【剛力粉砕】戦士ガレスの絶望
赤黒く脈打つ巨大な霊樹へと続く、枯れ果てた森の獣道。
アレンとイリスがその歩みを進めていると、突如として前方の空間が大きく歪み、強烈な殺気と共に一人の巨漢が立ち塞がった。
「待ちやがれ、アレン!! てめえのくだらねえお散歩はここまでだ!」
大地を揺らすような怒声。
そこに立っていたのは、身の丈2メートルを優に超える筋肉の塊――かつてアレンを見下し、追放を最も喜んでいた元パーティーメンバーの戦士ガレスだった。
ガレスの全身は、聖女エレイナがかけた何重もの強力な強化魔法によって、神々しい光のオーラに包まれている。
彼の両手には、竜の鱗すら両断するという大剣が握られていた。
「ガレスか。……相変わらず、脳みそまで筋肉でできているような暑苦しいツラだな」
アレンは足を止め、ひどく退屈そうに目を細めた。
「ほざけ! 王都のシステムを壊して魔王を名乗ってるらしいが、俺の目は誤魔化せねえぞ! てめえのその貧弱な体は、昔から俺の足元にも及ばなかっただろうが!」
ガレスは首の骨をボキボキと鳴らしながら、凶悪な笑みを浮かべた。
「今の俺は、エレイナの究極の強化魔法で『魔王軍の幹部』すら凌駕する力を手に入れている! てめえが得意な魔法を使う前に、この剛腕で一瞬にして肉塊に変えてやるよ!」
「なるほど。魔法を使わせなければ勝てる、という単純な計算か」
「その通りだ! 死ねェッ、ゴミクズがァッ!!」
大地を深くえぐりながら、ガレスが弾丸のような速度でアレンへと飛びかかった。
エレイナの魔法で極限まで強化されたその一撃は、まさに災害級。
巨大な大剣が、空気を切り裂く轟音と共にアレンの脳天へと振り下ろされる。
イリスが「アレン様!」と声を上げかけた、その瞬間。
――ガキィィィィンッ!!!
森中に響き渡ったのは、肉が潰れる音ではなく、硬い金属同士が激突したような甲高い音だった。
「……は?」
ガレスは、目の前の光景を理解できず、間抜けな声を漏らした。
自身が全身全霊で振り下ろした、絶対に回避不可能なはずの必殺の一撃。
それが……アレンの**『素手の左手』**によって、刃の腹をあっさりと受け止められていたのだ。
「な、なんだと……!? 魔法の障壁じゃねえ、素手で……俺の剣を止めた、だと!?」
「これが自慢の怪力か? ……欠伸が出るな」
アレンの体からは、得意の『黒炎』も、魔力すらも一切放出されていなかった。
彼は純粋な、ただの**『物理的な握力』**だけで、強化されたガレスの全力の一撃を受け止めていたのだ。
邪神と融合したアレンの肉体は、もはや魔法を使わずとも、人間の限界を遥かに超えた神の領域に達している。
「ば、馬鹿な! ふざけるな、離せッ!!」
「魔法がなければ無力だとでも思ったか? お前のちっぽけなプライドごと、へし折ってやる」
アレンが、左手の指先にスッと力を込める。
――メキッ……パァァァンッ!!
「なっ!?」
ガレスの自慢の大剣が、まるで薄いガラス細工のように、アレンの握力だけで粉々に砕け散った。
武器を失い、完全に無防備になったガレスの太い右腕を、アレンは残った右手でガシッと掴み上げる。
「ヒッ……!?」
「痛いのは嫌いだったよな、ガレス」
氷のように冷たい宣告と共に。
アレンはガレスの太い右腕を、雑巾でも絞るかのように、無造作に捻り上げた。
――ボキボキボキィィッ!! グチャァッ!!
「ギャ、ア、アアアアアアアアアアアアアアッ!?」
森中に、男の鼓膜を破るような絶叫がこだました。
骨が皮膚を突き破り、無惨な方向にへし折れた右腕。
ガレスは白目を剥き、あまりの激痛と恐怖に鼻水と涎を垂らしながら地面に崩れ落ちた。
「あ、あああ……! お、俺の腕が……俺の最強の腕がぁぁぁっ!」
「最強? 魔王軍の幹部を凌駕する? 笑わせるな」
地面を転げ回って泣き喚くかつての仲間に、アレンは容赦のない一瞥をくれた。
そして、その顔面に向かって、無慈悲な蹴りを全力で叩き込んだ。
――ドゴォッ!!
「ゴブッ!?」
ガレスの巨体がボールのように宙を舞い、十メートル以上先の枯れ木に激突してようやく止まった。
彼は数回痙攣したあと、完全に意識を失い、ピクリとも動かなくなった。
「魔法も使わず、ただの力比べで負ける気分はどうだ。……そのまま泥をすすって生きていろ」
かつてアレンの力不足を嘲笑い、自らの剛腕を誇っていた戦士のプライドは、自身が最も得意とする「物理的な力」によって、完膚なきまでに粉砕されたのだった。
「素晴らしいです、アレン様……! あの忌々しい筋肉だるまを、あのような暴力で蹂躙なさるなんて……!」
頬を紅潮させたイリスが、うっとりとした表情でアレンの背中を見つめる。
「時間の無駄だったな。行くぞ、イリス」
アレンは、ゴミクズのように転がるガレスに二度と目を向けることなく、諸悪の根源である聖女が待つ、霊樹の最深部へと再び歩みを進めた。




