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第46話 ベテランたちの完璧な陣形と、サイリウムを邪魔された還暦の怒り

快速小型魔導船が断崖の孤島アジトへと近づくやいなや、私は船のスピードが落ちるのも待たずに、船首からフワリと大空へと飛び上がった。十二歳児用のフリフリの水着を風になびかせ、放物線を描いて海賊たちの本拠地である砦の広場へと着地する。


「ふぅ。やっぱり海の上をトロトロ進むより、自分の足で飛んだ方が早いねぇ」


パッパと砂を払って顔を上げると、周囲にいた海賊たちが一斉に武器を構え、唖然とした顔で私を凝視していた。


「あぁ? おい、誰だ攫ってきたガキをこんなところに放置しているやつは!」

「見張りの野郎、何サボってやがる! さっさと奴隷の檻に放り込んどけ!」


(誰が攫ってきたガキだい、失礼な若造どもだねぇ。こちとら自分の足でカチコミにきた名誉大公ぞ)


私がスン……と冷え切った目で彼らを見つめていると、ほどなくして港に船をつけたルキノが、凄まじい復讐のオーラを纏いながら遅れて広場へと到着した。

男の姿を捉えた瞬間、奥の司令部から現れた二人の男の顔色が変わる。


「……ルキノ・ニアトパック。生きていたか」

「不殺のルキノか! 総員、陣形を整えろ! 奴を侮るな!」


号令をかけたのは、元海兵の『断罪のジェニラム』と、海賊歴四十年の『老雄のディエン』。

さすがはルキノの強さを知るベテラン海賊たちだ。彼らの指示が一歩飛ぶや否や、騒然としていた何百人もの海賊たちが驚異的な速度で一気に陣形を整え始めた。


その布陣の見事さに、私の脳内オタクレーダーがピクリと反応する。

元海兵のジェニラムの軍勢は、まるで教科書のように一糸乱れぬ規則正しい正方形の盾の壁を形成している。対して、伝説のジジイ・ディエンの軍勢は、一見するとバラバラで隙だらけに見えるが、前世で空手を極めた私の目から見れば、どこから攻めても即座に死角から囲まれる極めて合理的で老獪な配置だった。


(うわぁ、凄いねぇ! 『軍隊式のガチガチの規律陣形』と『百戦錬磨のジジイが編み出した実戦特化の変則陣形』の同時展開! ラノベの中盤の壁としてこれ以上ない格好いい演出じゃないかい!)


心の中で感心しつつも、私は目の前で「ガキは引っ込んでろ!」と剣を突き出してきた一番近くの海賊の胸当てに、挨拶代わりに正拳突きを軽く突き出した。


ドガァァァァァンッ!!!!


「ぶふぇっ!?」

男の肉体は衝撃波を置き去りにして遥か彼方の防壁へと吹き飛び、レンガの壁を粉砕して一撃で失神した。それを見た周囲の海賊たちが一斉に悲鳴を上げる。


「ちょっとちょっと、あんたたちの相手は私だよ。大人の話し合いの前に、まずは周りのゴミ掃除といこうかねぇ」


私が拳をバキバキと鳴らしたものの、ジェニラムとディエンの二人は、この突如現れた第二の勢力(私)を見ても一切動じなかった。実に見事な戦術眼だ。ディエンは隣のジェニラムに鋭い視線を送る。


「ジェニラム、その妙なガキは貴殿に任せる。私はルキノの首を獲る!」

「承知した。我が断罪の陣形を以て、一瞬で圧殺してくれるわ!」


ディエンはすぐさま、獲物の大斧を構えてルキノに向かって一気に突撃を開始した。


「まだ生きていたか、ルキノ! そのまま海の底で静かに逃げ延びていればいいものを、わざわざ殺されに戻ってくるとはな!」


大斧の強烈な一撃を、ルキノは悲壮な覚悟を込めた双剣で受け止める。


キィィィィィンッ!!!!


「貴様らを海に沈めるまで、俺はまだ死ねないんだよ、ディエン!! 俺のクルーたちの無念、その命で償ってもらうぞ!」


激しい火花が散り、二人の間で重厚なシリアスな会話とお互いの必死の攻撃が交錯し始める。


(キタキタキターーー! 『すべてを失った男の復讐戦と、それを迎え撃つ生ける伝説の老海賊』! 互いの意地と信念がぶつかり合う、これぞダークファンタジーの最高に熱いシーンじゃないかい!!)


私は大興奮で、心の中のサイリウムを全力で用意し、特等席での観劇モードに入ろうとした――その瞬間。


「我が陣形の前に塵と消えよ! 突撃ッ!!」


カシャカシャと鉄の音を鳴らしながら、ジェニラム率いる規則正しい重装歩兵の壁が、空気も読まずに私の視界を遮るように突っ込んできたのだ。せっかくのルキノの感動的な復讐劇が、彼らの分厚い盾のせいで全く見えなくなってしまう。


プチ、と。私の脳内で、本日何度目か分からない堪忍袋の緒が切れる音がした。

瞳の奥に、絶対的な「闇」の炎が据わった目で灯る。


「……おい、若造ども」


私は一歩前に踏み込み、右の拳にありったけの闇魔力を圧縮した。


「今、いいシーンなんだよ! ラノベの一番盛り上がるハイライトを、その分厚い板切れ(盾)で邪魔するんじゃないよォォォォッ!!」


怒りのままに放たれた、全力の『魔動拳』。


ドッパァァァァァァァンッ!!!!


私の拳から放たれた漆黒の巨大な魔力波動は、ジェニラムたちが誇る「規則正しい完璧な陣形」を、正面から盾ごと、鎧ごと、文字通り消しゴムで消すかのように一瞬で巻き込んで爆発四散させた。

規律だの断罪だのを叫んでいたジェニラム中尉……じゃなくてジェニラム船長も含め、何百人もの海賊たちがまとめて一撃で遥か彼方の空へと吹き飛び、星となって消えていく。


「な……ッ!? 我が、我が断罪の陣形が一瞬で……!? ば、化け物かァァァッ!?」


遥か上空から聞こえるジェニラムの悲鳴を聞き流しながら、私はパッパと手を振り、再びルキノたちの戦いへと視線を戻した。


「ふぅ、全くお行儀の悪い泥棒たちだねぇ。さあ、ルキノくん、お待たせ。邪魔者は片付けたから、心置きなくそのジジイと続きをやりな!」


そう言って、私は再び心の中でサイリウムを構え直すのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日17時40分!)

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