第47話 真逆の二つ名を持つ宿敵と、再点火したサイリウム
私がジェニラム船長を陣形ごと『魔動拳』の一撃で遥か彼方の空へと消し飛ばした直後、砦の広場に残っていた海賊たちは、完全に戦意を喪失して顔面を蒼白にしていた。
「ひ、ひええええッ!? 化け物だァァァッ!」
「逃げろ! 巻き込まれてたまるかァッ!」
さっきまでベテランの規律で動いていたはずの海賊たちが、今度は文字通り蜘蛛の子を散らすように、一目散に四方八方へと逃げ出し始めた。あっという間に広場はガラ空きである。
そのあまりにも情けない大敗走劇に、ルキノと激しい剣戟を繰り起こしていた伝説のジジイ、ディエンが目を剥いて怒号を上げた。
「あ、おいお前ら! 逃げるな! 戻ってこい! 敵はただのガキ一人だろうがァッ!」
叫ぶジジイの背中を見つめながら、ルキノは双剣を構えたまま、ふっと冷ややかな皮肉の笑みを浮かべる。
「……ずいぶんと、お仲間から人望があるようだな? 伝説の老雄」
「若造がァァァッ!! ナメるなァッ!!」
ルキノの痛烈な皮肉にブチ切れたディエンは、大斧を振り回しながら遮二無二ルキノへと突っ込んでいった。怒りで完全に大振りの、隙だらけの突撃だ。
ルキノはその隙を冷徹に見逃さず、神速の体捌きで大斧の刃先をかわすと、すれ違いざまにディエンの懐へと滑り込み、双剣の柄をジジイの鳩尾へと正確に突き立てた。
ドガッ!!!
「がはっ……!? 馬、鹿、な……」
生ける伝説のジジイは、白目を剥いてその場にドサリと崩れ落ち、気絶した。
そのあまりにも呆気ない決着の瞬間に、私は心の中でサイリウムを掲げようとした手のまま、完全にフリーズした。
「……ありゃ? もう終わり?」
私の呆然とした声に、ルキノは深く息を吐き、双剣を収めて私を振り返った。
「よし、次のアジトへ向かおう!」
私は心の中のサイリウムを床にバァンと叩きつけながら、ガバッとルキノに詰め寄った。
「いやいやいや、ルキノくん! あんた一体何をやってくれてるんだい!?」
ルキノは私の突然の猛抗議に、怪訝そうに眉をひそめて一歩引く。
「……? 確かに、こいつは海賊のレジェンドだ。ここで息の根を止めてしまう方がいいのかも知れない。だが、俺は無駄な殺生をしない主義なんだ。不殺を誓った俺が、今ここでこいつを殺したとしても、沈められた船も、行方不明の仲間たちも帰ってくるわけではない。俺が復讐の鬼になってしまえば、俺が俺でなくなってしまうんだ……」
自分の『不殺の主義』への葛藤と、哀愁を帯びた素晴らしい大人の台詞を語るルキノ。しかし、私は頭を抱えて、盛大に地面へとズッコケていた。
「いや、そういうことじゃなくてさぁ! あんたの不殺のこだわりなんか、今どうでもいいんだよ!」
「は? え?」
「ここはラノベ的にさぁ! 『かつて海を荒らし回った伝説の老海賊』と『すべてを失った若き元船長』が、互いの意地と剣を何度も交えながら、過去の因縁とか哲学を泥臭く語り合って、しばらくの間ハラハラする一進一退のバトルを展開するシーンでしょ!? 何であっさり一撃で倒しちゃってんの!? 尺(文字数)の使い方が贅沢すぎるじゃないかい!!」
「は? え? 君は一体、何を言っているんだ……!?」
ルキノは完全に魂の抜けた顔をして、フリフリの水着の十二歳児(私)を見てガタガタと震え出した。
「はぁ……もういいよ。ガッカリだねぇ……。次のアジトへ向かおう」
私が深い溜め息をつくと、ルキノは「あ、あぁ……」と生気の抜けた返事をして、トボトボと小型船に乗り込んだ。
港を出てしばらくの間、私は船首でずっと腕を組んで不機嫌なオーラを放っていた。せっかくのラノベのハイライトを台無しにされたのだから当然である。
そんな険悪な無言の時間が流れた後、前方に第二のアジトである、先ほどより遥かに巨大な黒鉄の砦が見えてきた。
操縦桿を握るルキノが、緊張に表情を強張らせて口を開く。
「……リザ、あれが『縛鎖のジーニス』のアジトだ。情報によれば、今は同盟の防衛要請で『金剛のジャルヴァ』もそこにいるはずだ」
「ふーん……」
私がまだ拗ねたまま生返事を返すと、ルキノはすまない、と声を落とした。
「金剛のジャルヴァは、あらゆる魔法も物理攻撃も完全に無効化する筋肉の化け物だ。……情けないが、俺の双剣じゃ奴の皮膚に傷一つつけられない。ジャルヴァの相手は、リザ、あんたに任せていいか?」
「いいよぉ~」
ワンパンで沈めてやるさね、と気のない返事をする私。しかし、ルキノが次に続けた言葉に、私のオタクレーダーが最大出力で反応した。
「……その代わり、縛鎖のジーニスとは、個人的な因縁があってな。……あいつだけは、どうしても俺自身のこの手でやらせてほしい」
その瞬間、私の目がキラーンと激しく不穏な光を放った。ガバッとルキノの方へ向き直る。
「因縁の対決ってやつだね!? どんな関係なんだい!?」
「うおっ!? 急に元気になったな……」
ルキノは私の変わりっぷりに引きつつも、その瞳に暗く重苦しい、本物の宿敵を想う炎を宿して静かに語り始めた。
「俺が略奪をしても人を殺さない『不殺』として名を馳せる裏で、ジーニスは『縛鎖』――一度捕まえた獲物は絶対に逃がさない、尊厳ごと縛り上げるという、俺とは真逆の残虐なスタイルで成り上がった男だ。奴は昔から俺の主義を『反吐が出る綺麗事』と嘲笑い、一方的に執着してライバル視してきた。今回の夜襲でも、奴は俺の船を沈めながら、俺の目の前で笑いやがったんだ。『お前のその綺麗な不殺の心を鎖で縛り、絶望させてやる』とな……!」
(うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
ルキノの重々しい告白を聞いた瞬間、私の脳内で、床に投げ捨てられていたサイリウムが一瞬で拾い上げられ、激しく再点火されて超高速回転を始めた。
(これ! これだよ! 『不殺と縛鎖、真逆の二つ名と信念を持つ、光と影の宿敵同士の激突』!! 一方のジジイとは違って、こっちは正真正銘、全オタクが涙する大好物の因縁テンプレじゃないかい!! 素晴らしいよルキノくん! ババア、その一戦は絶対に邪魔しないで見守るからねぇ!)
「いいよ、その縛鎖のジーニスってやつはあんたに譲るさね! その代わり、その物理も魔法も効かないとかいう筋肉モリモリの若造と、砦の片付けは、私がサクッとリフォームしてあげるからさ!」
私が拳をバキバキと鳴らして凶悪に笑うと、ルキノは「あ、あぁ……頼む」と、またしても私の謎のハイテンションに困惑していた。
小型船は速度を上げ、ジーニスとジャルヴァの待つ巨大なアジトの桟橋へと一直線に突っ込んでいく。
不殺の男の宿命の戦いと、私の新しい必殺技が火を噴く時間が、すぐ目の前まで迫っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「ちょっと面白いかも」「続きが気になる」と思ってくださったら、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!
よろしくお願いいたします!
(次回更新:本日19時40分!)




