第29話 真逆の南大通りと、時速百キロのカーナビゲーション
気絶した男二人を両脇に抱えたまま、私は夜の街の真ん中にある、綺麗な噴水広場へと辿り着いた。
「まあ、慌ててもしょうがないかねぇ。お腹が空いてちゃ戦はできないよ」
私はそうサバサバと呟くと、脇に抱えていたサースとラヴル殿下の二人を、広場のベンチにまるで米俵か何かのように雑にごろ寝させた。
そして、マジックバッグからガルドに貰った初荷のリンゴを一つ取り出す。噴水の縁に腰かけると、夜空の月を見上げながら、シャキッ、シャキッと瑞々しい音を立てて美味しそうに食べ進めた。
丸ごと一個、綺麗に平らげた私は、芯をゴミ箱にポイと捨てる。
「あー、美味しかった。……さて、聖地とやらの場所はさっぱりわからないけど。こっちは街灯が明るくて道がキレイだから、とりあえずこっちに歩いてみようかねぇ」
私は再び、ベンチで眠るサースとラヴル殿下の二人をひょいと両脇に抱え直した。
そして、完全に勘だけを頼りにして選んだ、綺麗に整備された広い大通りを、フフフ〜ンとご機嫌な鼻歌混じりでスタスタと歩き出した。
しばらく夜道を歩いていると、左右の脇の下から「う……うむ……」「ここは……?」と、二つのくぐもった声が同時に響いた。
サースとラヴル殿下が、同時に目を覚ましたのだ。
徐々に意識がハッキリしてきた二人は、自分たちが十二歳の黒髪美少女に両脇から挟まれ、地面から浮いた状態で軽々と運ばれているという、前代未聞の事実にようやく気がついた。
「リ、リザ!? 頼むから一度離してくれ! お、俺は一体……って、殿下も無事なのか!? ――というか、待て、ここはどこだ!?」
サースがジタバタと暴れながら周囲の景色を見回す。
ラヴル殿下もまた、頭を押さえながら視線を巡らせた。
「うう、頭が激しく痛む……。だが、私の洗脳は解けたようだな。それにしても、この見覚えのある街並みと大通りは……王都の『南大通り』ではないか?」
二人は夜の大通りの景色と建物の配置を頭の中で繋ぎ合わせ、次の瞬間――顔面をいっぺんに蒼白にして、ハッと同時に息を呑んだ。
「な、何で聖地と【真逆】の方向へ歩いているんだァァァッッッ!?!?!?」
二人の息の合った絶叫が大通りに木霊する。
私は歩みを止めることなく、サバサバとしたいつもの調子で左右の顔を見つめた。
「おや、二人とも起きたかい。いやあ、聖地がどっちか分からなくてさ。道が広くてキレイだから、こっちかなと思って適当に歩いてたんだよ」
「適当に歩くな!! 聖地は大聖堂から見て『真北』だ! ここは『真南』の国境側だぞ! 目的地からどんどん遠ざかっているじゃないか!!」
サースが魂のツッコミを炸裂させる。
「その通りだ! このままだとデクトルの婚姻儀式が始まってしまう! 戻るぞサース、急ぐんだ!」
ラヴル殿下も血相を変えて焦りだす。
二人に正しい現在地と方角を教えてもらい、私は「なんだ、北だったのかい」と、合点がいったようにポンと手を打った。
「よし、方角が分かったなら話は早いよ。お兄ちゃんも王子様も、これからスピードが上がるからさ、絶対に舌を噛まないように気を付けなさいよ!」
「え?」「な、何を――」
私は暴れる二人をさらにガッチリと脇の下にホールドし直すと、両足の筋肉へ、黒属性の魔力を限界近くまでギュッと濃縮させて籠めた。
ドンッッ!!!!
大通りの石畳を爆破するような凄まじい踏み込みとともに、私は正しい方角である「真北」へと向かって、時速100キロを軽く超えるフルスロットルでの猛爆走を開始した。
景色が一瞬で後ろへとすっ飛んでいく。
「ひえええええええええええええええっっっッッッ!?!?!?!?」
真正面から受ける凄まじい風圧と未知のG(重力)に、国一番の聖堂騎士と国の最後の希望であるはずの王子様が、髪をオールバックにされながら情けない悲鳴を上げて夜の王都に消えていくのだった。
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(次回更新:本日21時40分!)




