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第58話 かつての英雄と、現在の決別

地響きのような怒号と、鉄と鉄が激しくぶつかり合う鈍い音が、大気をビリビリと震わせていた。


「始まったか……」


ドノクスが低く呟く。

リザたちがたどり着いた革命軍の本拠地――その目の前の平原では、まさに今、牙を剥き出しにした革命軍と、それを迎え撃つ王国軍の主力部隊が、睨み合いの限界を迎えて正面から激突したところだった。


戦況は、初手こそ拮抗しているように見えた。数の王国軍に対し、地の利と士気で勝る革命軍。

だが、その均衡は「たった一人」の怪物の乱入によって、見る影もなく崩壊していく。


「へえ……あいつ、なかなかやるじゃん」


リザは目を細め、獰猛な笑みを浮かべて戦場の一角を指さした。

そこだけ、まるで嵐でも吹き荒れているかのようだった。


革命軍の先頭に立つ漆黒の毛並みを持った猫獣人──リベリオが、どす黒い闇属性の魔力を爆発させながら巨大な大剣を振るうたび、王国軍の重装歩兵が、まるで紙屑のように派手に宙を舞い、肉の壁ごとまとめてなぎ倒されていく。


獣人特有のしなやかさと、闇の魔力が生み出す圧倒的な破壊力。無双。その二文字以外に形容のしようがない無双ぶりだった。


凄まじい破壊力を目の当たりにしているというのに、リザの瞳には恐怖など微塵もなく、むしろ極上の獲物を見つけたような輝きが宿っていた。


「……ねえ、ドノクス。あの王国軍をゴミみたいに蹴散らしてる、やたら強いやつ……あいつがリベリオだね?」


リザの問いに、ドノクスはただ静かに、重々しく頷いた。


「ああ、間違いない。奴が革命軍の首魁、リベリオだ。……予想以上の怪物だな」


「へえ、面白そうじゃん。好都合だよ、あいつを潰せば革命軍の殲滅も一気に片がつくもんね!」


リザは不敵に笑うと、地を蹴った。目指すは、革命軍の隊列の手薄な側面――『横っ腹』だ。


戦場の混沌へ、斜めから文字通り突っ込んでいくリザ。前方には、王国軍を圧迫しようと色めき立つ革命軍の兵士たちがひしめき合っている。


「はいはい、どいたどいた! 邪魔だよーっ!」


リザは走りながら、軽く手首を回した。

その小さな拳に、パチパチと狂暴なまでの魔力が集束し、眩い光を放ち始める。リザが放ったのは、一撃の――【魔動拳】。


空気を引き裂くような大爆音と共に、凄まじい魔力の衝撃波が革命軍の横っ腹を直撃した。


「うわああああっ!?」


リザの進路にいた数十人の兵士たちが、まるで大砲で至近距離から撃ち抜かれたかのように、まとめて遥か彼方へと吹き飛ばされる。

砂煙が晴れた戦場には、革命軍のど真ん中を貫く、見事な一本の「更地」が出来上がっていた。


そして、その惨状の後ろを。

ドノクスは武器すら抜かず、出来立ての綺麗な道をただただ、悠然と歩いてついて行く。


「……相変わらず容赦のない拳だな、リザ」

「もー、ドノクス遅い! ほら、ターゲットのところに到着だよ!」


自慢の軍勢の横っ腹を一瞬で消し飛ばした大爆音と砂煙。

戦場の異常に気づき、王国軍の兵士を掴み上げていたリベリオが、ゆっくりとこちらを振り返った。獰猛な肉食獣の金色の瞳が、冷徹なリアリストの笑みと共にリザたちを捉えた。


「ハッ! 随分とド派手な挨拶じゃねえか。……おいおい、どこの馬の骨かと思えば、ドノクスじゃねえか」

リベリオは掴んでいた兵士をゴミのように投げ捨て、大剣を肩に担ぎ直した。

「何の用だ? 革命を裏切って逃げ出した腰抜けが、今更どの面下げて戻ってきた?」


冷たい蔑みの言葉。だが、ドノクスは静かにリベリオを見据え、ゆっくりと一歩前に出た。その拳は、白くなるほど固く握りしめられている。


「リベリオ……頼む、目を覚ましてくれ! お前が本当に作りたかったのは、こんな血みどろの地獄じゃないはずだ! 俺は一度はお前の掲げた理想を信じた! お前の持つ圧倒的な力に、この国の未来を、希望を確かに見たんだ……!」


「ハッ、寝言は寝て言いやがれ!」

リベリオは低く濁った声でドノクスの言葉を遮り、黒い耳を不快そうに伏せて吐き捨てるように笑う。


「目を覚ましてねえのはどっちだぁ? 綺麗事じゃ国は変わらねえんだよ。穏健派だの何だの、覚悟のねえ腰抜けを間引いて何が悪い! 泥をすする覚悟もねえ甘ちゃんが、俺の革命に口を出すな!」


ギラついた目で睨みつける元・英雄。その変わり果てた姿に、ドノクスはついにガックリと肩を落とし、深い、深い溜息をついた。


「……そうか。俺の信じた、気高き革命軍のリーダーは……もうどこにもいないんだな」


「いねえよ、そんな都合のいい聖人君子はな! おいドノクス、俺が間違っていると言うなら、お得意の能書きじゃなく、力づくで止めてみろッ!」


黒い尾を激しく叩きつけ、地響きを立ててリベリオが踏み込んでくる。その瞬間、ドノクスの瞳から感傷が完全に消え失せ、冷徹な戦士の目が戻った。


「――わかった。もうお前を、かつての同胞だとは思わない」


言うが早いか。

ドノクスは凄まじい速度のバックステップを敢行した。


リベリオの間合いから、一瞬で遥か後方の安全圏へと引き下がる。そして、前に残されたリザの背中に向かって、堂々と声を張り上げた。

「リザさん! お願いします!」


「こ、こいつ本当にブレないねぇ!?!?」

あまりの変わり身の早さにズッコケそうになりながらも、リザは不敵に唇を吊り上げた。その両拳に、先ほどを遥かに凌ぐ濃密な魔力を爆発させる。


「まぁいいよ! あんたを倒せば私の任務も一発クリアだしね! ドノクスの元・上司、私がこってりお仕置きしてあげる!!」


リザはそう言い放つと、魔力を滾らせた拳を構えて一歩前に出た。

対するリベリオも大剣を肩から下ろし、獲物を屠る獣の視線でリザを真っ正面から見据える。

激突寸前の殺気が火花を散らす中、二人の怪物がついに間合いへと踏み込んだ――。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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(次回更新:本日23時40分!)

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