第44話 不殺を誓った男の告白と、海賊同盟の包囲網
「またその恥ずかしい名前かい。若造、私はただの通りすがりの、防犯意識がちょっと高めの十二歳(中身還暦超え)だよ。……で、あんたは誰だい?」
男は私のトボけた態度に怯むことなく、砂浜に片膝をつき、己の胸に手を当てて静かに名乗った。
「俺の名前はルキノ・ニアトパック。世間からは『不殺のルキノ』と呼ばれている。積み荷は奪っても無駄な殺生はしない主義でね……これでも、不殺の海賊団を率いていた元海賊船長だ」
(おぉ……! 『不殺の海賊』! 悪党の中の善玉、ラノベのビターな章で必ず一人は出てくる、主人公の味方になるタイプの王道テンプレキャラじゃないかい!)
心の中でサイリウムを振りかける私だったが、ルキノの瞳に宿る暗い炎を見て、すぐに真剣な目へと戻した。
「そんな元船長さんが、どうしてそんなボロボロの姿で砂浜に転がってるんだい?」
「……先月の騒ぎで2大軍隊が消え、海が荒れた。その結果、小悪党どもが徒党を組み……『海賊同盟』を組みやがったんだ」
ルキノは悔しさに砂を強く握りしめる。
「だが、略奪と殺戮を繰り返すあいつらの血生臭い主義と、俺の不殺の主義が合うはずもなかった。同盟への参加を断ったら……夜襲を仕掛けられ、俺の船は沈められた。家族同然だったクルーたちも、今じゃ全員が行方不明だ……!」
「なるほどねぇ。そりゃあ、恨み骨髄ってやつかい」
「ああ、あいつらを絶対に許さない。……『黒い天災』、あんたほどの英雄なら、あの理不尽な悪党どもがこの海で暴れ回るのは面白くないだろう? 俺が奴らのアジトの場所、そして内情の情報をすべて売る。だから、俺の復讐を手伝ってくれ……!」
血の滲むようなルキノの嘆願。
しかし、前世を含めて還暦を超えた独身OLの私は、そう簡単には乗せられない。ふぅ、と冷たいいちごかき氷を一口食べて頭をキーンとさせながら、冷徹な大人の目でルキノを見据えた。
「英雄だなんておだてても、タダじゃ動かないよ? お役所の凸凹コンビがアジトすら掴めてないって言うから困ってたんだ。情報があるなら助かるけどさ……。その海賊同盟ってやつ、全部でどれくらいの規模なんだい?」
私の問いに、ルキノは待ってましたとばかりに、同盟を揺るがすトップたちの詳細を語り始めた。
「同盟を組んだのは、全部で6つの海賊団だ。……元海兵で規律に異常に厳しい『断罪のジェニラム』。海賊歴四十年、海の戦い方を知り尽くした生ける伝説のジジイ『老雄のディエン』。あらゆる魔法も物理も無効化する絶対防御の筋肉巨漢『金剛のジャルヴァ』。そして、同盟内で最大規模の戦力を持ち、捕縛の『ジーニス』。最後が、同盟の盟主にして闇属性最強の男――『常闇のレヴォス』だ」
ルキノが語る海賊たちの名前に、私の脳内オタクレーダーが激しく反応を始める。
(うわぁぁぁ! 元軍人、レジェンドのジジイ、絶対防御の脳筋、最大規模の外道……! なにその少年漫画の幹部たちみたいな、完璧すぎる悪の同盟のテンプレ布陣は! しかも最後の『常闇のレヴォス』ってやつ、名前からして中二病の匂いがプンプンするよ!)
「……あぁ、それと」
ルキノはふと思い出したように、海の向こうの静まり返った更地を見つめた。
「もう一つ、切り込み隊長として暴れていた『閃光のラクパス・クロエリフ』の船団があったんだが……。やつは、さっきあんたが一撃で跡形もなく海に沈めたから、残りは5つだな」
「あ、あの軍服着てた格好いいコートの男、ラクパスって名前だったんだ。名乗る前に消しちゃって悪かったねぇ」
私はパッパと手を振った。これであの海賊同盟とやらの全容が、一気に私の頭の中にインプットされた。
「……話は分かったよ、不殺のルキノ。その『復讐の商談』、還暦のババアが乗ってあげようじゃないかい」
私はスプーンをかき氷のカップに突き刺し、フリフリの水着を翻してビーチチェアから立ち上がった。
私は首の骨をボキボキと鳴らし、不敵に笑ってルキノを見下ろした。
「よし!とりあえず、一番近いところから案内しな!居残りでダラダラ残業するのは大嫌いなんだ、今日中に全部まとめて片付けるよ!」
「き、今日中に……!?冗談だろう……」
ルキノが呆然と呟く中、私の突き抜けた強行スケジュールと共に、海賊同盟を滅ぼすための商談がここに成立した。
人の平和なバカンスを二度も邪魔した大悪党どもめ。私の新しい必殺技『魔動拳』のフルコースで、その自慢の同盟ごと、海の藻屑にしてあげるからねぇ!
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(次回更新:明日19時40分!)




