第57話 ありがた迷惑な破壊神と、立場逆転の旅路
「ミーア! 無事だったか、ミーア!!」
逃げ回る革命軍の兵士たちを尻目に、工場の外へと避難した村人たちの中へ、ドノクスがなりふり構わず飛び込んでいった。
煤に汚れた十二歳の少女が、細い猫耳をピンと立てて振り返る。
「お兄ちゃん……!? 本当にお兄ちゃんなの……っ!?」
「あぁ、そうだ、俺だ! 悪かった、ずっと一人にして寂しい思いをさせて……っ!」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ! 怖かった、怖かったにゃあ……っ!」
ミーアがドノクスの胸に飛び込み、二人はお互いを強く抱きしめ合った。周囲の猫獣人の村人たちも、「ドノクスが帰ってきた」「私たちは助かったんだ」と、お互いの無事を確かめ合いながら涙を流している。
(うむうむ、実によい感動の再会じゃないかい。おもてなし役の家族が無事で、ババアも鼻が高いよ)
私は腕を組みながら、その微笑ましい光景を満足げに眺めていた。
さて、悪党も片付いて皆の安全も確保した。となれば、最後はやはり『これ』で綺麗に締めくくらなきゃいけないさね。
私はスタスタと、今しがた全員が避難してきたばかりの、黒煙を上げる禍々しい武器工場の前へと歩み出た。
「よーし、皆、外に出たね?」
私が小さな手を叩いて声をかけると、ドノクスやミーア、村人たちの視線が一斉に私へと集まった。
「それじゃあ、こんなのどかな村にまったく似合わない工場は、お姉ちゃんが更地にしてあげようかねぇ!」
よーし、おばちゃん、みんなのために一肌脱いじゃうぞー!という100%の善意と親切心を胸に、私は腰を深く落とした。
「え? リザさんちょっと何を──」
ドノクスがハッとして何かを言いかけたが、私の耳には届かない。
体内の闇魔力を拳へと一気に集中させる。ドロリとした漆黒の波動が、私の小さな拳を包み込んでいく。そのまま、正拳突きの構えをゆっくりと、しかし確実にとった。
「ふんっ!!」
鋭い呼気と共に放たれた、渾身の『魔動拳』。
ドバァァァァァァァァンッ!!!!!
空間そのものを叩き割るような凄まじい衝撃波が、巨大な武器工場を正面から直撃した。鉄筋も、トタンも、過激派革命軍が持ち込んだ禍々しい近代兵器の製造ラインも、すべてが分子レベルで粉々に粉砕される。
鼓膜を揺らす爆音の後には、遮るもののなくなった広大な更地と、そこへ差し込む爽やかな午後の青空だけが残されていた。
「ふぅ、すっきりしたね!」
私はパンパンと両手をはたいて埃を落とし、実によい仕事をしたというドヤ顔のまま、笑顔で村人たちの方を振り返った。
「………………………………」
だが、返ってきたのは歓声ではなかった。
村人全員が、まるで世界の終わりを見たかのように顔を真っ青に染め、ガタガタと歯の根も合わないほどに震え上がっていたのだ。
「せ……せっかく、皆で頑張って作ったのに……っ!」
一人の老獣人が、へなへなと地面に膝をついて絶望の声を漏らした。
「……ありゃ?」
私は首を傾げた。おやおや、嬉しすぎて声が出ないのかい?
すると、ドノクスの胸に抱えられていたミーアが、毛を逆立て、涙目でガタガタと震えながら私を指差した。
「あ、悪魔にゃ……! 黒い悪魔にゃ……! 笑顔で村の希望を粉々にしたにゃ……っ!」
「いや、リザさん、一体全体何をやってくれてるんですか!?」
ドノクスが、額に青筋を浮かべて猛烈な勢いで私に詰め寄ってきた。
「え? いや……だって、あんな禍々しい工場、こののどかな村にはもう必要ないだろう……? 跡形もなく消してあげた方が、みんなも清々すると思って……」
怒気を含んだドノクスの剣幕に、私は思わず一歩引いて、タジタジになりながら言い訳をした。
「強制労働させられていたとはいえ、あの工場は村人全員が血と汗を流して必死に組み立てた工場だったんですよ!? たしかに武器を作らされていたのは癪ですが、あの設備さえあれば、これからの村の雇用だって守れたんです! 武器以外の産業……例えば、農機具とか、日用品とか、色々と使い道はたくさんあったんですよ!?」
「えっと……ごめん……? 壊した方が良いと思って……」
私は完全にヘタレてしまい、小さな身体をさらに縮こまらせて、蚊の鳴くような声で謝罪した。
前世のアラフィフOLとしての常識が、今になって「やらかした」と警報を鳴らしている。言われてみればその通りじゃないかい。ババア、良かれと思って完全な営業妨害(物理)をやらかしてしまったよ。
「はぁ~……」
ドノクスは深いため息をつくと、がっくりと肩を落とした。
「まあ、やっちゃったもんはもういいですよ……。残ってても、また別の革命軍に目をつけられたかもしれませんしね。……よし、さっさと元凶のリベリオを倒しに行きましょう! これ以上この村にいたら、次は何が更地にされるか分かったもんじゃない!」
ドノクスはそう吐き捨てると、ミーアや村人たちに「必ず平和を取り戻してくる」と言い残し、私を置いてスタスタと前へ歩き出してしまった。
「あっれぇ~……?」
さっきまであれほど私の顔色を伺い、全自動で敵を倒してくれとアゴで指図していた他力本願の猫耳が、今や私を「目を離すと何をしでかすか分からない問題児」を見るような目で扱っている。
立場が完全に逆転してしまったことに困惑しつつ、私は「あっれぇ〜?」と腑に落ちない顔をしながら、ドノクスの後ろをトボトボとついて行くのだった。
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(次回更新:本日21時40分!)




