【狂国の終焉】降り注ぐ命の雪
「消えろ」
アレンの短く冷徹な宣告と共に、逆流した『神殺しの黒炎』が、機神レオンの巨大な鋼鉄の装甲を完全に飲み込んだ。
『ギ、ギギィィィッ!? ア、アレン……オレハ、ユウシャ……セカイ、ヲ……スク……ウ……』
バキバキと音を立てて装甲が溶け落ちる。
最後まで勇者という虚像にすがりついたレオンの機械音声は、黒い炎の中で完全に焼け焦げ、ただの鉄クズの溶ける音へと変わって消滅した。
かつてアレンを奈落へと突き落とした裏切り者は、誰の記憶に残ることもなく、最も無惨な形でその生涯を終えたのだ。
「ヒッ……! ヒィィィィィッ!!」
頼みの綱だった最終兵器を一瞬で消し炭にされ、国王アルベルトは絶望の悲鳴を上げた。
黒い炎は機神を喰らい尽くしても止まらず、そのまま玉座の裏に隠れていた王へと迫る。
「く、来るな! 私は王だ! 王族の血を引く、選ばれし特別な人間なのだぞ! お前のような下民の悪魔が、私を殺して許されるはずが――」
「ああ、許されなくて結構だ」
アレンは命乞いをする愚王を一瞥すらせず、踵を返した。
「――お前たちの腐った歴史は、ここで終わりだ」
「ギャアアアアアアアアッ!?」
断末魔の叫びと共に、アルベルトの体は豪華な玉座ごと『黒炎』に飲み込まれ、一瞬にして灰燼に帰した。
自らの保身のために国民を犠牲にし続けた狂国の王は、自分がゴミのように見下していた相手の足元で、無価値な灰となって散ったのだった。
残るは一つ。
アレンは玉座の奥、城の中心で不気味に脈打つ巨大なクリスタル――国民から吸い上げた生命力を貯蔵する**『浮遊城のメインコア』**の前に立った。
「これでお別れだ、クソったれな王様ごっこ」
アレンは右手に黒炎を纏わせ、巨大なコアの中心へと容赦なく叩き込んだ。
――ピシッ……パァァァンッ!!!
コアに致命的な亀裂が入り、城全体に崩壊のサイレンが鳴り響く。
アレンは背中の『漆黒の邪神の翼』を大きく広げると、崩れゆく天井を突き破り、ただ一人、天空へと飛翔した。
その直後。
はるか上空で、王都の空を覆っていた巨大な浮遊城が、太陽を思わせるほどの猛烈な光を放って大爆発を起こした。
しかし、その爆発は「破壊」をもたらすものではなかった。
城のコアに閉じ込められていた莫大な『人々の生命力』が解放され、空から**『黄金の雪』**となって、世界中へと静かに降り注ぎ始めたのだ。
――サァァァァッ……。
「あ、ああ……これは……?」
地上で火の海に怯え、息絶えかけていた人々の体に黄金の雪が触れた瞬間。
魔法のように傷が塞がり、吸い上げられていた命の力が戻ってくる。
焼け焦げ、荒れ果てていた大地からは一斉に緑の芽が吹き出し、枯れた木々には美しい花が咲き乱れた。
「奇跡だ……! 神様が、我々を救ってくださったんだ……!」
「お母さん! 足が治ったよ!」
歓喜の声を上げ、涙を流して抱き合う人々。
しかし、彼らが祈りを捧げるために空を見上げた時、そこに見えたのは、美しい神や天使などではなかった。
朝焼けの空を背に、巨大な『漆黒の翼』を広げて宙に浮かぶ一人の男のシルエット。
人類に災厄をもたらすはずの絶対的な悪――**『魔王』**の姿だった。
「魔王が……我々を、助けた……?」
人々は理解できず、圧倒的な恐怖と、それ以上の深い畏敬の念に打たれ、魔王の姿に向かって次々と平伏し、祈りを捧げた。
結果として彼は、狂った王や偽りの神から世界を救い、誰よりも多くの命を救済したのだから。
『――ククッ。人間どもが、お前に向かって祈っているぞ、魔王様』
脳内で、邪神ノアが愉快そうに笑いかけてくる。
『これで少しは、退屈しのぎ(暇つぶし)になったか?』
「……勘違いするな」
アレンは眼下に広がる黄金の雪と、平和を取り戻した大地を見下ろしながら、フッと冷たく笑った。
「俺はただ、俺のやり方でこの腐った世界をぶっ壊しているだけだ。……それに、まだまだぶっ壊すべきゴミは、この世界のそこら中に転がっているさ」
偽りの勇者は死に、腐敗した王国は滅びた。
しかし、魔王となった彼の覇道はまだ終わらない。
アレンはバサリと漆黒の翼を羽ばたかせると、祈りを捧げる人々に背を向け、新たな夜明けの空の彼方へと飛び去っていった。
忌み嫌われ、恐怖されながらも世界を救う、絶対無敵のダークヒーロー。
彼の反逆の物語は、ここからさらなる混沌へと続いていく――。
【第1部:反逆の咎人勇者・王国崩壊編 完】




