第49話 おもてなしの宿敵対決と、還暦ババアの限界
「おおおぉぉぉッ! ルキノ、今日が貴様の命日だァッ!」
「ジーニス……! お前との因縁、今日ここで断ち切る!」
広場の中心で、縛鎖のジーニスと不殺のルキノの剣が激しく交錯した。
互いの剣が火花を散らし、黒鉄のアジトに鋭い金属音が響き渡る。
(キタキタキターーー! これだよこれ! 『光と影、真逆の二つ名を持つ宿敵同士の激突』! さっきのジジイの一撃決着とは大違いだねぇ!)
私は大喜びで、心の中のサイリウムを左右の手に一本ずつ構え、大興奮で超高速オタ芸を披露し始めた。
ルキノが『不殺』として名を馳せる裏で、ジーニスは『縛鎖』――一度捕まえた獲物は絶対に逃がさない、尊厳ごと縛り上げるという最悪のスタイルで成り上がった男だ。昔からルキノを一方的にライバル視し、ルキノの綺麗な信念を絶望の鎖で縛り上げることに異常な執着を見せてきたという。これぞラノベのクライマックスにふさわしい、エッジの効いた重厚な人間ドラマじゃないかい。
二人の戦闘は、一進一退の攻防を繰り広げながら、果てしなく続いていく。
「なぜそこまで他者を縛る、ジーニス! 略奪と恐怖でしか己を証明できないのか!」
「綺麗事じゃ腹は膨れねえんだよルキノ! 奪い、縛り、支配する! お前のその甘い心を鎖でズタズタに引き裂くのが、俺の至上の快楽だァッ!」
ザシュッ、とお互いの服の袖が裂け、火花を散らしながら何度もバックステップで距離を取る。そしてまた重々しい台詞を吐きながら突撃していく。
(素晴らしいねぇ! お互いの信念をぶつけ合う会話のドロドロ感、満点だよ!)
……と、最初は激しくサイリウムを振り回していた私だったが。
十分が経過した。
「ルキノォ! お前のその甘さが、クルーを地獄に落としたのだ!」
「黙れジーニス! 俺は誰も殺さない、お前すらも生きて罪を償わせる!」
(うん、熱いねぇ。……まぁ、ちょっと似たようなセリフがループし始めてる気がしなくもないけれど。若造、頑張りな)
二十分が経過した。
「俺の鎖はすべてを縛る! お前の不殺の心ごとなぁ!」
「俺の双剣は鎖を断ち切るためにある! 仲間たちの未来のために!」
(……いや、長くね……?)
私はすっかり腕が疲れてしまい、心の中のサイリウムを床にそっと置いた。
二人は相変わらず激しく剣を交え、あっちへゴロゴロ、こっちへピョンピョンと泥臭く戦っているけれど、ぶっちゃけやってる動きも喋ってる内容もさっきからずーっと同じである。これ、完全にアニメなら尺稼ぎのために同じカットを使い回されてるやつだよ。
三十分が経過した。
「ハァ……ハァ……、まだ倒れねえか、ルキノ……!」
「お前を、止めるまでは、なぁ……!」
(長っ……。もう飽きちゃったよ……)
私はビーチチェア(船から持ってきた)に腰掛け、手持ち無沙汰になったので、砂浜の砂をいじって小さな砂の城を造り始めていた。お気に入りのいちごかき氷があればまだ持ち堪えられたけれど、それももう無い。定年退職後のおばあちゃんを、こんな中身の薄い泥仕合で三十分以上も拘束するんじゃないよ。退屈すぎて干からびちまう。
私が砂の城に貝殻のデコレーションを施していた、その時だった。
「――リザ! ハァ、ハァ……! そろそろ、いいか……っ!?」
激しい剣戟の最中、ルキノが必死な形相で、なぜか私の方を振り返って大声で叫んできた。
「え? 何がだい?」
「いや、だから……っ! 『もっと剣を交えながらシリアスな会話をしてしばらく戦うシーン』……っ! これくらい長く喋りながら戦えば、あんたの言う『ラノベ的』に満足してくれたか……っ!?」
「…………は?」
ルキノの言葉に、私の砂をいじる手が完全に停止した。
よく見れば、ルキノの身体はボロボロで息を切らしているように見えるが……その双剣の太刀筋は、一ミリもブレていない。逆にジーニスの方は、本当に限界を迎えて泡を吹きかけている。
その瞬間、私の脳内で、すべてのパズルがパチリと音を立てて噛み合った。
(あ、あいつ……! 本当は最初から余裕で一撃で倒せるのに、私が前のアジトで『もっとシリアスに長く戦え!』ってマジギレしたのを真に受けて、わざわざ私のために『泥仕合のファンサービス』をしてやがったねぇ!!)
なんて無駄に義理堅い男なんだ。不殺の海賊船長、まさかの最強の「忖度」能力の使い手だった。
「お、おいルキノ! 貴様、戦いの最中にどこを見ているァァァッ!」
完全に置いてけぼりにされてブチ切れたジーニスが、最後の力を振り絞って大振りの一撃を放つ。
「あぁ、もう十分だよ! ルキノくん、気を使ってくれてありがとうねぇ! 残業は終わりさ、さっさと片付けな!!」
私が砂をパッパと払いながら叫ぶと、ルキノは「了解した!」と短く応じた。次の瞬間、ルキノの雰囲気が一変する。
「ふんっ!!」
ルキノはそれまでの泥臭い動きが嘘だったかのように、神速の踏み込みでジーニスの懐へと一瞬で潜り込んだ。あまりの速さにジーニスの目が点になる。ルキノは双剣の柄で、ジーニスの左右の鎖骨の急所を、パパァンッ!と驚異的な速度で正確に打ち抜いた。
「あぶっ!?!?」
悲鳴と共に、縛鎖のジーニスは白目を剥いて地面へと垂直に崩れ落ち、ピくりとも動かなくなった。一撃、文字通り完全なる一撃ノックダウンである。
「はぁ……。最初からそうしなよ、本当に……」
私は深いため息をつき、造りかけの砂の城を足で崩した。
気絶したジーニスの懐からルキノが鍵を奪い取り、囚われていたクルーたちの鎖を次々と解いていく。
「船長……!」「ありがとうございます、船長……!」
涙を流して喜ぶ不殺の海賊団のクルーたち。それを見つめるルキノの顔には、ようやく本物の晴れやかな笑顔が浮かんでいた。
しかし、私の心の中のサイリウムは、あまりの気まずさとバカバカしさに完全に消灯していた。
宿敵との因縁の決着は、他人に気を使われて無理やり引き延ばしてもらうもんじゃないねぇ。元オタクとして、また一つ大人の階段(還暦超えだけど)を上った気分だよ。
こうして、最大規模の縛鎖のジーニスのアジトも、私のワンパン自滅とルキノの超絶忖度バトルによって、二発目の更地(平地)リフォームを完了した。
ルキノはクルーたちをパシフィカの船へと避難させると、双剣を握り直し、据わった目で私を見た。
「リザ。残るは同盟の盟主、最強の闇を持つ『常闇のレヴォス』の隠れ家だけだ。……行くぞ」
「あぁ、分かったよ。……今度は頼むから、誰も忖度しないで一瞬で倒しておくれよ?」
私の切実な願いと共に、小型船はついに、この海賊同盟の最後の本拠地へと向かって舵を切るのだった。
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(次回更新:本日23時40分!)




