホゲホと咳き込みながら震える彼を一瞥もせず、アレンはかつて魔王軍の拠点が置かれていた、今は無人となった荒野の最奥へと歩き出した。
アレンが両腕を広げると、莫大な邪神の魔力が放出され、崩れ去っていた城の残骸が黒い炎と共に再構築されていく。
瞬く間に完成したのは、天を突くほどに巨大で禍々しい『漆黒の魔王城』だった。
「俺は今日、この瞬間から『勇者』を捨てる」
空を赤く染め上げ、世界に滅亡の恐怖を植え付けた男は、全世界に向けて宣言する。
「俺の名はアレン。この腐った世界を理不尽に蹂躙する、新たな『魔王』だ」
かつて世界を救うために立ち上がった心優しき勇者は、人間の裏切りによって、人類史上最悪の災厄――『魔王』として玉座に腰を下ろした。




