第60話 英雄の終わりと、新たな供給元
無双を誇った絶対的な首魁、リベリオが地面に沈んだ。
その瞬間、それまで狂信的な士気を保っていた革命軍の兵士たちの顔が、一斉に絶望へと染まる。
一人、また一人と武器を落とし、やがて彼らは蜘蛛の子を散らすように、一目散に戦場から逃げ出し始めた。
そんな喧騒の中、ドノクスはゆっくりと、倒れたリベリオの側へと近づいていった。泥にまみれ、ピクリとも動かないかつての憧れを見下ろし、その顔に深い悲しみの色を浮かべる。
「リベリオ……」
ぽつりと溢れた声は、敗走する軍勢の足音にかき消された。
その頃、完全に勝機の巡ってきた王国軍は、逃げる革命軍への追撃を開始していた。
戦況が大きく動く中、数人の王国軍の兵士たちが、槍を携えてリザたちの元へと近づいてくる。
「『黒い天災』のリザ様ですね?この度は多大なる助力、誠にありがとうございました!」
兵士の丁重な礼に、リザは拳の魔力を霧散させながら、興味なさそうに鼻を鳴らした。
「別にあんたたちのためにやったわけじゃないよ。そこに転がってるやつに、ちょっと用があっただけだし」
「ははっ、いずれにせよ我らにとっては救いの神にございます。……リベリオの身柄はこちらでお預かりします」
兵士が合図を送ると、後ろから数人の兵がやってきて、リベリオの巨体を持ち上げ、慌ただしく運んでいった。
引きずられていく宿敵の背中を見送りながら、ドノクスがしみじみと呟く。
「これが、英雄の最後か……」
「ドノクス、お前もだ」
不意に、先ほどの兵士が冷徹な声を突きつけた。
向けられた冷たい槍の穂先に、ドノクスは情けない声を上げる。
「へ?」
「お前も革命軍の一員だろうが。お前らの革命は終わったんだ。大人しくお縄につけ。抵抗するなよ?」
「い、いや!俺は途中で抜けたっていうか、ほ、ほら!リザさんをここに連れてきたのも俺だし!?」
必死に言い訳をするドノクスに、兵士は不審げな目を向け、リザの方を振り返った。
「……リザ様、本当ですか?この男はあなたの協力者で?」
ドノクスは救いを求めるような視線をリザに送る。
しかし、リザはわざとらしく小首を傾げ、冷ややかに言い放った。
「知らないねぇ、そんなやつ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよリザさん!そりゃないですよ!」
青ざめるドノクスを見て、リザは顔を背けながらニヤニヤと意地悪に笑っている。
兵士たちは容赦なくドノクスの腕を取り、その手首にガチリと鉄の手錠をはめ込んだ。
「リザさん!助けてくださいよ!俺が逮捕されたら、もう蜂蜜漬けは食べられないんですよ!?」
「おっと、それは困るねぇ」
蜂蜜漬けの供給が断たれると聞いた瞬間、リザの目の色が変わった。
リザはすぐさま、ドノクスを連行しようとする兵士たちの前に立ち塞がり、その動きを止める。
「これから、定期的に蜂蜜漬けを私の元へ運んできな。もちろんタダだよ?それが今回のバイト代ってことにしといてやる」
ドノクスの耳元でそう囁くと、ドノクスは涙目になりながら激しくコクコクと首を縦に振った。
それを見たリザは、何事もなかったかのように兵士たちを振り返る。
「ってことだ。兵隊さんたち、さっきのは私の勘違いだ。こいつは革命軍を裏切って、私をここに連れてきてくれた英雄だよ」
「え……?は、はあ……。リベリオを倒してくださったリザ様がそう仰るのであれば、そう信じましょう」
あまりの急転直下に兵士たちは困惑しきりだったが、「黒い天災」の機嫌を損ねるわけにもいかず、言われるがままにドノクスの手錠を外して解放した。
「助かったぁ……」
手首をさすりながら、ドノクスは深々と安堵の息を漏らす。
リザはそんなドノクスの肩をパシパシと叩き、満足げに微笑んだ。
「さて。老後の楽しみの供給元も確保できたし、帰ってゆっくり蜂蜜漬けを食べようかねぇ」
戦場の真ん中で、まるで買い物を終えたかのような軽い足取りで歩き出すリザ。
ドノクスはその後ろを、やっぱり「ただただついて行く」のだった。
(第六章 完)
これにて第六章が完結です!
明日から始まる第七章も引き続きお楽しみいただけると嬉しいです!
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(次回更新:明日19時40分!)




