【神の絶望】光を喰らう深淵
純白の大理石と黄金の雲海で彩られていた神々の中心地は、今や見る影もなく、魔物たちの咆哮と漆黒の炎によって無惨に蹂躙されていた。
「許さん……許さん許さん許さぁぁぁぁんッ!!」
天界の最奥、最高神殿の広場に、怒りで顔を夜叉のように歪ませた最高神将・ミカエルが舞い降りた。
彼の背後に残された美しい神殿は、アレンの放った黒炎によって音を立てて崩壊していく。
「貴様ら薄汚い地べたのゴミどもがァッ! よくも、よくも我ら神々の美しき箱庭をここまで汚してくれたな!!」
「……やけに五月蝿いと思ったら、さっき尻尾を巻いて逃げた羽虫の親玉か」
激昂するミカエルを前にして、アレンはポケットに手を突っ込んだまま、ひどく退屈そうに欠伸をした。
「ふざけるな悪魔め! 貴様のそのふざけた命、輪廻の輪から完全に消し去ってくれる! 見よ、これがあらゆる闇や概念を跡形もなく消滅させる、天界最強の武器――**『消滅の神剣』**だ!」
ミカエルが両手を虚空へ掲げると、空気を切り裂くような高周波と共に、直視できないほど眩く輝く一本の剣が顕現した。
その剣が放つ神聖なプレッシャーは、遠くにいた魔王軍の魔物たちを息苦しさで膝かせ、セラフィアの顔を恐怖で青ざめさせた。
「ダメ、避けてアレン! その剣に触れれば、どれだけ強大な魔力を持っていようと、存在そのものがこの世から『無かったこと』にされてしまうわ!」
セラフィアの警告を背に受けながらも、アレンは微動だにしない。
「死ねェッ! 貴様のような地を這うゴミは、神の光に焼かれて消滅しろォォッ!!」
ミカエルは光の速度で踏み込み、必殺の神剣をアレンの脳天へと全力で振り下ろした。
空間そのものを削り取りながら迫る、絶対的な消滅の一撃。
ミカエルは、悪魔が塵となって消える光景を確信し、醜悪な笑みを浮かべた――その瞬間。
――ガキィィィィンッ!!!
「……なっ?」
ミカエルの口から、間抜けな声が漏れた。
アレンの脳天を真っ二つに割るはずだった神剣の刃が、ピタリと止まっていたのだ。
アレンが、ポケットから出した**右手の素手**だけで、白刃取りをするように神剣の刀身をガッチリと掴み止めていたのである。
「ば、馬鹿な!? なぜ消滅しない!? あらゆる闇を消し去るはずの神剣を、素手で……!?」
「……あらゆる闇を消し去る、ねぇ」
アレンの深いため息と共に。
彼の背中から、今までとは比べ物にならないほどの禍々しい**『漆黒の邪神の翼』がドバァッと展開された。
邪神ノアの力を完全解放したアレンの体から溢れ出すのは、もはや魔力などというチャチなものではない。光すらも逃げ出せない、絶対的な『深淵の闇』**だった。
「お前ら神の言う『闇』ってのは、ずいぶんと底が浅いらしいな。……そんな安っぽい光で、俺の抱える絶望を照らせるわけがないだろうが」
アレンが右手にギュッと力を込める。
すると、アレンの右手を包み込んでいた深淵の闇が、まるで無数の牙を持つ獣の顎のように変化し、神剣の刀身にバリバリと噛みつき始めたのだ。
「ヒッ……!? 剣が、神の光が……食べられている……!?」
――メキィッ! バリバリバリバリッ!!! パァァァンッ!!
「あ……あぁ……」
ミカエルが腰を抜かして地面にへたり込んだ。
天界最強の絶対兵器『消滅の神剣』は、アレンの放つ闇に文字通り**「喰らい砕かれ」**、ただの光の粒子となって虚空へ消え去ってしまったのだ。
「ウ、ウソだ……こんなこと、ありえない! 私は神だぞ! 人間どもを支配する、絶対的な光の存在のはずだ!」
己のアイデンティティであり、最強の切り札を素手で粉砕されたミカエルは、鼻水と涙で顔をグチャグチャにしながら、ズルズルと後ずさる。
先ほどまでの威厳など微塵もない、ただの無様な敗北者の姿だった。
「支配者気取りのふざけたツラが、ようやく見れる顔になったな」
アレンは右手に残った光の粒子をフッと息で吹き飛ばすと、這いずるミカエルを見下ろし、極寒の宣告を下した。
「さあ、お前ら神々が人間どもに押し付けてきた『理不尽』ってやつを……今度はたっぷりと、お前自身の体で味あわせてやるよ」
絶対の神と、深淵の魔王。
圧倒的な力の差を見せつける究極の#下克上は、神の絶望という最高潮の舞台を迎え、いよいよ最後の蹂躙へと突き進む。




