【邪神の翼】魔王、天を衝く
――ズゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!!
王都の大地が大きくひび割れ、数万の市民の命を吸い上げた巨大な王城が、重力に逆らって天空へと浮かび上がっていく。
それはまさに、王国が隠し持っていた古代の禁呪兵器『機神の浮遊城』が完全に目覚めた瞬間だった。
「はーっはっはっは! 見下ろせ! 這いつくばるゴミ共を見下ろせ!」
空高く浮かぶ浮遊城のバルコニーから、国王アルベルトの狂気じみた高笑いが響く。
彼の命令により、城の周囲に備え付けられた無数の魔法主砲が一斉に稼働した。
「さあ、まずは邪魔な地上の虫ケラどもを焼き払ってしまえ!」
空を覆うほどの巨大な魔法陣が展開され、そこから流星群のような『極大の魔力砲』が雨あられと地上へ降り注ぐ。
ドゴォォォンッ!! と大地がえぐれ、王都の街並みは一瞬にして火の海と化し、逃げ遅れた人々が次々と消し飛んでいく。
それは、自国の民すらも平気で犠牲にする、狂った王がもたらした『絶望の雨』だった。
その地獄絵図を、王都の城門前に到着した魔王軍の先頭で、アレンは冷めた目で見上げていた。
『ククッ……見ろアレン。あの腹の出た王様、随分と高く逃げたものだな。あの高さでは、お前の黒炎も届くまい? どうする、尻尾を巻いて逃げるか?』
脳内で、邪神ノアがわざとらしくからかうような声を出す。
しかし、アレンは表情一つ変えずに鼻で笑った。
「くだらない。あんなデカい的を空に浮かべて、無敵にでもなったつもりか」
『ほう?』
「届かないなら、届くところまで行って叩き落とす。それだけのことだ」
アレンが目を閉じ、深く息を吸い込む。
その瞬間、彼の心臓がドクンッ!! と、世界を揺るがすほどの大きな音を立てて脈打った。
(力を貸せ、ノア。あの目障りな城を、跡形もなくぶっ壊す)
『――フハハハハッ! いいだろう! 私とお前の魂を、さらに深く同調させてやる! 空に逃げた愚か者どもに、本物の絶望を教えてやれ!!』
ノアの狂喜の声と共に、アレンの背中から爆発的な魔力が噴き出した。
純度の高い闇の魔力は実体化し、アレンの背中に巨大な**『漆黒の翼(邪神の翼)』**として顕現する。
空の光すらも喰らい尽くすような、禍々しくも圧倒的に美しい悪魔の翼だった。
「あ、ああ……アレン様……!」
背後に控えていた吸血鬼の真祖イリスが、そのあまりにも神々しい闇の姿に、恍惚とした表情で両手を組んで跪く。
数万の魔王軍もまた、新たな力を解放した絶対的な王の姿に熱狂し、地鳴りのような雄叫びを上げた。
「イリス。お前たちはここで、地上に残っている王国の兵士どもの掃討でもして遊んでいろ」
「御意のままに。どうか我が王、あの愚かな空の城に、圧倒的な蹂躙を」
アレンは漆黒の翼を大きく広げ、空を見上げた。
「――さあ、墜落の時間だ」
――ドゴォォォォォォォッ!!!
大地が陥没するほどの踏み込みと共に、アレンの体が弾丸のような速度で天空へと打ち出された。
音速を超えた飛翔。
アレンが空を切り裂いて上昇していくと、浮遊城の迎撃システムが彼を「最大の脅威」として捕捉し、数千発の魔力砲を彼一人に向けて一斉に掃射した。
視界を埋め尽くすほどの、致死の光の雨。
だが。
「目障りなんだよ、クズ共が」
アレンは空中で速度を落とすことなく、両手から**『漆黒の炎』**を放った。
炎はアレンの周囲を竜巻のように覆い尽くし、降り注ぐ数千発の魔力砲をすべて「ジュワッ」という音と共に正面から喰らい尽くし、無効化していく。
「な、なんだとォォォッ!?」
バルコニーから見下ろしていた国王アルベルトが、信じられないものを見るように目を見開いた。
自慢の浮遊城の絶対的な砲火を、たった一人の男が、正面から全て薙ぎ払いながら一直線に迫ってくるのだ。
「ヒィッ……! ば、馬鹿な! 人間が、あんな悪魔の翼を……ッ! 迎撃だ、全砲門をあいつに集中させろォォッ!」
悲鳴を上げる王の命令も虚しく。
一切の魔法を寄せ付けない漆黒の流星となったアレンは、そのまま浮遊城の強固な魔法障壁を紙切れのようにぶち破り、巨大な城の甲板へと、凄まじい轟音と共に降り立った。
「……随分と見晴らしのいい城じゃないか。火葬場にはもってこいだ」
もうもうと立ち込める土煙の中から、漆黒の翼を揺らしながらゆっくりと歩み出るアレン。
愚かな王が立てこもる空の密室に、世界を滅ぼす最強の魔王が、ついにその足を踏み入れたのだった。




