第7話 騎士の忠誠と、優秀すぎる高性能カーナビ
帝国軍の先遣隊を鮮やかに追い払った私は、ルナリア王国の傭兵登録所へと戻っていた。
カウンターの上には、受付のお姉さんがガタガタと震えながら差し出してきた、ずっしりと重い臨時の報酬袋が鎮座している。
「うっひょーーー! さすが命懸けの高収入バイトだねぇ!」
袋を開けて中身を確かめ、私はニヤニヤが止まらない。
「たった数時間突っ立って、ちょっと『上段受け』と『手刀打ち』をしただけで、前世のOL時代の給料三ヶ月分じゃん! 異世界バブル最高!」
ホクホク顔のままギルドを後にした私は、ご褒美として町で一番オシャレなカフェへと滑り込んだ。
注文したのは、この辺りの物価ではかなりの贅沢品である、20ゴールドの特製パスタ。日本円にして約千円の高級品だ。もちもちの麺をフォークで巻き取り、美味しそうに口へと運ぶ。
(うーん、美味い。……それにしても、とりあえず防衛戦には勝っちゃったから、しばらく大きなイベント(戦闘)は無いよね。次はどうしようかなぁ)
もぐもぐとパスタを咀嚼しながら、私はこれからの予定について首をひねる。
(ラノベの定番の展開なら、ここから帝国側にカウンターで攻め込みたいところだけどさ。……私、そもそもこの世界の地理とか全然わかんないんだよね。完全なる方向音痴の迷子状態だし。どこをどう歩けば帝国の本陣に着くわけ?)
完全に「目的地のない戦闘狂」として困り果てていた、その時だった。
ガシャーーーーン!!!
「リ、リザ殿……っ!!」
カフェのガラス扉が勢いよく開き、息を完全に切らせた男が突入してきた。
見れば、さっき私が手刀で眠らせたはずの聖騎士ジウスである。鎧は泥でボロボロのままだが、その瞳には尋常ではない熱い光が宿っていた。
ジウスは周囲の客が悲鳴を上げるのもお構いなしに、私の座るテーブルの前まで突進してくると、床にドカンと膝をついて跪いた。
「リザ殿……! お探しいたしました! このジウス、貴殿の圧倒的な武の力、そして深淵なる大人の器に魂を救われました! 今この瞬間から、この命、我が唯一の主人である貴殿に捧げます……!」
「……。……いや、ちょっと待て」
私はフォークを握ったまま、思いっきり顔をしかめた。
「カフェの店内で、大真面目に騎士の誓い立てるのやめてくれる!? 周りの人たちがドン引きしてパスタ食べる手止まってるから! あと、命とか重いからいらないよ!」
サバサバと一蹴する私に、ジウスはハッと我に返り、慌てて立ち上がった。
「し、失礼しました……! ところで主よ、何かお悩みのご様子でしたが、私にお手伝いできることはありますか?」
「ん? ああ……。帝国に攻め込みたいんだけどさ、どこに攻め込めばいいか分からなくて困ってたんだよ」
私が正直に打ち明けると、ジウスはパッと顔を輝かせ、誇らしげに胸を張った。
「それならば……危険な魔道具の産みの親である、マディウス・クレイドル将軍を討伐しに行きましょう! マディウスは今、ルナリアの国境近くにある渓谷に堅牢な前線基地を築き、日々、恐ろしい魔道具の実験を繰り返しているのです!」
その瞬間、私の目はキラーン☆と、今日一番の獲物を見つけたハイエナのごとく輝いた。
(新ボス発生キターーーー!! しかも魔道具の実験場とか、ギミック満載の極上ステージじゃん!)
「よし、ジウス! そこまで私を案内しな!」
「御意! マディウスの基地へと続く隠しルートは、すべて我が頭の中にインプットされております! リザ殿、私についてきてください!」
(お、優秀なカーナビが手に入ったじゃん。ラッキー!)
私は脳内でガッツポーズをキメると、席を立ち、テーブルに20ゴールド硬貨をパッと置いた。
「頼もしいねぇ。よーしジウス、次のバイト先にレッツゴー♪」
「ハッ、お供いたします!」
こうして私は、まるでお気に入りの丘へピクニックにでも行くような軽いノリで、目を爛々と輝かせる忠犬騎士の後を追うのだった。目指すは帝国の前線基地――待ってろよ、マディウス将軍!
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