【絶対防衛線の崩壊】王の盾
浮遊城の広大な白大理石の甲板。
アレンが着地した衝撃で巻き上がった土煙が晴れると、そこには王国が誇る最強の盾――国王直属の『近衛騎士団』数百名が、分厚い鋼鉄の壁のように陣形を組んで待ち構えていた。
全身を魔法銀の鎧で固め、神聖な魔力を宿した剣と盾を構えるエリート中のエリートたち。
その先頭に立つ近衛騎士団長が、血走った目でアレンを睨みつけ、剣を天へと突き上げた。
「よくぞここまで来たな、悪魔アレン! だが、貴様の命運もここまでだ!」
騎士団長の怒声が、上空の強風を切り裂いて響き渡る。
「我らが王族の血筋こそが、人類を導く唯一の希望! 下民どもの犠牲も、すべてはこの美しき国と正義を未来へ残すための崇高な礎なのだ! 貴様のような薄汚い悪魔に、この国は絶対に滅ぼさせん!!」
「……おお! 仰る通りだ! 我らが王のために!!」
「悪魔に正義の鉄槌を!!」
騎士団長の大義名分に呼応し、数百の騎士たちが熱狂的な歓声を上げる。
彼らは本気で、自分たちが「世界を救う正義の盾」なのだと信じて疑っていなかった。
その狂信的な集団を前にして。
アレンは、底冷えするような深い溜息をついた。
「……下民の犠牲が、崇高な礎だと? 国民の命をすするこのふざけた城の、どこが美しいって?」
アレンは背中の漆黒の翼をスッと収め、両手に宿していた『黒炎』すらも完全にフッと消し去った。
「お前らのその安っぽい『正義』には、反吐が出る。……黒炎で灰にする価値すらねえよ」
武器も持たず、魔法の炎も消したアレンを見て、騎士団長は「悪魔が戦意を喪失したぞ!」と勘違いし、醜悪な笑みを浮かべた。
「はっははは! 己の無力さを悟ったか! 全軍、突撃ぃぃッ! あの悪魔を微塵切りにして、王に勝利を捧げよ!!」
怒涛の勢いで、数百の完全武装した騎士たちが一斉にアレンへと殺到する。
先頭を走る十数人が、一斉にアレンの四肢と首を狙って、神聖な魔力を帯びた剣を振り下ろした。
――だが、遅い。
アレンから見れば、彼らの動きは止まっているも同然だった。
「……五月蝿い」
――ドゴォォォォォォンッ!!!
アレンが、ただ無造作に右足を真横へ振り抜いた。
たったそれだけの、純粋な『物理的な蹴り』。
しかし、邪神の力で限界突破したアレンの膂力から放たれたその一撃は、魔法銀の盾を紙くずのように粉砕し、先頭の騎士十数人を**『鎧ごとひしゃげた肉塊』**に変えて後方へと吹き飛ばした。
「……え?」
「ギャアアアアアッ!?」
吹き飛んだ十数人の肉塊が、後ろに続く数十人の騎士たちをボウリングのピンのように巻き込んで激突し、甲板のあちこちに血だまりと悲鳴を巻き起こす。
「な、なんだと……!? 魔法を使わずに、我らのミスリル鎧を……!?」
「ひぃっ! バ、バケモノ……ッ!」
一瞬にして戦意をへし折られ、足を引きつらせる騎士たち。
そんな彼らのど真ん中へ、アレンは瞬きすら許さぬ速度で踏み込んだ。
「正義の盾が聞いて呆れる。ただの脆いブリキのオモチャじゃないか」
アレンの素手による、一方的で無慈悲な蹂躙が始まった。
振り下ろされる大剣を指二本で挟んでへし折り、そのまま相手の顔面に拳を叩き込む。
「グベァッ!?」
頭部を兜ごと陥没させられた騎士が吹き飛び、別の騎士の胸ぐらを掴んでハンマー代わりに振り回す。
「や、やめろぉぉっ!」
「た、助けてくれ……っ!」
つい先ほどまで「正義」と「大義」を誇らしげに叫んでいたエリート騎士たちは、圧倒的な暴力の前にプライドを粉々に砕かれ、ただ泣き叫びながら逃げ惑う哀れな獲物へと成り下がった。
「ヒッ……! く、来るな……来るなぁぁぁッ!!」
数分後。
腰を抜かして地面を這いずる騎士団長の前には、**数百人いた部下たちが築き上げた『鎧と肉塊の山』**が広がっていた。
アレンは魔法を一切使わなかった。ただの暴力。ただの腕力。それだけで、王国最強の防衛線は紙くずのように引き裂かれたのだ。
「あ、ああ……我らの、正義が……」
「正義の味方は死なないんじゃなかったのか? 現実を見ろよ、負け犬」
アレンは冷酷に言い放つと、這いずる騎士団長の顔面をブーツの底で容赦なく踏み砕いた。
「ゴベッ……」と短いカエルのような悲鳴を上げ、騎士団長は完全に意識を刈り取られる。
これで、王を守る盾は一つ残らず消え失せた。
アレンは自身の服に跳ねた血の雫を軽く手で払い落とすと、静寂に包まれた甲板を歩き出し、王城の最深部――愚王アルベルトと、かつての親友が待つ『玉座の間』の巨大な扉へと手をかけた。
「さて……玉座から引きずり下ろしてやるよ、裸の王様」
圧倒的な絶望を纏った魔王が、ついに王国を滅ぼす最後の扉を開け放つ。




