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第50話 常闇の狂宴と、必殺の闇燕落とし

切り立った断崖の奥、海賊同盟の最深部たる『常闇のレヴォス』の本拠地。

黒鉄の玉座の間へと足を踏み入れた私とルキノを待ち受けていたのは、不気味なほどの静寂だった。


今日一日で自慢の同盟の船長たちが次々と撃破され、アジトも壊滅したというのに、玉座に深く腰掛けた黒髪の男――レヴォスは、動揺するどころか狂気的な歓喜を孕んだ昏い瞳で私をじっと見つめていた。


「――来たか。ジェニラムの陣形を消し去り、ジャルヴァの金剛すら一撃で穿った怪物」


レヴォスがゆっくりと立ち上がる。その瞬間、男の身から放たれた『常闇の魔力』が、周囲の松明の光すら強引に喰らい尽くし、広大な玉座の間を一瞬にして深い闇へと染め上げていった。


「お前が動いた。それだけで、このくだらない同盟を組んだ甲斐があったというものだ」


男の不敵な言葉に、私の隣で双剣を構えるルキノが息を呑んだ。

「……何だと? 貴様、同盟を組んだのはパシフィカを支配するためでは――」


「パシフィカの領土など塵ほどの価値もない」

レヴォスは冷徹に言い放ち、その視線を完全に私だけへと固定した。

「私が求めたのはただ一つ。ガレリアを本拠地ごと消し飛ばしたという、正真正銘の化け物――『黒い天災』リザ・ウェカム。お前という圧倒的な強者を、この最果ての戦場へと誘い出すための生贄が、この同盟に過ぎん」


(なるほどねぇ……。こいつは、私と同類(バトルジャンキー)だ)


男の言葉を聞いた瞬間、私の脳内からいつものオタクじみたメタ思考や、還暦の隠居願望がスッと消え失せた。心の中のサイリウムを静かに床に置き、前世から何十年と武道を極めてきた格闘家としての血が、ドクン、と熱く沸き立つのを感じていた。


この男は、地位も名誉も欲していない。ただ、己の退屈を殺してくれる、極限の死闘だけを渇望しているのだ。


「お前なら、私のこの渇きを癒やしてくれるのだろう? さあ、私の全てを奪ってみせろ、リザ・ウェカム……ッ!!」


レヴォスの咆哮と共に、玉座の間の床から無数の影の棘が、弾丸のような速度で私目掛けて一斉に突き出してきた。


「いいよ、若造。還暦を過ぎたババアの全力の組手、その身体にじっくり刻んであげようかねぇ!」


私はフリフリの水着の裾を翻し、神速の体捌きで影の棘を紙一重で予測回避する。間髪入れずに両の拳を突き出し、至近距離から『魔動拳』の連射を放った。


ドッパァァァァァァァンッ!!!!


巨大な黒い魔力波動が何本も直撃する。だが、レヴォスは避けない。男は自身の闇魔力を凝縮させた両腕で、私の『魔動拳』を正面から受け止め、凄まじい衝撃波を撒き散らしながら力業で相殺してのけた。


「素晴らしい……! お前の拳は、私の闇すらも容易に喰らい破るか!」


「まだまだ、これからさね!」


これまでのテンプレ敵のようにワンパンで終わらない。初めて出会った、本物の強敵。

私は歓喜に口元を歪め、手足に魔力を込めた超高速のワンツースリー――『漆黒連撃』をレヴォスの死角から叩き込んだ。


ドガッ! バキィッ! ズガァァァンッ!!!


目にも留まらぬ連撃がレヴォスの肉体を捉え、男を壁際へと激しく吹き飛ばす。しかし、レヴォスは即座に受け身を取ると、口元の血を拭うことすら忘れて、狂気的な笑みをさらに深くした。


「ハハハ! これだ、この痛みを、この絶望を待っていた!!」


レヴォスが両手を広げると、アジトの全魔力を吸い上げたかのような、空間そのものを圧殺するほどの極大の闇の檻が形成され、私を四方から完全に閉じ込めんと迫り来た。


「これで終わりだとは思わないよ。――とっておきの二連続の技、受けてみなっ!!」


私は一瞬の踏み込みから、迫り来る闇の檻のわずかな隙間を縫うようにして、前方のレヴォス目掛けて鋭く低空ジャンプを仕掛けた。


影の腕を伸ばして迎撃しようとするレヴォスの懐へと真っ直ぐに肉薄し、私は空中で漆黒の闇魔力を両足へと極限まで収束させる。バチバチと、黒い稲妻のような魔力が私の小さな足を包み込んだ。


空手の神技たる空中二段蹴り。

まずはその一段目、鋭い左足の前蹴り――『飛燕蹴り』を、レヴォスの無防備な胸元へと突き刺した!


ドゴォォォォォンッ!!!!


「ぐはっ……!?」


骨の砕ける重々しい衝撃音と共に、レヴォスのガードが強引に跳ね上げられ、その肉体が無防備に空中にさらけ出される。


私はその前蹴りの反動をそのまま利用し、空中でさらもう一段高く身体を鋭くひねり上げた。回転の遠心力と、溜まった闇魔力のすべてを右足の踵へと一点集中させる。頭上高くから、レヴォスの脳天目掛けて、必殺の『踵落とし』を容赦なく振り下ろした。


ズバァァァァァァァンッ!!!!


空間そのものを縦に一刀両断するような、圧倒的な漆黒の衝撃波が弾け飛ぶ。

脳天を深く叩き割られたレヴォスは、私の放った圧倒的な二連続の足技の波動に正面から呑み込まれ、そのまま床をブチ抜いて地面へと叩きつけられた。


その衝撃のまま、海賊同盟の最後の本拠地(城)は、中の瓦礫ごと、文字通り塵一つ残らない綺麗な平地(更地)へとリフォームされ、大爆発と共に粉砕されていった。


激しい煙が海の風に吹かれて、ゆっくりと晴れていく。


私はフワリと砂浜に着地し、パッパと水着の裾についた煤を払った。

実に見事な大崩壊。そして、自分の放った今の空中コンビネーションを思い返し、一気に向日葵のような笑顔を咲かせた。


「わぁっ! 今の二連続のキック、めちゃくちゃ格好よく決まったじゃないかい! 空を飛ぶ燕のように鋭い蹴りからの、闇の踵落とし……。うん! これも必殺技っぽいから、『闇燕落とし』って名づけよう! えへへ、闇燕落とし! 響きが最高にラノベの主人公っぽくて格好いいねぇ!!」


私はその場でぴょんぴょん跳ねながら、新しい必殺技のネーミングに大はしゃぎでキャッキャと喜びの声を上げていた。前世のアラフィフ独身OLのオタク魂が、脳内で歓喜のダンスを踊り狂っている。


しかし、そんな私の背後からは、命を救われたルキノやクルーたちが、あまりの圧倒的なシリアス決戦の結末と、その直後に突然フリフリ水着で子供のようにはしゃぎ始めた私の姿を前に、声も出せずにガタガタと震えながら呆然と立ち尽くしていた。


「ふぅ。いい運動になったねぇ。若造の相手をするのも、たまには悪くないよ」


私は満足げに笑うと、今度こそ誰も邪魔者のいなくなった港町のビーチへ、美味しいいちごかき氷を食べに戻るべく、静かに歩き出すのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日19時40分!)

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