第20話 弱肉強食の弁明と、大人の言い訳を砕く正拳
ガルドの完璧なルート案内に従い、私たちはついに北の山際にある古い砦へと到着した。
目の前には、外壁がボロボロに崩れかけた石造りの要塞。周囲の物陰からは、いかにもガラが乱暴そうな『終焉の凶刃』の構成員たちが、武器を手にワラワラと湧き出てくる。
「早くこのバイトを終わらせて、家に帰って昼寝したいんだよねぇ」
私はそんなサバサバとした個人的なモチベーションだけで、作戦もクソもなく真っ正面から砦の正面玄関へと突入した。
「おい、クソガキがぁ!」「ぶち殺して――」
「はいはい、おばちゃん急いでるからねー。どいたどいた!」
私は迫りくる盗賊の雑魚たちを視界に入れると、手足に黒属性魔力を纏わせ、流れるような動作で『正拳突き』や『ローキック』を淡々と繰り出した。
触れた先から、雑魚盗賊たちは砦の頑丈な石壁ごと物理的に吹っ飛んでいき、サクサクとガラクタのように片付いていく。
「な……、おい、待ってくれ! あんた一体何なんだ……!?」
後ろからついてくるガルドは、私のあまりの処理スピードの速さと理不尽な破壊力に、完全に引きつった顔でドン引きしていた。
そのまま砦の最奥にある重厚な大扉を、私が蹴り一発でドカンと派手にぶち破る。
砂煙が舞い散る部屋の奥、豪奢な椅子に深く腰掛け、傲然と待ち構えていたのは一人の男だった。
不敵な笑みを浮かべ、二振りの風の双剣を携えた緑髪の魔法剣士――手配書に載っていた『終焉の凶刃』の幹部、ジェイド・フィティスその人である
「よう、ガルド。まさかここまで這い上がってくるとはな」
父親の仇が視界に入った瞬間、ガルドの全身の血が激しく沸き立ち、その身体から凄まじい復讐の炎が噴き出した。
ガルドは怒りに肩を震わせながら、私の前に出て深く頭を下げた。
「リザさん、お願いだ……! ジェイドだけは、あいつだけは俺にやらせてくれ!」
(お、ラノベ中盤の最高潮! 『因縁のライバルとの一対一イベント』発生じゃん!!)
私は心の中でキャッキャと限界オタクの喜びを爆発させつつも、見た目はサバサバとした大人の余裕を崩さずに快諾した。
「いいよ。男のケジメでしょ。私は後ろで見学させてもらうから、思う存分やり合いな!」
「感謝する!」
ガルドが炎を纏わせた剣を構え、ジェイドが風の双剣を鋭く交差させる。
「死ね、ジェイドォォォ!」
「ハッ、やってみろよ、無能な弟分が!」
二人の実力者の刃が激突し、火花と突風が部屋中に吹き荒れた。
ガルドの怒りの炎剣もかなりの威力だったが、ジェイドの風属性のスピードと手数の多さはそれを遥かに凌駕していた。さらに、首領ディザスに直々に鍛えられたというジェイドの戦術は極めて凶悪かつ合理的。ガルドは徐々に体力を削られ、劣勢へと追い込まれていく。
激しい剣戟の合間、ガルドが血を吐き出しながら叫んだ。
「ジェイド……! なぜ父さんを裏切った! なぜあんな卑怯な真似をして、盗賊なんかに身を落としたんだッ!」
「ハッ、相変わらず生真面目だねぇ、ガルド!」
ジェイドは風の双剣でガルドの猛攻をいなしながら、冷酷に嘲笑う。
「あのまま全員で無駄死にするのが、お前の言う『正義』か? 俺はただ、確実に生き残る道を選んだ。それだけの話さ!」
「あの日……お前が父さんを刺さなければ、俺たちは全員で戦って、生き残れたかもしれないんだぞ!」
「寝言は寝て言え! 圧倒的な軍勢を前に剣を抜くなんて、ただの自殺志願だ!」
ジェイドの目が残忍に光る。
「……なぁガルド、お前、ディザス様に何て言われたか知ってるか?」
「……なんだと?」
「ディザス様は俺に言ってくれたんだよ。『ガルドの父親を殺したのはジェイドではない。父親の無能な正義感と、ガルドたちの無謀さだ。ジェイドはただ、ガルドたちが呼び寄せた死神の鎌を、代わりに振るったに過ぎん』ってなぁ!」
「な、にい……っ!?」
ガルドの動きが、衝撃のあまり一瞬だけ鈍る。ジェイドはその隙を見逃さず、風の刃でガルドの太ももを深く切り裂いた。
「その通りだろ!? あの時、親父の無能な正義に付き合ってたら、俺も死んでた! 俺を救ってくれたのは首領ディザス様の圧倒的な力、そしてこの思想だ!」
ジェイドは勝ち誇り、満身創痍のガルドを冷酷に見下ろした。
「この世界は最初から不平等なんだよ!この世は弱肉強食! 自分から奪う側に回らないと、何もかも奪われるようになっているんだよ!」
「くそっ……! お前は、ただ自分の卑怯な言い訳を、そのディザスって男の言葉で誤魔化しているだけだぁぁーー!!」
怒りに我を忘れたガルドが、大振りの一撃を放つ。だが、それはジェイドの計算通りだった。
「ほら見ろ。その無謀さが命取りだって言っただろ?」
ジェイドは軽やかにその一撃をかわすと、ガルドの懐へと滑り込み、その風の双剣を喉元へと突き出した。
「さようならだ、ガルド。あの世で親父の『無能な正義』と、せいぜい反省会でもしてな!」
「しまっ――」
満身創痍のガルドへ、冷酷なトドメの刃が振り下ろされる。
――その直撃の、まさに一瞬前。
ガキィィィィィン!!!
「……は?」
ジェイドの風の双剣が、強固な何かによって真っ向から遮られた。
凄まじい踏み込みで二人の間に割り込んだのは、私だ。私は黒属性の魔力を籠めた右手の平で、ジェイドの双剣をあっさりと素手で弾き飛ばした。
「はい、そこまで。選手交代ね」
私は驚愕に目を見開くジェイドを冷ややかな目で見下ろすと、十二歳の清楚な美少女の見た目のまま、中身は還暦超えの渋いドスの利いたトーンで言い放った。
「弱肉強食だの、奪う側だのさぁ……。自分の保身のための卑怯な大人の言い訳なんてさ、前世のニュースでもう聞き飽きてるんだわ。他人のせいにばっかりしてないで、自分の足で立ちなよ、薄情者が」
「な、何なんだお前はァァァ!」
焦ったジェイドが風の魔力を最大まで高めて斬りつけてくるが、キレたガチ空手家の前にはただの羽虫同然だった。
私は腰を深く落とし、黒属性魔力全開の強烈な『正拳突き』を、彼の腹部へとドンッ! と容赦なく叩き込んだ。
ドゴォォォォォォォン!!!
「ごふっぁあ!?」
首領ディザスに直々に鍛えられたはずの精鋭幹部ジェイドは、私の理不尽な暴力の前に一撃で白目を剥き、砦の頑丈な石壁へと文字通り深々と埋まり、そのままカチコチに完全KOされた。
「ふぅ。スッキリしたね。さあ、次に行こうかねぇ」
私がサバサバと服の埃を払っている横で、復讐の相手を一瞬で消し飛ばされたガルドは、ただただ呆然と口を開けてフリーズしているのだった。
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(次回更新:明日19時40分!)




