↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/80

第39話 新しい二つ名と、更地の向こうの魔導元帥

「……あ、しまった! テンプレの最高の決着シーン、自分の『魔動拳』に夢中になって見逃しちゃったよ!!」


私はその場にガーン、とショックで膝をついた。

せっかくのラノベのハイライト、一番いいところを見られないなんて、元オタクとして一生の不覚である。


「はぁ、はぁ……。リザ、殿……」


私の背後で、魔法剣を杖代わりにしながら、息を切らしたエイン少尉がベンダー中佐の元へと歩み寄っていた。気絶した中佐の胸元からは規則正しい鼓動が聞こえる。峰打ちで上手に気絶させたらしい。


さらにそこへ、リザの『魔動拳』の乱射による衝撃の余波で、閉じ込められていた檻が都合よく大破したのだろう。拘束の解けた綺麗な金髪の女の子――キャプティ王女が、トコトコと砂浜を駆けてエイン少尉の元へと合流した。


「エイン! 無事だったのですね……!」

「はい、キャプティ殿下……。僕の力ではありません。全ては、彼女のおかげです」


エイン少尉は、ショックのあまり地面に四つん這いになっているフリフリ水着姿の私を振り返った。


そして、その瞳に深い尊敬と、神聖なものを見るような畏怖の念を浮かべ、倒れた中佐や王女殿下に告げるように、厳かに言葉を紡いだ。


「中佐……我がパシフィカ王国は滅びません。彼女こそ、世界を震撼させた『黒い天災』のリザ・ウェカム。そして……絶望の淵から我が国を救い、悪を討つ――『パシフィカの戦女神』ですよ!」


「…………え?」


地面に手をついた姿勢のまま、私の時が本日二度目の完全停止を迎えた。


(い、戦女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?)


ちょっと待って。何その『黒い天災』を遥かに上回る、聞いてるこっちの三半規管が狂いそうな超絶小恥ずかしい中二病二つ名は。


十二歳児のフリフリ水着を着て、自分のバカンスを邪魔された私怨だけで大暴れした還暦ババアを、女神とか呼ぶんじゃないよ! 恥ずかしさで前世の記憶ごと消し飛びそうだよ!


「いや、やめておくれよ! 何が戦女神だい! 私はただの通りすがりの、防犯意識がちょっと高い十二歳(中身還暦)だよ!!」


私は顔を真っ赤にして猛抗議しながら、ジタバタと砂浜で悶絶した。


しかし、そんな私の必死の拒絶を見たキャプティ王女は、その美しい瞳をさらにウルウルと輝かせ、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。


「なんと……あれほどの神の如き武力を持ちながら、己の功績を一切誇ろうとしないなんて……。なんて謙虚で、気高い戦女神様なのでしょう……!」


「ええ。やはり本物の『最強』とは、名誉など求めていないのですね」


エイン少尉までが、深く感じ入ったように何度もコクコクと頷いている。


(あぁ、駄目だ。この若造たち、完全に目がスピリチュアルなことになってるよ。ラノベの『主人公の行動がすべて良い方向に勘違いされるテンプレ』だけどさぁ、当事者になると精神的ダメージ(羞恥心)がデカすぎるよぉ……!)


ひとしきり心の中で悶絶した後、私ははぁはぁと息を切らしながら立ち上がり、周囲を見渡した。


ガレリア海洋帝国が誇っていた無敵の軍港は、私の『魔動券』の乱射によって、文字通り何もない綺麗な平地(更地)へとリフォームされている。


「まぁ、これで私のバカンスを邪魔する悪い国のお仕置きは終わったかねぇ。……ん?」


その時だった。

綺麗さっぱり更地になった軍港の、瓦礫の山となった奥深くから、突如として大気がビリビリと細かく震え始めた。


肌に突き刺さるような、これまで戦ってきた雑魚兵士たちとは明らかに次元の違う、圧倒的な魔力の波動。


「くっ……! 何だ、この悍ましいプレッシャーは……っ!?」

エイン少尉が瞬時に魔法剣を構え直し、キャプティ王女を背後に庇う。


立ち込める激しい黒煙を内側から吹き飛ばすようにして、一人の男がゆっくりと姿を現した。

豪奢な魔導衣を身に纏い、その周囲には空間を歪ませるほどの莫大な魔力の炎が燃え盛っている。


ガレリア海洋帝国最強の魔導士――エストゥス・グラドミル魔導元帥。


自慢の無敵の艦隊と、絶対の防衛線を誇る軍港を一瞬にして消し飛ばされ、完璧だった冷徹な余裕を完全に失ったその顔には、鬼のような形相が浮かんでいた。


エストゥス元帥は、地を這うような極限の殺意を放ちながら、私たちを、特に私をその据わった目で睨みつける。


「……よくもやってくれたな、パシフィカの家畜どもが……ッ!!」


軍港の底から響くようなその怒号に、エイン少尉と王女は息を呑んで戦慄する。

しかし、そんな大物の登場を前に、私の脳内ではまた別の血が騒ぎ始めていた。


(お、キタキタキター! ようやくラスボス(大物)のお出ましだねぇ! 激怒する最強の魔導元帥、ラノベの章末を飾るにふさわしい最高のシチュエーションじゃないかい!)


私は中二病の二つ名からようやく意識を切り替え、冷徹な大人の瞳で拳を構え直した。

どうやら、私のバカンス(更地リフォーム)は、まだもう少しだけ続きそうである。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「ちょっと面白いかも」「続きが気になる」と思ってくださったら、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

よろしくお願いいたします!

(次回更新:本日23時40分!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。