第31話 魔法拳闘の教皇と、挨拶がわりの裏拳
頑固な騎士団長のお煎餅ガードを粉砕した私たちは、ついにトロシカ聖皇国の最奥――神聖なる大聖殿の本殿へと突入した。
広大な部屋の奥には、まばゆい輝きを放つ古代の『光の大聖霊の遺物』が鎮座している。その遺物を背に、冷然と玉座に佇む人物こそが、現教皇デクトル。
その傍らには、転移魔法で先回りしていたドニム聖導師が控えており、中央の宙には、未だ虚ろな目をした十四歳のプリシラちゃんが魔法の光でフワフワと浮かせられていた。
「デクトル! 貴様の独裁もここまでだ! 聖女を解放し、今すぐその座を降伏せよ!」
ラヴル殿下が、洗脳から覚めた気高い声で叫んだ。
しかし、教皇デクトルは静かに首を振るだけで、その悲しげな、しかし凍りつくほど冷徹な視線をラヴル殿下へと向けた。
「……融和などという甘い言葉が、歴史上どれだけの争いを生んできたか、お前も知っているはずだ、ラヴル。光と闇が並び立てば、必ず次の戦争が起きる。ならば、不条理な闇の属性など、最初からこの国には必要ないのだ」
デクトルは淡々と言葉を紡ぎ、その歪んだ光の正義を語る。
「純粋な光の民だけで手を取り合う……それこそが、この国に永遠の平穏をもたらす唯一の道なのだよ」
「お前の言うくだらない平穏のために、子供たちの命を、プリシラの未来を奪うというのか!」
サースお兄さんが怒りに震えながら叫ぶ。
「……すべては、この国の未来のためだ。言葉で分からぬというのなら、我が拳をもって、その曇った目を覚まさせてやろう」
デクトルがゆっくりと立ち上がり、背後の遺物から膨大な光の魔力を一気に吸い上げた。すると、彼の両拳を包み込むように、眩い光の籠手がバキバキと音を立てて形作られていく。なんとこの生臭教皇、魔法を拳に纏って戦うガチの『魔法拳闘士』だったのだ。
戦闘開始の合図。横にいたドニムが、勝ち誇った顔で前に出ようとする。
「教皇聖下、この闇の小娘は私が――」
「あんたはすっこんでな、生臭坊主!」
――ドゴォォォォォォォン!!!!!
「ぶふぇっ!?」
ドニムが言葉を言い切るより早く、私はすでに怒り心頭のトップスピードで突撃していた。移動した瞬間の凄まじい風圧だけでドニムの横をすり抜けざま、挨拶がわりにと放った『裏拳』の一閃。
最大級 of 最大級の聖導師だったはずのドニムは、私の拳に掠っただけで大聖殿の分厚い大理石の壁を何枚もぶち抜きながら遥か彼方へと吹っ飛んでいき、一瞬で完全な戦闘不能になった。
「な……ッ!?」
デクトルが驚愕に目を見開くが、流石は拳闘士。すぐさま光の魔力を爆発させ、私に向かって猛烈なインファイトを仕掛けてきた。
ドカン! ズドン! ドゴォン!
光の籠手から放たれるデクトルの拳は、かすっただけでも大聖殿の頑丈な石床が爆破されて消し飛ぶほどの凄まじい威力だ。
しかし、中身がアラフィフに12年を足した「還暦超え」のガチ空手女子である私。前世の道場で何万回、何百万回と繰り返した「見切り」と「受け流し」の型が、私の肉体(黒属性チート)のスペックによって完全無欠の領域で駆動していた。
私はサバサバとした無表情のまま、デクトルの神速の連打を、ミリ単位の最小限の動きだけですべて回避し、あるいは前腕でフッと軽くいなしていく。
「へぇ、魔力の乗せ方は大したもんだねぇ、教皇さん。でもね……全体的に大振りが多すぎるんだよ。そんな頭に血が上った雑な拳じゃ、前世の近所にいたガキ大将の喧嘩と何も変わらないよ!」
「くっ……! この、悪魔の申し子が……っ!」
どれだけ拳を繰り出しても、12歳の清楚な美少女にただの一発もかすりもしない。その圧倒的な現実の前に、教皇デクトルの心に明確な焦りの色が浮かび始めていた。
「バカな、私の魔法拳をすべて見切っているだと……!? 貴様、一体何者だ!?」
焦燥に駆られたデクトルが、大振りの右ストレートを放ちながら絶叫する。私はその拳を紙一重でかわすと、12歳の清楚な美少女の顔のまま、ドスの利いた静かなトーンで言い放った。
「ただの、説教くさいおばあちゃんだよ。……その歪んだ脳みそ、一から叩き直してあげるよ!」
私の両手足に、世界そのものを丸ごと呑み込むような、底知れない漆黒の闇属性魔力が集束していく。
これこそ、傲慢な教皇デクトルのために取っておいた私の最高武技――『漆黒連撃』。
ドンッッ!!!!
私が地面を踏み抜いた瞬間、大気が爆発した。音速を超えた突進で、一瞬にしてデクトルの懐へと潜り込む!
ワン! ――順手による、漆黒の鋭い左正拳突き。デクトルが咄嗟に掲げた絶対防御であるはずの「光の籠手」が、パキィィィン! とまるでガラス細工のように一撃で粉砕された。
「なっ――」
ツー! ――流れるように放たれた、右の逆突き。デクトルの腹部に深く突き刺さった私の拳は、彼が神聖な遺物から溜め込んでいた膨大な光の魔力を、その内側から完全に爆破・霧散させた。体内の全魔力を無理やりパージされ、衝撃でデクトルの目が白くなりかける。
スリー! ――魔力を完全に失い、驚愕に目を見開くデクトルの無防備な顎へ、私のしなやかな右のハイキック(回し蹴り)が完璧な角度で炸裂した!
――ドガァァァァァァァン!!!!!
「あぶっ……!?」
教皇デクトルは文字通り音速を超えて遥か彼方へと吹き飛んでいき、反対側の壁に深くめり込むと、白目を剥いて完全に一発で気絶した。
それだけでは終わらない。
私の放った『漆黒連撃』の余波による凄まじい衝撃波が、大聖殿の巨大な大理石の柱を、精緻な彫刻が施された壁を、そしてきらびやかな神殿群のすべてを、まるでドミノ倒しのように次々とバキバキに粉砕・崩壊させていく。
ガラガラガラ……、ドガシャァァァン!!
激しい轟音とともにすさまじい土煙が晴れた時、そこには歴史的な大聖殿の面影は一切なく、文字通り、ただの一面に広がる「綺麗な更地(平地)」が完璧に完成していた。
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(次回更新:明日19時40分!)




