第30話 絶対の盾と、注文が多すぎる国境の爆走
正しい方角へと軌道修正し、時速百キロを超える人間離れしたフルスロットルで夜の街を大爆走してきた私。
「はい、到着だよ」と、ようやく足を止めてサバサバとサースお兄さんとラヴル殿下を地面に下ろすと、そこは聖地を守護する巨大な城門の前だった。
「ひえええ……死ぬかと思った……」
「肺が、肺の空気が全部持っていかれた……」
髪を完全なオールバックにされ、涙目で地面に這いつくばる二人のカーナビ(騎士と王子)。
そんな私たちの前に、城門を守る神殿騎士たちが一斉にジャラリと武器を構えて立ち塞がった。だが、彼らは私の横でフラフラと立ち上がった人物の顔を見た瞬間、一斉に息を呑んだ。
「な、なぁおい……あそこにいらっしゃるのは……」
「あぁ……間違いない、ラヴル殿下だ……。洗脳が解けたのか……?」
ざわめきが広がる中、騎士たちは顔を見合わせ、苦渋の表情を浮かべた。そしてカチャン、カチャンと、誰からともなく次々に剣を鞘に納め、私たちのために無言で道を開け始めたのだ。
現教皇デクトルの横暴な悪政に、元々強い疑問を抱いていた彼ら。正当な王位継承者であるラヴル殿下に、どうしても刃を向けることはできなかったらしい。
しかし。その騎士たちの先頭で、身の丈を超える巨大な大盾をドカンと地面に据えた大柄な男――ラディン・パルシード聖殿騎士団長だけは、一歩も動かずにリザたちの前に立ちはだかった。
「ラヴル殿下といえど、現教皇デクトル聖下の許可が無い者はお通しできません。……お引き取りください」
ラディン団長の頑なな言葉に、ラヴル殿下が前に出て叫んだ。
「ラディン! お前だってデクトルが間違ったことをしているのは分かっているはずだ! あいつがやっている闇属性の間引きや無理な婚姻は、神の教えでも何でもない! なぜ、あんな奴に従うんだ!」
「……私に政治の正邪は分からぬ」
ラディンは表情を変えず、ただ静かに大盾を握り直した。
「だが、我が主は法であり、今の教皇はデクトル聖下だ。騎士の誓いを破るわけにはいかん。……お引き取りください。ラヴル殿下を傷つけるのは、私の本意ではありません」
「ラディン、目を覚ませ!」
今度はサースが身を乗り出して叫ぶ。
「プリシラが、君の守るべき民が、あの生臭教皇の野心の犠牲になろうとしているんだぞ!」
「去れと言っている! わが光の結界は、何者をも通さぬ絶対の盾なり!」
ラディンが吠えると同時に、彼の身体から溢れ出た聖なる魔力が、何重もの強固な神聖結界となって大盾の前に展開された。それは彼の頑なな意思そのもののように、一切の妥協を許さない拒絶の壁だった。
ラヴル殿下とサースが必死に説得を続けるが、ラディンは頑として耳を貸さない。
しんと静まり返った夜の城門前で、一向に進まないシリアスな問答。後ろでそれを見ていた私は、ついにしびれを切らして、ハァと大きいため息をつきながら一歩前に出た。
「やれやれ、あのおじさん、前世の近所に住んでたゴミの分別にうるさい頑固な爺さんそっくりだねぇ。このまま話し合っていたら、夜が明けちまうよ。ちょっと私がサクッとどかしてあげるね」
私がサバサバと袖を捲り上げると、ラヴル殿下が血相を変えて私を引き止めた。
「ま、待て、リザ! ラディンは根は忠義の男なんだ! デクトルに付き従っているとはいえ、決して悪人ではないんだ! 頼む、殺さない程度の手加減をしてやってくれ!」
「また手加減かい!! 本当に注文が多いねぇお兄ちゃんたちは! 骨が折れるよ、まったく!」
ワンオペのバイトに対して、過度なマナーと手加減を要求するクレーマー気質のカーナビたちに愚痴をこぼしつつ、私は肩をすくめた。
体内の黒属性魔力を拳の表面に薄く、本当に薄くヴェールのように纏わせると、空手の『基本の構え』をスッと静かに取る。
――その刹那。私の身体は夜風を置き去りにして、ラディンの目の前まで一瞬にして肉薄していた。
「なっ……速――」
ラディンの目が驚愕に見開かれる。だが、彼は長年の経験から即座に大盾を構え直し、光の魔力を最大まで引き上げた。
「神聖結界の最高峰……破れると思うなァァ!!」
「破るんじゃないよ」
私はサバサバと言い放ち、腰を鋭くひねって拳を突き出した。
「――壊すんだよ!」
ドニムの部下を沈めた時よりも、さらに絶妙に手加減を施した私の渾身の『正拳突き』が、ラディンが構える巨大な大盾のド真ん中へと真っ直ぐに突き刺さる。
ズドォォォォォォン!!!!!
夜の城門全体を激しく揺るがすほどの、凄まじい大爆音が響き渡った。
ラディンが国最強と誇った「絶対の盾」は、私の拳が触れた瞬間にバキバキバキィ! と派手な音を立ててひび割れ、まるでただの脆いガラス細工のように粉々に弾け飛んだ。
「ごふっぁ!?」
何重にも張り巡らされていた神聖結界ごと防御を完全にへし折られたラディンは、私の拳が放った凄まじい衝撃波と風圧だけで後方の分厚い城門へと容赦なく叩きつけられた。そして白目を剥いたまま、武器も盾も失ってその場にどさりと崩れ落ち、一撃で完全昏倒した。
ラディンの誇る大陸最高峰の絶対防御を、ただのパンチ一発で、文字通り「お煎餅」のようにパリンと粉砕した私。
「…………」
周囲で見守っていた一般の神殿騎士たち、そして後ろにいたサースとラヴル殿下は、国最強の盾が一瞬で消し飛んだあまりに理不尽な光景に、開いた口が塞がらないまま完全に化石のように硬直していた。
「た、ただの……パンチ、だと……? 結界ごと、あのラディンの大盾を完全に粉砕したというのか……」
ラヴル殿下がガタガタと震えながら呟く。
「よし、邪魔者はもういないよ。お兄ちゃんたち、プリシラちゃんを助けに行きましょ」
私は何事もなかったかのようにサバサバと言うと、服についた埃をパンパンと払い、粉々になった城門の奥へとスタスタと足を進めるのだった。
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(次回更新:本日23時40分!)




