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第55話 黒煙の工業地帯と、異世界の水戸黄門

「なんだよこれ……っ! 嘘だろ、俺の村が……っ!!」


国境を越え、数時間かけて辿り着いたドノクスの故郷。

しかし、彼の口から漏れたのは絶望の悲鳴だった。私の目の前に広がるのは、ドノクスが言っていた「緑豊かでのどかな村」とは程遠い、鉄と煤に汚れた禍々しい工業地帯だった。

至る所に不格好なトタンや鉄骨の建物が乱立し、ドナドナと不快な金属音が響いている。


ドノクスは私の案内役であることも完全に忘れ、血相を変えて自分の家があったはずの方向へと走り出した。


「ミーア! ミーアいるか!? 返事をしてくれ、ミーア!!」


乱暴に我が家の扉を蹴り開け、ドノクスが悲痛な声を張り上げる。だが、静まり返った家の中から返ってくる音は何一つなかった。


「……誰もいないねぇ」


スタスタとマイペースに歩いて追いついた私は、周囲の家々を見渡した。ドノクスの家どころか、近隣の民家にも全く人の気配がない。まるで村全体の時間が止まってしまったかのようだ。

ただひとつ、異常な存在感を放っている場所を除いては。


「ドノクスくん。どうやら、みんなあそこに集められているみたいだね」


私が小さな指でパシッと指し示したのは、村の奥で黒い煙をモクモクと空へ撒き散らしている、一際巨大な鉄筋の工場だった。


「ミーアはまだ十二歳だぞ……!? あいつら、あんな子供まで労働力として駆り出しているっていうのか……っ! 許せない、絶対に許せない……っ!!」


ドノクスが怒りに拳を震わせ、激しい怒号を上げた。

――と、その叫び声が周囲に見つかるのは、お約束というものである。


「おい! そこで何をしている!」

「誰だ貴様らは……って、お前は……脱走兵のドノクス!」


工場の陰から、過激派革命軍の兵士が二人、鋭い猫耳を逆立てて近づいてきた。ドノクスの顔を見るなり、兵士の一人が目を見開く。


「おい、急いでイプコス様に報告してくるんだ! 脱走兵が現れたとな!」

「おう、任せろ!」


兵士の一人が、慌てた様子で工場の中へと走り出していく。

残されたもう一人の兵士がギラリと武器を構えた瞬間――ドノクスの瞳に、これまでにない激しい怒りの炎が宿った。


「これがお前らの……! お前らの掲げる、獣人のための平等な理想の世界かぁぁぁぁっ!!」


ドノクスは怒りに任せて腰の剣を鋭く引き抜くと、凄まじい踏み込みで兵士へと斬りかかった。元革命軍の兵士というだけあって、その動きは確かなものだ。一閃。ドノクスの放った執念の一撃が兵士の武器を弾き飛ばし、そのまま見事に一撃で無力化してみせた。


「おぉ……! やればできるじゃないか、ドノクスくん!」


私は背後で、パチパチと拍手を送った。

いつも他力本願で私を全自動拠点破壊兵器みたいに使うちゃっかり猫耳だと思っていたけれど、妹のためならちゃんと格好よく戦えるじゃないかい。


「リザさん! 幹部のイプコスはあの工場の中にいるようです! 行きましょう、皆を助け出さなきゃならない!」


「よし、ついて行くさね!」


ドノクスが剣を構えたまま工場へと走り出す。私は大喜びで、心の中のパッションピンクのサイリウムを両手に一本ずつ点灯させ、待機モードで彼の後ろをピコピコとついて行った。いいねいいね、新章の第二戦目、実家のような安心感のあるカチコミイベントの開幕さね!




――バァァァァンッ!!!


工場の重い黒鉄の門を、ドノクスが勢いよく蹴り破る。

広大な工場の内部には、煤にまみれて鉄屑を運ばされ、過酷な強制労働を強いられている大勢の猫獣人たちの姿があった。その中には、ドノクスの顔見知りやお年寄り、そして彼が必死に探していた、兄そっくりの綺麗な猫耳を持つ十二歳の妹、ミーアの姿もあった。


「お兄ちゃん……!?」

ミーアが信じられないといった様子で、細い腕で鉄屑を抱えたまま目を見張る。


「みんな、今助けるぞ!」


ドノクスが叫んだその時、工場の奥からジャラジャラと武装した兵士たちを従え、一人の男が優雅に歩み出てきた。

過激派革命軍の幹部、イプコス・エルジエス。

冷酷そうな鋭い金の瞳を持った猫獣人の男は、楽しげにふんぞり返りながらドノクスを見下ろした。


「フハハハ! 脱走兵のドノクスか。故郷の妹が恋しくなって、わざわざ殺されにここまで戻ってきたのか? 哀れな奴め」


「イプコス……! 貴様ら、よくも俺の故郷を、大切な仲間たちをこんな目に……っ!」ドノクスが剣を握る手にギチギチと力を込める。


(キタキタキターーー! 囚われのヒロイン(妹)の目の前で、冷酷な幹部と対峙する兄! 雑魚兵士くらいなら、私が後ろからシャキーンと片付けてあげるからね。お兄ちゃん、存分に格好いいところを見せちゃいな!)


私の心の中のサイリウムを振る手が止まらない。最高のお膳立てじゃないかい!


「ふん、すべてはリベリオ様の目指す至高の変革のためだ。この程度の犠牲など、未来の栄光に比べれば塵に等しい。逆らう者はすべて、この工場の鉄屑にしてくれるわ!」

イプコスが傲慢に手を掲げ、周囲の兵士たちに突撃の合図を送ろうとする。


「黙れ! 未来のために今を生きる民を苦しめるなど、ただの外道だ! 俺の命に代えても、お前たちの独裁をここで終わらせてみせる!!」


ドノクスが覚悟を決めた、最高に熱く格好いいセリフと共に、上段に剣を構え直した。私の脳内のパッションピンクのサイリウムは、もうマッハの速度で激しく回転している。さあ行けお兄ちゃん! 妹の前で最高の見せ場だ!


「さぁ、リザさん!!」


ドノクスが、満面の笑みで後ろを振り返った。


「へ?」


私のサイリウムがピタッと止まった。


ドノクスは今まさに敵に斬りかからんとする完璧な構えのまま、実にあっさりと、これ以上ないほど爽やかな声でこう宣ったのだ。


「やっちゃってください!」


「………………………………」


私は掲げようとした手のまま、完全にフリーズした。


よく見ればドノクスくん、体は敵を向いているのに、顔だけは私に向かって「はい、出番ですよ」と超笑顔でウインクまでしてきている。剣を抜いて格好いいセリフを言ったのは、自分が戦うためではなく、単に私にバトンタッチするための単なる前振りに過ぎなかったらしい。


「お前は水戸黄門かよ!!!」


私は声を大にして激しいツッコミを炸裂させた。

格好よくタンカを切っておいて、最後の最後で「懲らしめてやりなさい」とばかりに私を戦闘兵器としてアゴで指図するそのスタイル、完全に他力本願の極みじゃないかい!!

【お知らせ:手書きリテイク完全版を公開しました!】


本作(AI版)をベースに、私が手書きで大幅に描写や展開をブラッシュアップした【リテイク完全版】をアルファポリスでも投稿してみました。そしたらなんと、おかげさまで男性HOTランキングで現在11位まで上がりました……!


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