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第36話 恥ずかしすぎる二つ名と、逆侵攻の羅針盤

「私はリザ・ウェカム。中身は還暦を超えているだけの、ただの十二歳の子供だよ」


ボロボロになりながらも立ち上がった魔法剣士の男の子――エイン少尉に向かって、私は努めて平然と、ありのままの事実を告げた。まあ、中身が還暦ババアだという点については、どうせ信じてもらえないだろうけどね。


しかし私の自己紹介を聞いた瞬間、エイン少尉は弾かれたように目を見開いてハッとした。


「その黒い髪、十二歳、リザ・ウェカム……。君は、君はまさか、あのヴァルハイト帝国軍を単身で退け、世界の脅威と恐れられた『終焉の凶刃』を討伐したという――あの『黒い天災』なのか……!?」


「…………え?」


その瞬間、私の時が静かに止まった。


(く、くろ、黒い、てんさいぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?)


ちょっと待って。何その中二病全開の、聞いてるこっちの耳が火を噴きそうな小恥ずかしい二つ名は。

ヴァルハイト帝国だの終焉の凶刃だのを、ちょっとバイト感覚(ワンパン無双)で更地にしただけなのに、世間ではいつの間にそんな禍々しい名前で呼ばれていたんだい。


「嘘……私の二つ名、ダサ……ッ!!」


あまりの羞恥心に襲われ、私は頭を抱えて甲板の上でゴロゴロと転がりそうになるのを必死に耐えた。恥ずかしいったらありゃしないよ。前世のアラフィフ主婦の精神が、あまりの痛々しさに限界を迎えて悲鳴を上げている。


……しかし、悶絶しかけていた私の脳裏に、ふと前世のオタク知識が囁きかけてきた。


(あ、でも待って……? これって、ラノベの主人公っぽくて、一周回ってめちゃくちゃ格好いいんじゃないかい……?)


そうだよ。無双系ラノベの主人公といえば、世間から畏怖される最強の二つ名がセットなのがお約束だ。元ラノベオタクとしては、むしろこのノルマを達成できたことを喜ぶべきじゃないか


私はすぐに立ち直ると、少しだけ顔を赤らめ、鼻をふんふんと高く引くひくさせながら胸を張った。


「ふん、まあねぇ。気付くのが遅いよ若造。そうさ、私がその『黒い天災』だよ」


自分で言っててちょっと背中が痒いけれど、言ってみたかったんだよね、こういうセリフ!


私の肯定を聞いた瞬間、エイン少尉を含めた生き残りの王国兵たちが「おおぉ……っ!」と、まるで伝説の救世主を見るような目で一斉にどよめいた。うん、実に気分が良いねぇ。


するとエイン少尉は、痛む身体を押さえながら深々と頭を下げてきた。


「私はパシフィカ海軍のエイン・ネイシール少尉です。この度は我が国の危機をお救いいただき、本当にありがとうございました。……ですが……」


エイン少尉は、ガタガタに壊れて血の海となった甲板と、遥か沖合の惨状を見渡して、その表情を暗く曇らせた。


「ご覧の通り、我がパシフィカ軍の艦隊はほぼ壊滅です。再びガレリア軍の本隊に攻め込まれたら、我が国はひとたまりもありません。それに……キャプティ殿下もあの裏切り者に攫われてしまいました。この国はもう、絶望的な状況に置かれています……」


「ふーん……」


私は少尉の視線を追って周囲の海を見渡した。

確かに、浮いている王国の船はもう片手で数えるほどしかない。ラノベの展開なら、ここから泥泥の亡国ルートに突入する暗いシチュエーションだ。


だが、私の目は、旗艦のすぐ脇に無傷で係留されていた、一隻の小さな船を捉えていた。魔力で駆動する、パシフィカ軍の快速小型魔導船だ。


私はその船を指差し、不敵な笑みを浮かべて少尉を振り返った。


「ねぇ、エインくん。あのちっこい船、動かせるかい?」


「え? あ、はい、小型の魔導船なら私一人でも操縦できますが……一体、どうされるおつもりですか?」


怪訝そうな顔をするエイン少尉に向かって、私は首の骨をボキボキと鳴らし、据わった目を海の向こうの水平線へと向けた。


「決まってるじゃないかい。人の貴重なバカンスを邪魔してくれた、その悪い国の軍港をさ」


私は拳をグッと握り込み、ニヤリと凶悪に笑ってみせる。


「特大の防犯活動(更地リフォーム)にしてやろうと思ってねぇ」


「……っ!!」


私の言葉を聞いたエイン少尉の目に、驚愕と、そして微かな希望の光が宿る。

目の前にいるのは、世界のパワーバランスを一人で引っ繰り返した『黒い天災』だ。この理不尽なまでの最強なら、この絶望的な戦況すら、本当に更地(平地)に変えてくれるかもしれない。


「分かりました。ガレリア海洋帝国の本拠地まで、私が案内します!」


絶望に暮れていた若き魔法剣士の少尉が、ついに前を向いて舵を取る決意をした。待ってろよガレリア帝国。人の夏休みを台無しにした代償、その国丸ごと消し飛ばして精算させてあげるからねぇ!

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日19時40分!)

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