↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/80

第32話 聖女の一目惚れと、現実逃避の王子様

ゴウゴウと舞い上がっていた凄まじい土煙が夜風に流され、静かに視界が開けていく。

かつて歴史と壮麗さを誇ったはずの、トロシカ聖皇国最高の神聖な場所を見渡し、国の最後の希望であるはずのラヴル殿下は、頭を抱えて引きつった笑いを漏らした。


「ハ、ハハ……。聖地が、国宝である大聖殿が……跡形もなく綺麗に消え去って、ただの広い空き地になっている……ハハハ……」


「殿下、現実逃避している場合ではありません! プリシラが!」

サースが壊れかけた王子様の肩を揺さぶって叫ぶ。


玉座ごと教皇デクトルを音速の彼方へ吹き飛ばしたことで、婚姻の魔法は完全に解除されていた。

上空で虚ろな目をしていた十四歳のプリシラちゃんが、フワフワとゆっくり地上へ降りてくる。サースは「プリシラ!」と叫んで駆け寄ると、愛しい妹の身体をその腕でしっかりと抱きしめた。


サースの温かい腕の中で、プリシラちゃんがパチパチと大きな、純粋な光属性のまばゆい瞳を開いた。


「……お兄ちゃん……? 私、今まで一体……」

「よかった……本当に無事だったんだな、プリシラ……!」


サースの目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。

その、白亜の更地の上で月光に美しく照らされた聖女プリシラの、あまりの神聖な美しさと儚さに――隣にいたラヴル殿下はドクンと激しく胸を高鳴らせ、思わず息を呑んだ。


(……あ、美しい……。なんて、なんて綺麗な人なんだ……!)


あまりの衝撃に頬を瞬時に真っ赤に染め上げ、ラヴル殿下は完全にその場でピキッと固まってしまう。さっきまで国一番の魔法剣士として戦っていた男が、一瞬でただの純情なウブ少年に成り下がった瞬間だった。


それを見たサースが、怪訝そうに声をかける。

「何をボサッとしてるんですか殿下。プリシラの身体を安全な場所へ運ぶのを手伝――」


「プ、プリシラ嬢ぉぉぉぉぉっっっ!!!!」


「ぶふぇっ!?」


突然、ラヴル殿下が鼓膜をぶち破らんばかりの大音量で叫びながら、サースのセリフを強引に遮ってプリシラの前にドガァァン! と勢いよく膝を突いた。あまりの剣幕と勢いに、サースは変な声を上げて飛び退く。


ラヴル殿下は戸惑うプリシラの手をギュッと両手で力強く握りしめると、まるで壊れた蛇口のように、熱烈でノンストップな求婚の言葉を次々と溢れ出させた。


「俺はトロシカ聖皇国の王位継承者、ラヴル・フォン・トロシカだ! あなたがデクトルに囚われてから、俺はあなたのことばかり考えて夜も眠れなかった! 今日、こうしてあなたの澄んだ瞳を見て完全に確信した……俺の命も、この国の未来も、すべてあなたのために捧げたい! 俺の妃になってくれ!!」


「ええっ!? えっ、あ、あの……お、王子様……っ!?」


助かった直後に見ず知らずのイケメン王子から超直球のプロポーズをされ、プリシラちゃんは顔をリンゴのように真っ赤にして完全なパニックに陥る。

そして、ここで一番ブチ切れたのは当然、その横にいた重度のシスコンのお兄ちゃんだった。


「待てやぁぁぁ殿下ァァァッッッ!!! 洗脳が解けたと思ったら脳みそが腐ったのか!? 助けてもらった直後の高熱の妹になんて不埒な口説き文句を吐いてやがる! 離せ! その汚い手を今すぐプリシラから離しやがれ!!」


「うるさいサース! これは国家の未来を見据えた、俺の本気の、一世一代の恋なんだ!! 邪魔をするな!」


「うるさいのはお前だ! そんなに泥水をすすりたいのか! 王位継承権を今すぐ剥奪されたいのか貴様ァァァ!!」


さっきまで命懸けの重厚なシリアス劇を展開していたはずの男二人が、綺麗に広がる更地のド真ん中で、それはそれは無様で醜い取っ組み合いの喧嘩を始めた。


白目を剥いて倒れている元教皇デクトルやドニム聖導師が、正気を取り戻した神殿騎士たちにゴミ袋のようにズルズルと連行されていく中、私はその大騒ぎを少し離れた場所からサバサバと眺めていた。


手元に残ったカバンの中から、ガルドに貰ったリンゴの最後の一つを取り出す。

月光の下、シャキッと美味しそうに一口齧った。瑞々しい甘酸っぱい果汁が、戦い終わった十二歳の身体にじんわりと染み渡る。


「あぁ〜……。美味いねぇ……」


私はリンゴをモグモグさせながら、遠くで犬のようにもみ合っている男たちを見て、目を細めた。

「それにしても、若いってのは本当にいいねぇ。見てるこっちがちょっと恥ずかしくなっちゃうよ、本当に」


中身が還暦超えのベテランおばあちゃんである私にとって、王子のガチ告白もシスコンお兄ちゃんの激怒も、ただの「微笑ましいひ孫たちのじゃれ合い」にしか見えなかった。


「さてと。邪魔者の一味は綺麗に消えたし、あの子たちも当分は退屈しなさそうだね。おばちゃんは、夜が明ける前にさっさと我が家に帰ろうかねぇ」


ギャーギャー、ワーワーと更地に響き渡るサースたちの騒がしい声を背中で聞きながら、十二歳児の姿をした還暦おばあちゃんは、リンゴを片手にトコトコと夜の向こうへ歩き出していく。


聖地を跡形もなく綺麗な更地にし、一人の少女の不条理な未来と、トチ狂った王子の恋を救い出したリザの背中は、相変わらずどこまでもマイペースそのものだった。


(第三章完)

これにて第三章完了です!

第四章は明日から公開します!

「第三章も面白かった」「第四章も楽しみ」と思ってくださったら、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日19時40分!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。