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第78話 黒き翼の粉砕と、舞い降りた天使

「チッ……!」


全力の一撃を幼女の片手で受け止められたルヴェンは、屈辱に顔を歪めながらバックステップで大きく距離を取った。即座に愛用の槍を構え直し、その刃に再びどす黒い風の魔力を滾らせる。


「ガキが、調子に乗って邪魔をするんじゃねぇ!!」


激昂と共に、ルヴェンが槍を突き出した。シュシュシュシュシュッ!!と、有翼人の風の速度を活かした、目にも留まらない超高速の連続突きがリザの全身を襲う。


「よっ。ほっ。それっ」


しかしリザは、その猛烈な風の刃の雨を、まるでお散歩でもしているかのような余裕の笑みを浮かべてひらりひらりといなしていく。一歩も動くことなく、最小限の体捌きだけで全ての突きがリザの服の掠り傷にすらならない。


「くっ、この化け物が……!」


「うーん。手数は多いみたいだけどさ、焦って上体ばかりに力が入っているよ? 重心が浮いているから、一発一発の重みがまるでないねぇ」


「……くそっ!!」


幼女からの冷静すぎる武術指導にプライドを激しく傷つけられたルヴェンは、大きく一歩を踏み出し、渾身の力で上から下への力任せな斬撃を繰り出した。しかしリザは、その軌道を完全に見切って一歩横へステップし、優雅に回避する。


「それ、さっきルストにもやったよね? 芸が無いねぇ、引き出しの少ない男はモテないよ?」


リザは冷ややかに言い放つと、ルヴェンの懐に一瞬で踏み込み、漆黒の魔力を収束させた正拳突きをその胸元へ向けて放った。

危機感を察知したルヴェンが咄嗟に槍の柄を盾にしてガードするが――。


バキィィィィィンッ!!!!!


凄まじい衝撃音と共に、ルヴェンの愛用の槍が中央から真っ二つに叩き折れた。

それだけではリザの拳の威力を殺しきれず、防ぎきれなかった衝撃の残波がルヴェンの胸板を直撃する。


「がはっ……!?」


ルヴェンは盛大に血を吐きながら、地面を何度もバウンドして遥か後方へと無様に吹き飛んでいった。


「ル、ルヴェン様ぁーっ!?」


物陰から戦況を見ていたエリフが、文字通りひっくり返ったような声を上げてガタガタと震える。里の最強戦力の一人であるルヴェンが、ただのパンチ一発で武器ごと粉砕されたのだ。


「エリフ……! てめぇ、何を見てやがる、その槍をよこせ!!」


泥まみれになりながら執念で立ち上がったルヴェンは、目が血走った形相でエリフを睨みつけた。エリフは恐怖で悲鳴を上げそうになりながらも、慌てて駆け寄り、自分の持っていた槍をルヴェンの手に手渡す。


新たな槍を握りしめたルヴェンは、もはや理性を失い、獣のような咆哮を上げた。


「人の恋路を邪魔するんじゃねぇよ!! 地属性の出来損ないも、それを庇うてめぇも、まとめてここで死ねぇぇぇーーーっ!!」


ルヴェンは槍と己の身体全体に、文字通り命を削るほどの風の魔力を集中させた。漆黒の翼が限界を超えて羽ばたき、彼は弾かれたように空高くへとジャンプする。

そして、上空で反転すると、凄まじいGを伴う勢いを乗せて、一気にリザへと槍を構えて滑空突撃を仕掛けてきた。


ドゴォォォォォォーーンッ!!!!!


地響きと共に、先ほどよりも一回り大きな音を立てて山道が爆発した。強烈な衝撃波により、周囲に激しい砂煙が舞い上がる。


しかし、その砂煙の真横で、やはりリザはひらりと無傷で佇んでいた。


「……はぁ。やれやれだねぇ」


リザは呆れたように首を振ると、クレーターの中心で槍を突き立てて息を切らせているルヴェンを、冷ややかな目で見下ろした。


「人の恋路を邪魔しているのは、どう見てもあんたの方だろう。当の女の子の気持ちを完全に無視してさ」


「な……に……っ!?」


「隙だらけだよっ!!」


リザは容赦なく、右足を天高くへと跳ね上げた。小さな身体からは想像もつかないほど美しい、垂直の開脚。その足に、ドス黒い魔力がバチバチと超高密度で圧縮されていく。


そのまま、ルヴェンの脳天を目がけて、超重量の『踵落とし』が容赦なく振り下ろされた。


ズドォォォォォォォォーーーーンッ!!!!!


ルヴェンの突撃など比較にならないほどの、大地震のような轟音と衝撃が里の入り口を揺るがした。周囲の木々が衝撃波でバキバキとへし折れ、ルヴェンが作ったクレーターをさらに数倍の大きさと深さで圧殺する、巨大な大穴が地面に刻まれる。


「がっ……、は……っ……」


クレーターの底で、ルヴェンは白目を剥き、ピクリとも動かなくなっていた。自慢の黒い翼はボロボロに折れ曲がり、完全に意識を失っている。


リザはスッと足を下ろすと、静かに残心を取った。


「ふぅ……」


リザはいつものように、自分の服についた埃をパンパンと軽快に払う。

ドニー率いる風の部隊に続き、兄のルヴェンまでが一瞬で完全沈黙したことで、山道の周囲に潜んでいた有翼人たちは、完全に言葉を失って静まり返っていた。恐怖のあまり、呼吸をすることすら忘れたかのような静寂が、隠れ里全体を支配する。


その時だった。


「ルスト……?」


静まり返った里の奥から、鈴の音を転がしたような、透き通った美しい声が響いた。


そこから現れたのは、一人の有翼人の少女。

彼女の髪、そして背中に生えた大きな翼は、まるで汚れなき新雪のように純白で、神聖な輝きを放っていた。光属性の申し子。


ルストが命をかけてもう一度会いたかった、彼の『天使』――アンジェだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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(次回更新:明日19時40分!)

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