第22話 最強の自爆魔法と、手のひら返しの大魔導士
新しく覚醒した超高性能GPSナビ(ガルド)の完璧なルート案内に従い、私たちはついに盗賊団『終焉の凶刃』の本拠地である総本山の砦へと辿り着いた。
「よし、サクッとボコして物価高を直そうかねぇ!」
と、拳をパキパキ鳴らしながら砦の重厚な門をくぐった私だったが、そこには予想外の光景が広がっていた。
砦の敷地内はしんと静まり返っており、中にいたはずの盗賊の雑魚たちが、あちらこちらで軒並み泡を吹いて倒されていたのだ。
「ありゃ? 先客かねぇ?」
私がサバサバと首をひねりながらガルドと共に歩みを進めると、砦の最奥にある大広間から、鼓膜を震わせるほどの凄まじい爆発音と、激しい戦闘音が轟いてきた。
慌てて駆けつけ、大広間の扉の隙間から中を覗き込む。
そこでは、私と同い年くらいに見える金髪のエルフの女性魔導士が、手配書のボスそのものである黒髪の双剣使い――首領ディザスと、空間が歪むほどの激しい魔法戦を繰り広げていた。
しかし、戦況はどう見てもエルフの少女が防戦一方で、非常に苦戦している。
「くっ……! はぁ、はぁ……! 流石は『終焉の凶刃』の首領、と言ったところか……。その闇の双剣、伊達じゃないね……!」
エルフの少女はボロボロになったローブを翻し、肩を激しく上下させて息を切らす。
対する黒髪のディザスは、呼吸一つ乱すことなく淡々と禍々しい闇を纏った双剣を構え直した。その瞳は、どこまでも冷徹だ。
「お前ほどの腕を持つ魔導士が、なぜそこまでボロボロになりながら戦う。国のためか? それとも民のためか? 悪いことは言わない、引き下がれ。俺たちの邪魔をしなければ、お前の命までは取らん」
「ボ、ボクはこの国の『最強』を自負している大魔導士だからね……っ!」
少女は震える足で必死に大地を踏み締め、杖を握り直す。
「国の未来を、無辜の民の命を脅かすお前たちのような悪党を、ここで見過ごすわけにはいかないんだよ!」
「未来、か」
ディザスはふっと冷たい息を吐くと、再び鋭い踏み込みで風を切り裂き、エルフの少女を瞬く間に追い詰めていく。
「そのお前が守りたい民とやらも、結局はただの弱者だ。強者がすべてを支配し、弱者から奪うのがこの世界の現実だ。お前が掲げる『正義』とやらは、俺のこの絶対的な力を前にして、一体何を守れるというんだ?」
ディザスの容赦ない双剣の猛攻が放たれる。エルフの少女は展開した光の防御魔法でそれを受け止めるが――パリン! とガラスが割れるような乾いた音を立てて防壁が砕かれ、彼女の小さな身体が後方へと派手に吹き飛ばされた。
「うるさい……っ! 正義は力なんかには屈しない! ボクは……ここで退くわけにはいかないんだよぉ!」
床を転がりながらも、少女は執念で立ち上がる。
だが、通常の魔法ではこの怪物には絶対に勝てないと、彼女のプライドが、そして本能が悟ってしまった。
(うわ、あのエルフの子の目……完全にラノベで10万回は見た『勝ち目のないラスボスを道連れにするために命を燃やすイベント』の目じゃん!)
私が後ろでハラハラしながら見守っていると、エルフの少女は悲壮な覚悟を決めた顔で、自身の全魔力を体内で逆流させ、完全大開放し始めた。
自爆を代償とした禁忌の最終手段――『マナバースト』の起動だ。
彼女の小さな身体の表面に、破滅的な光のヒビがバキバキと走り出す。周囲の大気が、触れるものすべてを消滅させるほどの高熱を帯び始めた。
少女は溢れる涙をボロリとこぼし、ぽつりと寂しそうに呟いた。
「……ごめん、キアラ。約束、破っちゃうな……」
(うわぁぁぁ! 誰だよキアラって! 故郷の親友か誰かとの回想フラグまで完璧に回収しちゃったよ! 泣かせるねぇ!)
心の中で限界オタクが悶絶している。エルフの少女は涙を拭うと、決意に満ちた目でディザスを真っ向から睨みつけた。
「ボクは大魔導士アリア・クブル! 悪いけど――この国のために、一緒に死んでもらうよ!!」
アリアがすべての命を光の爆発に変えて解き放とうとした、その瞬間。
凄まじい光が荒れ狂う大広間のド真ん中へ、私はリュックを背負ったまま、スタスタといつも通りのサバサバした足取りで歩いて入っていった。
「あ、お疲れ様ー。なんかかなり苦戦しているみたいだけど、私、助太刀してもいいかねぇ?」
「――えっ?」
あまりにも場違いで気の抜けた声に、大魔導士アリアは思わず素に戻ってしまい、暴走させていた自爆魔法をズッコケるようにピタッと止めてしまった。
「こ、子供……!? こんな、こんな危険なところで何をしているんだ!? 今すぐ逃げろぉ!!」
アリアが血相を変えて叫ぶ。
しかし、冷酷な首領ディザスはその一瞬の隙を見逃さなかった。
「戦場で余所見とは、大魔導士の名が泣くな」
ディザスは淡々と双剣を突き出し、アリアの無防備な胸元へ向けて、直撃すれば即死確実の漆黒の極大闇魔法を放った。
「しまった……っ!?」
アリアが絶望に目をみはる。
ガキィィィィィン!!!
「あちちちちっ! おい、今の結構熱いじゃないか! 服に煤がついたらどうすんのさ!」
アリアの目の前で、私がその即死級の闇魔法の前に片手一本で割り込み、肉体(黒属性チート)で無理矢理ガチッと受け止めて霧散させていた。
「なっ……、へっ……!?」
目の前で起きた理不尽な光景に、アリアの思考が完全に停止する。
しかも次の瞬間、アリアの魔力探知が、私の体内の奥底からモクモクと漏れ出している「人知を超えた終末レベルの黒属性魔力」をビンビンに感知してしまった。
ガタガタガタガタ……!
アリアの全身から悲壮な覚悟が消え去り、今度は私の恐ろしさに冷や汗を流しながら、生まれたての小鹿のようにガタガタと震えだした。
「あ、あの……すみません! 助太刀、ですよね……!? ってことは、敵はあの、あそこにいる黒髪の生意気なディザスですよね……!? どうぞ! あのディザスは、今日から全面的にあなたに差し上げます!!」
アリアは先ほどまでの「国を背負う大魔導士」のプライドをサバサバとドブに投げ捨てると、凄まじい爆速のステップで、私から一番離れた安全圏の部屋の隅っこまで一瞬で退避した。これ以上ない見事な手のひら返しである。
「あ、いいの? ラッキー。お姉さん、話が分かる人で助かるわぁ」
私はサバサバと微笑むと、今度は表情を完全に無くしたまま固まっているディザスの元へ向かって、スタスタと軽い足取りで歩み寄っていった。
「さてと。大ボスのディザスさん。あんたのせいで地元の果物屋のリンゴが値上がりしてさ、私、本気で大激怒してるんだよね。……じゃあ、サクッと更地になってもらおうか!」
私は腰を落とし、空手の基本技である突きの手をカチッと構えた。
最大犯罪組織の首領ディザスとの、第二章最終決戦の幕が上がる――。
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(次回更新:明日19時40分!)




