第3話 十二歳の還暦と、高収入の極上バイト
それから七年の月日が流れた。
私、リザ・ウェカムは、本日めでたく十二歳の誕生日を迎えた。
鏡を見れば、そこに映っているのはツヤツヤの黒髪をなびかせる、どこに出しても恥ずかしくない清楚な美少女である。
――だが、中身の精神年齢はついに還暦(六十歳)の大台を突破した。
見た目と中身のギャップが完全に大事故を起こしているわけだが、そんな私の目下の悩みは、とにかく「退屈すぎる」ということだった。
五歳のあの誕生日以来、私は暇を見つけては町のサンドバッグ(チンピラ)を片っ端からボコボコに、もとい優しく矯正して回っていた。その結果、どうなったか。
町の悪党たちが、文字通り『完全に絶滅』してしまったのだ。
「あー……。今日も、びっくりするほど平和だねぇ」
おかげで私の「黒属性チート」を発散する場所が、こののどかな国には一箇所も残されていない。
私は縁側でバキバキに凝り固まった肩を回すと、よっこらしょと重い腰を上げた。
「ちょっとそこまで、散歩にでも行ってくるかねぇ」
家を出て町を歩けば、四方八方から明るい声が飛んでくる。
かつて周辺の街道を荒らし回って恐れられていた凶悪な盗賊団の面々は、今や私にワンパンで更生させられ、クワを片手に楽しそうに農作業(オーガニック野菜栽培)に勤しんでいる。
さらに、地元のチンピラ上がりの男たちは、私の姿を見かけた瞬間、音速で地面に額を擦り付けるとそのまま一糸乱れぬ動きで逃げ出していった。
そう、今や私はこの町の誰もが知る、絶対的な英雄にして超人気者なのである。
「やれやれ……。どこかに一人くらい、骨のある元気な悪党でも落ちてないかねぇ……」
老婆のような独り言を呟きながらトボトボ歩いていると、「おーい、リザちゃん!」と威勢のいい声に呼び止められた。地元の果物屋のおばちゃんだ。
「リザちゃん、今日も可愛いねぇ! ほら、もぎたてのリンゴあげるよ、おいで!」
「お、おばちゃん、ありがと」
私はお礼を言うと、受け取った真っ赤なリンゴをそのままワイルドに丸齧りした。シャキッと甘い果汁が口に広がる。
と、その時、果物屋の店先にベタベタと貼られている一枚の派手な広告が、私のオタクの勘にピピッと引っかかった。
「おばちゃん、これ何?」
「あぁ、それかい? 傭兵募集のチラシだよ」
おばちゃんは困ったように眉をひそめ、ため息をついた。
「なんでも、隣のルナリア王国がねぇ……例の凶悪な侵略国家『ヴァルハイト帝国』から攻め込まれてるらしくて、強い傭兵をかき集めてるんだってさ。本当に嫌な世の中だよね。うちの国も、いつかあの帝国に侵略される日が来ちまうのかねぇ……」
その瞬間、私の目はキラーン☆と、本日一番の眩しさで邪悪に輝いた。
(キタキタキターーーー!! 私のチート能力を、倫理的なリミッターを全部外して全力で発散できる戦争イベント、ついに発生じゃん!!)
「おばちゃん、この広告もらうね!」
「えっ? あ、ちょっと、リザちゃん!?」
引き止める声を背に、私はチラシをバリッと力任せに剥ぎ取ると、すぐさま自宅に向かって脱兎のごとく走り出した。
家に滑り込むなり、私はワクワクが止まらない顔でクローゼットを開け、愛用の装備や最低限の着替えを爆速でリュックへと詰め込んでいく。
「ちょっと、リザ? そんなに慌てて荷物をまとめてどうしたの?」
奥から不思議そうな顔で出てきたお母さんに、私はリュックを肩に背負い、不敵な笑みを浮かべて親指を立てた。
「お母さん、ちょっと高収入のバイトに行ってくるね!」
まるで「これからコンビニに夜勤のシフト行ってくるわ」くらいの信じられないほど軽いノリで、私は全力で家を飛び出した。
待ってろよ、ヴァルハイト帝国。
中身が還暦を迎えた12歳の黒属性チートが、そっちの自慢の軍隊をまとめて綺麗に更地にしてやるからね!
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