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第37話 不器用な男の覚悟と、軍港からの手厚い歓迎

ガレリア海洋帝国の本拠地を目指し、パシフィカ軍の快速小型魔導船は爆速で海原を駆けていた。


リザは船首に立ち、十二歳児の水着に潮風を浴びながら、遥か前方の水平線をじっと見つめている。背後では、魔法剣士の男の子――エイン少尉が神妙な面持ちで操縦桿を握っていた。


沈黙が流れる船内。やがて、エイン少尉が堰を切ったように、ぽつりぽつりと裏切り者のベンダー中佐について語り始めてきた。


「……ベンダー中佐は、かつて魔獣の襲撃から命懸けで僕を救ってくれた人なんです。国を憎んでいたわけじゃない。きっと、ガレリア帝国の圧倒的な武力を前に『パシフィカが生き残るにはこれしかない』と、一人で泥を被る覚悟を決めたんだと思います。でも……僕は……!」


悔しさに声を震わせる少尉。

それを聞いた私は、なるほどねぇ、と内心で深く頷いていた。


(部下にここまで慕われるだけの器はあったわけだ。自分が大罪人になって歴史に泥を残してでも、民や部下(あんた)を生き残らせるために敵へ恭順した、彼なりの悲壮な現実主義ってやつかい。前世でも会社のために理不尽な泥を被る頑固な上司はいたけれど、残された側、特にこのエインくんみたいな真っ直ぐな若造の心を傷つけた罪は重いよ。前世を含めて還暦を超えた独身女の目から見れば、ただの独りよがりな不器用親父だねぇ)


男のロマンか覚悟かは知らないけれど、勝手に自己完結して若い芽を潰そうとするのは、年長者として見ていて気分の良いものじゃない。


私はフッと笑うと、操縦桿を握るエイン少尉を振り返った。


「あんたの気持ちはよく分かったよ。だったらさ、直接行ってその拳で本音をブチのめしてきな。ババアがその話し合いの舞台を作ってあげるからさ」


「え……?」

驚くエイン少尉を余所に、船はついにガレリア海洋帝国の絶対防衛圏へと突入した。


前方にそびえ立つのは、海を覆い尽くさんばかりの黒鉄の巨大軍港。

港を囲む強固な防壁には、先ほど旗艦で見たものより遥かに巨大な『迎撃用・要塞魔導砲台』が、何十基も不気味に砲口を並べてこちらを睨んでいる。


私たちの小型船を発見した瞬間、帝国軍は容赦のない一斉射撃を開始した。

海面が激しく割れるほどの無数の極大熱線が、集中豪雨のように私たちの小さな船目掛けて一挙に降り注ぐ。


「くっ、あの数の魔導砲撃は、躱しきれない……! ここまでか……!」


エイン少尉が絶望に顔を歪める。


「まったく、派手な手厚い歓迎だねぇ。――これなら、お返しもこれくらい派手で丁度いいかい!」


私はフリフリの水着の裾を翻し、船首の一番端へと一歩踏み出した。


腰を深く落とし、右の拳を引く。その拳に、かつてトロシカ聖皇国を文字通り綺麗に更地にした時と同等の、超高密度の闇魔力を極限まで収束、圧縮していく。私の小さな拳の周囲で、空間が歪むほどの漆黒の魔力粒子がバチバチと荒れ狂った。


「そこを退きなっ!!」


迫り来る無数の魔導砲撃の真っ芯目掛けて、私は空手の基本――渾身の『正拳突き』を虚空へと放った。


ドォッ!!!!


拳そのものは空を切った。しかし次の瞬間、私の拳から放たれたのは、物質化せんばかりに凝縮された『漆黒の魔力の塊』だった。


波動となって放たれた巨大な黒い魔力弾は、空気の壁を爆音と共に破壊しながら弾丸のごとき速度で直進。迫り来る魔導砲の熱線を、正面からすべて力業で押し包み、呑み込み、逆流させていく。


「なっ……魔力そのものが、光線を押し返して……!?」


操縦席からエイン少尉の驚愕の悲鳴が聞こえる。

私の放った黒い波動は、光線を全て巻き込みながら何倍もの質量となって要塞の砲台群へと直撃した。


ドゴォォォォォン!!!!


自分たちが放った大火力を何倍にもされて浴びた防壁の砲台群が、連鎖爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んでいく。黒煙が天を突き、帝国の無敵を誇る迎撃システムが、私の正拳突き一発で文字通り半分消し飛んだ。


ガラ空きになった軍港のド真ん中へ、私たちの小型船は減速することなく堂々と突っ込んでいく。


ズガガガガガッ!!!


港の桟橋へと強引に乗り上げ、激しい衝撃と共に強行上陸を果たした。立ち込める煙の向こう。


そこには、完璧だったはずの防衛線が一瞬で崩壊して唖然と突っ立っている大量のガレリア兵たち。そして、その奥の司令部からこちらを睨みつける、ガレリア最強の魔導元帥エストゥス。


そして――パシフィカを裏切り、キャプティ王女を連れてそこに佇むベンダー中佐の姿を、私はその目で確かに捉えた。


「さて、若造ども」


私は小型船の船首から砂浜へと飛び降り、拳をバキバキと鳴らしながら、据わった目を彼らへと向けた。


「リフォーム業者の登場だよ。あんたたちの自慢の家(軍港)、綺麗さっぱり更地にしてやろうかねぇ!」

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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(次回更新:明日19時40分!)

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