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第21話 相棒の覚醒と、手薄なルートを吐く元幹部

「ごふっ……、がはっ……」


私の『正拳突き』を腹部にクリーンヒットされ、砦の頑丈な石壁に深々と埋まっていた緑髪の魔法剣士ジェイド。

彼が縄でグルグル巻きのミノムシ状態に縛り付けられた状態で、ようやく目を覚ました。


先刻までの「この世は弱肉強食ドヤ顔」は一体どこへやら。

目の前に立つ十二歳の私から放たれる、理不尽なまでの圧倒的な黒属性魔力を前に、彼のプライドは跡形もなく完全に粉々にへし折れていた。


ジェイドはガタガタと震えながら、私とガルドの足元にしがみつき、涙目になりながらみっともなく命乞いを始めた。


「ま、待ってくれ! 悪かった! 俺が悪かったよ! 命だけは、命だけは助けてくれ! ガルド、お前とは幼馴染みだろ!? 俺たちは本当の兄弟みたいに育ってきたじゃないか! 頼む、見捨てないでくれ、ガルドッ!」



鼻水と血を垂らしながら、無様にジタバタと懇願するかつての兄貴分。

ガルドは怒りに拳を震わせる……かと思いきや、すっと静かに炎の剣を鞘へと収めた。その横顔には、もう先ほどまでの激しい憎悪はなかった。


「……こんな奴、もう殺す価値も無いな」


「え?」

ジェイドが呆気に取られた声を上げる。ガルドは無様な元幹部を見下ろし、どこか吹っ切れたような穏やかな息を吐いた


「俺が今までずっと追っていたのは、父親を裏切った過去の幻影だ。……こんな情けない男をここで斬ったところで、あの世の父さんは少しも喜ばない」


ガルドの身体から、ドロドロとした復讐の呪縛が綺麗に消え去っていく。男として一回りも二回りも大きな精神的成長を遂げた瞬間だった。


(いいねいいねーーー!! 『復讐に囚われていた熱血主人公が、落ちぶれて無様になった敵の姿を見て、復讐の虚しさを知り精神的に大人の階段を登る』テンプレ!! 素晴らしい神イベントを特等席で生観戦しちゃったよ!)


私は横でウンウンと深く頷きながら、心の中でペンライトを振り回してキャッキャとはしゃいでいた。これだからラノベの同行イベントの回収はやめられない。


「はいはい、男の熱いドラマはそこまでね」


私は現実に戻ると、ジェイドの前にサバサバとしゃがみ込んだ。笑顔の裏から、あえて帝国のゴーレムを更地にした時の凄まじい威圧感をジワリと漏らしてみせる。


「あんたの命なんてこれっぽっちも興味ないからさ、さっさとボスのディザスの居場所を吐きなさい。物価高の原因を根本から叩き潰さないと、おばちゃんバイト代(賞金)が貰えないのよ」


「ひっ……!? い、言う! 何でも喋るからその拳を引っ込めてくれ!」


首領ディザスをあれだけ狂信していたはずのジェイドだったが、自分が助かりたい一心であっさりと寝返った。

ディザスの本拠地である総本山のアジトの場所から、防衛システムの手薄な秘密のルートに至るまで、信じられないほどの早口でベラベラと喋りだした。


「なるほどねぇ、本拠地はここか。よし、じゃあサクッとボコしに行こうかね!」


私がジェイドから聞き出した情報をもとに地図を広げて確認していると、ふと思いついた。わざわざこの男を自分で町まで連れ戻すのは、バイト(討伐)の時間が長引いて昼寝の時間が遅くなるから面倒だ。


「ガルドくん、この男の賞金はあんたにあげるよ。街まで連れて行きな」


「――待ってくれ、リザさん」

ガルドが慌てて私を呼び止めた。

「1人でディザスの所に行くつもりか? ……頼む、俺も最後まで連れて行ってくれ!」


「ん? いいけど、いいの? 父親の仇であるジェイドへのケジメは、もう立派に終わったんでしょ?」


「ああ、ジェイドへの復讐心は消えた……」

ガルドは自分の拳を見つめ、苦笑しながら自嘲気味に言葉を続けた。

「だけど、あのジェイドを怪物に変え、この大陸の物流を脅かしている大元凶のディザスを、どうしても見過ごすわけにはいかないんだ」


ガルドは顔を上げ、まっすぐな瞳で私を見据える。そこには絶望を乗り越えた上での、真の武人としての「大人の覚悟」が宿っていた。


「ジェイドにすら敵わなかった俺が、首領ディザスに勝てるはずがない。そんなことは百も承知だ。……だけど、絶対に足手まといにはならないと誓う。あんたが、あの巨悪をぶった倒すところを、この目でしっかりと確かめたいんだ。だから……最後まで、あんたの案内をさせてくれ!」


(うわぁぁぁぁぁ!!!!! 『自分の力不足を完全に自覚した上で、それでもなお世界のためにラスボス戦への同行を志願する最高に熱い相棒ポジション』!!! 完璧!! 完璧なラノベの終盤の展開じゃん!! 最初の頃はため息ばっかりついてたカーナビくんが、見違えるほど良いツラ構えになりやがって……! 泣かせるねぇ!)


心の中の還暦(60歳)オタクが感動のあまり大号泣している。


「いいよ、合格!」

私はニヤリと不敵に笑うと、快くサムズアップしてみせた。

「元からお兄さんがいないと、私の方向音痴じゃ目的地に辿り着けないからね。それに……そこの諸悪の根源をぶっ潰して物価高を元通りに直すまでが、私の今回の高時給バイトだからさ!」


私は最後に、ジタバタと怯えているジェイドに向き直った。


「あんたはここで大人しく縛られてなさい。帰りに町の衛兵所に寄って、『あそこの古い砦にいい感じの賞金首が落ちてますよ』って通報してあげるからさ」


「えっ、置いていくのか!?」と絶望するジェイドを無視して、私たちは彼を砦の太い柱に頑丈に縛り付けたまま放置することにした。これなら後で衛兵が回収にきて、ガルドの口座にちゃんと賞金が振り込まれるはずだ。


パシィィン! と、私は気合を入れるためにガルドの背中を強烈に叩いた。


「ぐはっ!? ……あ、ああ! 案内なら任せてくれ!」

ガルドは肺の空気をすべて吐き出しながらも、嬉しく誇らしげに笑った。


こうして、精神的に覚醒した真の相棒(超高性能GPSナビ)と共に、私は最大規模の盗賊団の総本山――ディザスの待つ最終決戦の地に向けて、力強く歩き出すのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日18時40分!)

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